妹が眩しくて

葵 希帆

 漆原由利

 漆原由利は同じクラスの目立たない女子生徒だ。
 身長百五十半ばと平均的な大きさで、日本人特有の黒いボブカット。
 目元もいつも前髪にかかっており、暗い印象を持っている。
 事実、由利は一人でいることの方が多い。
 目は丸く可愛らしいが、その可愛さも髪で隠れて半減している。
 頬にそばかすがあり、唇は薄い。
 双子の妹とは大違いである。
 由利には双子の妹、莉奈がいるのだが由利とは正反対な性格と見た目をしている。

 閑話休題。

 程よく肉付きがよく、少しだけまん丸だ。
 胸はあまり大きくはなく推定Aカップ。
 由利はクラスでも空気のような生徒だ。

 そんな由利が駅前で誰かを待っている。
 なぜ誰かを待っているのか分かったのかと言うと、しきりにスマホで時間を確認しているからだ。
 それに待ち合わせでなければ一人で歩いて家に帰っているか、来た電車に乗り込むだろう。
 そうしないのは、誰かを待っているのに他ならない。
 浩輔と由利の関係はただのクラスメイトだ。それ以上でもそれ以下でもない。
 だから、このまま無視して帰っても誰からも文句を言われる筋合いはない。

「……由利さん、寒いのかな」

 この季節だと日中は暑いが、夜はかなり冷える。
 そのため、夜のため防寒対策をしていないとかなり寒い。

「……うぅ~寒い」

 由利も寒さを紛らわせるために体を震わせながら寒さに耐えている。

「由利さん、こんばんは」
「こ、こんばんは。どうしたの浩輔君」

 浩輔は寒さに震えている由利を無視することができずに、話しかけた。
 いきなり話しかけられた由利は目を丸くして驚いている。

 それはそうだ。

 いきなり、教室でも会話しないクラスメイトが話しかけてきたら誰だって警戒する。
 それだけの関係なのに放って置けなかったのは、浩輔が兄だからだろう。
 手のかかる妹がいると、体が無意識にお節介をやいてしまう。

「誰か待ってるの」
「うん、妹の莉奈と待ち合わせしてるんだけど、まだ来なくて」
「もしかして遅れてるの」
「ううん、私が早く来すぎただけなの。私、友達がいないから」
「……」
「……」

 二人の空気が秋の夜のように凍る。
 もし相手が汐音だったら、茶化すこともできたのだが、クラスメイトの関係でしかない由利をからかうことはできなかった。
 それに、由利の自虐が鋭すぎて逆に浩輔の方が胸に刺さってしまった。

 ちなみに、名前で呼び合うのは仲良しだからではなく、お互い双子の妹が同じクラスにいるため呼び分けているだけである。

「……ご、ごめんなさい。私、会話下手だから」
「ううん。大丈夫、気にしないで」

 言ってはいけないことを言ってしまったと思った由利はオロオロしながら浩輔に謝罪する。
 浩輔もそんなことで気にする性格ではないので、今の由利の言葉は軽く受け流す。

「どうして浩輔君は私に話しかけてきたの」

 由利は会話下手だ。
 だから、悪意無くストレートに物事を聞いてくる。

「由利さんが寒そうにしてたから。これを着れば少しは温かくなると思うよ」

 浩輔は自分のブレザーを脱ぎ、由利に着させようとする。
 妹を持つ兄としての血が騒ぐのか、困っている人を見るとどうしても助けたいと思ってしまう。

「だ、大丈夫よ。寒くないから。……ヘクチュ」

 由利は浩輔の申し出を断ろうとするが、体は大変正直なためクシャミをこぼし浩輔に訴える。

「ほら、寒いだろ。莉奈さんが来るまでも着てて」
「でも……浩輔君に悪いよ。それに浩輔君が風邪を引いちゃうかもしれないし」
「僕は今まで温かくしてたからすぐには風邪を引かないよ。それに由利さんが風邪を引くと莉奈さんも困るでしょ」
「……」

 数分ブレザーを脱いだだけで風邪を引くような軟な体はしていない。
 それに浩輔は寒さに震えている由利の方が心配だった。
 姉の由利は妹のことを大切に思っている。
 だからこそ、莉奈のことを出されると弱い。
 兄や姉はどうしようもなく、妹や弟のことが好きな生物だ。
 由利はいろいろなものと葛藤しながら、恐る恐る浩輔のブレザーを受け取る。

「あ、ありがとう」

 はみかみながらブレザーを受け取る由利。
 いつもは目立たなく地味な彼女だが、はにかむ姿は可愛いかった。
 この笑顔を見られただけでも今日由利に話しかけて良かったと思う浩輔だった。

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