夢中

川嶋マサヤ

迫り来る現実

 インターホンを鳴すと、扉の向こうからこちらに向かってくる足跡が聞こえ始めた。その足跡は徐々に大きくなり、扉を開けて出てきてくれたのは中学2年生の弟(たくと)だった。貴人は三人兄弟でもう1人、小学校3年生の弟(せりと)がいる。
 
 たくとに迎えられ、靴を整えてから貴人の部屋に向った。途中の廊下で小学三年生の弟(せりと)とすれ違い、軽く挨拶をしたが、さっきまで泣いていたのか少し目が赤い。貴人の部屋に着くと、貴人が自分のベッドで横になり二度と起きない眠りについていた。
 
 「これが貴人なのか…?」
 
 部屋の空気が凍りついているように感じた。この前まで一緒にスマブラをしていた部屋とは思えないくらい、全てが冷たい。

 その冷たい部屋の中で、みおちゃんはベッドで寝ている貴人の横にぴったりと張り付いて泣いていた。俺の存在に気づくと軽く会釈して俺にそこのポジションを譲ってくれた。
 
 俺は生まれて初めて死体を見た。ドラマや漫画などではある程度見てきたが、現実の世界で死体を見るのは初めてだった。死体は体温を失って冷たく、硬かった。貴人の表情は死ぬ1秒前まで苦しんでいたのだなってわかるくらい、苦しそうな表情をしていた。

 寝ている貴人を見た瞬間、一気に現実が俺に迫ってきた。貴人を見るまでは心のどこかで、これは質の悪いドッキリなのではないかと薄っすら期待している自分がいた。期待しなければ心が持たなかった。

  その期待とは裏腹に、目の前にあるのは自分の親友で自分の一番の理解者、貴人の死体だった。
  長いまつげ、ストレートの綺麗な髪の毛、シュッとした鼻、間違いなく貴人だ。

 何も言葉が出なかった。このような時、なんて声をかけたらいいのかわからなかった。
 そもそも何か話しかけて聞こえているのか? 
 なんで…なんで貴人が…!

 行き所のない怒りを覚えながら、しばらく貴人のことを見ていた。どのような気持ちで死んでいったのか、どれだけ辛かったのか、たかとがどんな気持ちであの世に行ってしまったのか、わかりたくてもわからない。

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