自傷少女狂崎狂華の初恋とリスタート

葵 希帆

 血

 血。

 それは血管の中を通り、体全体に栄養や酸素などを運び、また二酸化炭素や老廃物を運びために必要不可欠な赤い液体である。

 人の中に血液は男性で八パーセント、女性で七パーセントの量が含まれている。
 そしてその血液の約三十パーセントを失うと生命の危機が及ぶと言われている。

 それに血が赤い理由は赤血球の中に含まれているヘモグロビンのせいでもある。

 そんな体の中では血……血液はとても重要な物質と言えるだろう。



 ここはとある平屋の家の一室。

 ここはある少女の自室である。

 時刻は夜の十一時を過ぎたころ。辺りには人の姿はなく、夜と共にみな神隠しにでもあったかのように静かである。

 部屋には蛍光灯はあるが電気はついておらず、ただ月明かりだけがぼんやりと部屋の中を照らしていた。

 ここで少女は毎日の日課を行っている。


 それはリストカット。つまり自分で自分の手首を切る自傷行為である。


 少女は右手にカミソリを持ち、左手の手首に押し当てる。

 下には汚れてもいいようにプラスチックの桶や止血用のガーゼなど置いてある。

 カミソリのひんやりとしている刃が月明かりに照らされて鈍い光で光っている。
 この切る前のひんやりとしたカミソリの刃がとてつもなく心地いい。
 少女はその感覚を堪能していから迷いもなくカミソリの刃を引き、自分の手首を切る。

「……ン……」

 少女は歯を食いしばり痛みに耐える。そしてすぐに切られた手首から血が流れ出す。

 血は今まで体内を流れていたので生暖かく、そしてヌルヌルしている。
 手首からあふれ出した血は下に置いてある桶の中にしたたり落ちる。

 それを少女はまるで他人事のように眺めていた。

 もちろん血をたくさん失えば命を失う。でも少女の目はそんなことに興味でもないというかのような淡々とした目だった。

 むしろ流れ出す血を見て少女は嬉しかった。

 なぜならこの忌まわしい血が自分の中から抜けていくと思うとそれだけで嬉しい。

 その後ガーゼを当て、止血をし流した血は洗面所の中の排水溝に捨てる。
 もちろん、そのままでは洗面所が真っ赤なので綺麗に掃除をする。
 わざわざ家の人がルミノール反応があるかなんて調べないのでただ水で流すだけでいい。

 手首の止血を終えると今日の日課を終える。

 少女の左手首は血で真っ赤に染まっているガーゼが貼られている。

 すでに少女の手首には何百回、何千回にも及ぶリストカットの痕があった。

 古い傷がなくなる前に新しい傷が増えるので傷口がグチャグチャしている。

 だけどどんなに自分が傷つこうとリストカットは止めない、止められない、いや止めちゃいけない。

 なぜならそれが少女にとって唯一生きる意味なのだから。

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