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僕の従者

葵 希帆

 葦の海の奇跡

これから三年間通う高校に到着した文哉は生徒数の多さに圧倒される。

「たくさん人がいるね。中学の頃とは全然規模が違うよ」
「気を付けてください文哉様。私のそばから離れないようにしてください」

 人の多さに呆然としている文哉に静香は文哉をかばうように、文哉をリードする。
 そんなことすれば目立つのは当然だ。
 しかも静香は長身の美少女である。校門を入るとすぐに静香の噂が話題を支配する。

「あの生徒、凄く背が高い」
「凄い大人びてる。同じ高校生とは思えない」
「しかも胸がでけー」
「あの男の子も小さくて可愛い。本当に高校生?」

 高校生の好奇な視線が文哉と静香に突き刺さる。
 女子は主に羨望の眼差しが多かったが、男子生徒の半分以上は欲情の眼差しである。
 主人である文哉は毎日、静香の体を見慣れているため男子が静香の体、主に胸を見て鼻の下を伸ばしているのか分からなかった。

「これだから男子は」

 どこかの女子生徒が鼻を伸ばしている男子生徒に呆れている。

「うるっせー。あんなに胸の大きな高校生なんてそうそういねーぞ」

 男子生徒も男子生徒で、静香の胸がいかに素晴らしいか語っている。

「文哉様。なぜ私たちはこんなにも注目を浴びているのでしょうか。まるでモーゼの葦の海の奇跡のようなのですが」

 静香は文哉を護衛しながら、まるでモーゼが海を割ったように開けている道を歩く。

「多分、静香ちゃんが魅力的だからだと思うよ」

 文哉が自分の推測を言った瞬間、静香の足が止まる。

「どうしたの、静香ちゃん」

 怪訝に思った文哉が静香の顔を覗くと、頬をほんのり赤く染めながら照れていた。

「もったいなきお言葉、ありがとうございます」

 文哉に顔を覗かれた静香は、冷静さを取り戻し文哉の前を歩き出す。
 なぜ静香が恥ずかしがっていたのか分からないが、はにかむ静香は可愛いなと思う文哉だった。



 その後、昇降口で上履きに履き替え教室に向かう。
 ちなみに組は一組で、静香が一人で確認してくれた。
 クラス表の前にはたくさんの人が溢れかえっており、ここに文哉を連れていくのは危険だと判断した静香が一人で見に行ってくれたのだ。
 静香は背も高く、胸も大きく目立つ存在だったので、ここでもモーゼの葦の海の奇跡が起こり、今まで群がっていた生徒が自主的に静かに道を譲った光景は壮観だった。

「一人で待っている時、なにもありませんでしたか」
「うん、なにもなかったよ。ちょっと心配しすぎ」
「すみません。どうしても気になるもので。もし文哉様になにかあったら私は生きていけません」
「もう、大げさだな」

 そんな一瞬でなにかが起こるわけがない。
 確かに一瞬の油断が命取りという言葉があるが、そんな瞬間が次々に起こるはずがない。
 自分のことをここまで気にかけてくれて嬉しいのだが、少し過保護な気もする。
 二人で歩く高校の廊下。
 歳が離れすぎてもう叶うことがないと思っていた静香との学生生活が今叶っている。

「……まさか静香ちゃんと一緒に高校に通えるなんて幸せだな」
「どうしました文哉様。顔がお赤いですよ。もしかして風邪ですか」
「そんなわけないじゃん。っちょ、こんな面前の前で熱を測らないで」

 静香はきっと従者として文哉の体調を心配したのだろう。
 静香は文哉の熱を測るため、自分の額を文哉の額に当てる。
 目の前にはドアップの静香がいる。

 綺麗な目に、きめ細かい肌。
 プルッとした唇はなんとも魅力的だった。

「確かに熱はないですね。……どうしました文哉様。顔がさっきよりも赤いですよ」
「もう、静香ちゃんの馬鹿」
「えっ……お待ちください、文哉様」

 静香に額で熱を測られた文哉は、心臓が高鳴りさらに顔が真っ赤になる。
 静香に悪気はなかったと思うが、それでも恥ずかしかった。
 その恥ずかしさを誤魔化すために文哉は静香を置いていく。

 妙に速く打つ心臓。

 文哉はこのモヤモヤな気分が不快で、幸せだった。
 後ろから憔悴した静香の声が聞こえるが、これは自分をこんな気持ちにさせた罰として静香の声は聞こえないふりをした。

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