妹が眩しくて

葵 希帆

 漆原莉奈

「浩輔君ってここら辺に住んでるの」
「そうだね。ここから少し離れた閑静な住宅街に住んでるよ」
「そうなんだ」
「由利さんはどこに住んでるの」
「この近くのタワーマンション。でもそんなに凄くないよ」
「そんなことないよ。ここら辺のタワーマンションってかなり人気の物件だよね」

 ただ黙って待っているだけだと空気が詰まるので、浩輔と由利は世間話をしていた。
 クラスメイトといえでもほとんど関わりがなかった二人。
 お互いの名前と妹がいるということしか知らなかった。
 浩輔の妹の汐音も学校では有名であり、由利の妹の莉奈も学校では有名である。
 そのため、妹のことはお互い知っていた。

「由利さんのタワーマンションってあそこ」
「うん、お恥ずかしいことながら」

 駅前からも分かるぐらい大きなタワーマンションが建っている。
 二十四階建てのタワーマンションは、駅前で一番高い建造物である。
 そのため否応なく目立つ。

「それよりも浩輔君は大丈夫?夕飯とか妹さんが待ってるんじゃないの」

 気づかわしそうに話しかけてくる由利。

「それは大丈夫。汐音は今彼氏の家にいるから」

 さすがにセ○クスのオールナイトのことは説明しなかった。

「えっ、汐音さん、彼氏さんがいるの」
「あれ、結構有名な話なんだけど」
「私、クラス事情に疎いから」

 汐音に彼氏がいることに驚く由利。
 てっきり、汐音に彼氏がいることは周知の事実だと思っていた浩輔は驚いた。
 教室にいる由利は一人でいることの方が良い。
 誰かと一緒にいる時は、ほとんど妹の莉奈が同伴していることの方が多い。

「お待たせ~お姉ちゃん。あれ、君は同じクラスの浩輔君じゃないか。なんか意外。お姉ちゃんがしかも異性と一緒にいるなんて。お姉ちゃんにも春が来たんだね。今秋だけど」

  二人が話していると、乱入してきた人物がいる。

「莉奈、別に浩輔君とはそういう関係じゃないよ。たまたま通りかかった浩輔君が話しかけてくれたの」

 由利が慌てて弁明を行う。

「なるほど、それでどうしてお姉ちゃんは浩輔君のブレザーを着てるの」
「ほぇ」
「これは由利さんが寒そうにしてたから貸していただけだよ」

 浩輔のブレザーを着ていることに目ざとく気づいた莉奈。
 その観察眼は浩輔も舌を巻いた。
 由利は予想外の口撃に変な声を上げて固まっている。
 見かねた浩輔は由利のために助け舟を出した。

「そうなんだ。それはありがとね」

 言葉では感謝しているが目が完全にからかっている人の目である。

 漆原莉奈。由利の双子の妹である。
 身長百六十半ばと由利よりも大きい。
 姉と同じ漆黒の黒髪で、耳より低い位置で結い上げるツインテール、カントリースタイルのツインテールだ。
 ツインテールだと幼い印象を持たれやすいが、莉奈の場合は幼さの中にアダルティが含まれていて艶めかしい。
 瑞々しい頬に人懐こい目。
 体はモデル体型で出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。
 推定Gカップ。
 その胸は高校二年生とは思えないほど成長している。
 同じ双子とは思えないほど成長格差がひどい。
 由利の引っ込み思案な性格と比べて、莉奈はとにかく社交的で友達も多い。
 由利が陰とすれば莉奈は間違いなく陽だ。

「あっ、そう言えば浩輔君は夕ご飯食べたの」

 さっきの話のことで気になった由利が浩輔に話しかける。

「ううん、まだだよ」
「……」

 由利の問いに答えた浩輔だが、由利はなにかをためらっているのか無言になる。

「なら浩輔君も一緒に食べに行こうよ。汐音ちゃんも誘って」
「汐音は今彼氏の家にいるからいないんだ」
「汐音ちゃんと木村先輩ってラブラブだよね。なら、浩輔君だけでも一緒にいかない。もちろん予定があるなら断っても大丈夫だよ」

 由利が言い出せなかったことを、簡単に言い出す莉奈。
 莉奈の凄いところは、相手に気を使いながら誘うということだ。
 決して無理矢理誘うことはしない。

「二人は大丈夫なの。せっかく姉妹水入らずなのに」

 浩輔も念のため二人の都合を聞く。

「あたしは大丈夫。友達が多いと楽しいし。お姉ちゃんはどう?」
「私も大丈夫だよ。浩輔君が嫌じゃなければ」
「それならお言葉に甘えさせてもらうよ」
「それじゃー決まりだね。レッツゴー」

 今後の予定が決まり、早速夕飯を食べに行く三人。
 莉奈が元気よく声を上げ、二人を先導する。
 夕ご飯は庶民の浩輔も優しいファミレスに決まった。

「浩輔君、これ返すね」
「大丈夫だよ。帰る時に返してくれれば」

 莉奈の後ろ、由利と浩輔はヒソヒソと話し合う。
 その後三人で夕ご飯を食べ、駅前で別れた。
 その時にブレザーを返してもらった。
 ファミレスでは終始莉奈が会話をリードしてくれるおかげで、気まずい空気にはならなかった。

 ただのクラスメイトから一歩心の距離が近づいた一夜だった。

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