夢中

川嶋マサヤ

3.たくと

 たくとにとって貴人の死がショックだったのは間違いないが、それ以上にこれから先のことが不安になっていた。

  貴人達の父親は3年前に他界しており、3年前から貴人が山川家の柱として弟達の面倒や、母親の支えとなる役目を果たしていた。部活動もしながら家庭のことも頑張っていた貴人には尊敬の眼差ししかない。その頑張りを弟として近くで見てきた、たくとにとって貴人の存在は偉大そのものだった。
 
 尊敬できる人の突然の死と、今度は自分がそのポジションに行かなければならないという責任感でたくとは押しつぶされそうになっていた。

  俺は言った。
 
 「そこに関して俺は口出しできないけど、貴人ならこう言うんじゃないかな。」

 「僕を目指す必要はない。僕がいなくなって、ただショックを受けているだけじゃなく、家族のこれからを心配しているたくとならきっとみんなを支えられるよ。」

 できるだけ貴人の口調で伝えた。
 
  「はい…。ありがとうございます…。」

 たくとの元気の無い返事を受け取り、もうちょっと頼りになる返答は出来なかったのかと、自分で自分を責めていると、

  「1つだけお願いしてもいいですか?」

  「何もためになるアドバイスできないけどそれでもいいなら。」
 
 弟は俺にアドバイスを求めているのだと思った。だが俺の予想とは裏腹に弟の口から次の言葉が出てきた。

 「今から泣いてもいいですか。」
  
 咄嗟のことで俺は戸惑ってしまった。

 そうか、確かに言われてみれば、たくとの泣いてる姿を見たことがなかった。貴人の家族全員、貴人の死で泣いていたがこの弟だけは泣いていなかった。

 存分に泣いていいよ。と俺が言う前に、今まで溜め込んでいたであろう涙が一気に流れ落ちていた。

  家族には決して見せない涙。
  
 おそらく、これから長男になる俺が泣いていたら家族に心配をかけてしまうと考えていたのだろう。

 はたして自分が中学2年生だった時、同じ境遇にあったら、ここまで家族のことを思って強く行動できただろうか。俺には出来そうにない。
  みおちゃんといい、貴人の周りには人として強い人がこんなにもいたのか。

  10分くらい泣いていただろうか、涙を最後の一滴まで出し切ったあと、

  「家族には内緒にしといてくださいね。」
  
 と言って鼻をすすっていた。

  そんなの当たり前じゃないか。

 たくとの目が赤くなっており、このまま帰ると泣いていたのが家族にバレてしまうので、もう少しだけベンチで一緒の時間を過ごした。

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