夢中

川嶋マサヤ

1.突然

 
 死人にどうにかして会えないだろうか。大切な人を失ってしまったことがある人なら一回は思ったことがあるだろう。その対象が大切な人じゃなくてもいい。
 
  例えば戦国の時代を生きた織田信長に会いたい人もいれば、偉大な発明家エジソンに会いたい人もいる。婚約を約束してこの世からいなくなってしまった彼女に会いたい人や、自分が小さい時に可愛がってくれたおばあちゃんに会いたい人もいる。
 
 その中でも今回対象となるのはおれの親友だ。
 
  俺には親友{貴人(たかと)}が居た。
 
  居たということはこの世にはもう居ないということだ。なぜこの世からログアウトしたかというと、生まれつき心臓の周りの血管が普通の人より細く心臓に血液が行かなくなってしまったことが原因だった。
  
  突然、親友がこの世からいなくなってしまって俺のことを理解してくれる人がこの世界に1人もいなくなってしまった。
 
  俺は友達が多い方ではなく、心から友達と言えて何でも話し合えるのが貴人1人だけだった。
 
  1人”だけ”だったと言ったが、1人でもそのような関係になれただけでも俺は幸せ者だったと思う。けれど、その親友が亡くなってしまった。
 
  たかとがいなくなって気づいたことがある。もちろん親友が死んで悲しい気持ちが強くあった。しかし、後悔がそれほどなかったのだ。 
 
  一体なぜ後悔があまりなかったのか。それはいたってシンプルなことだった。
 
  俺たちは普段から「お前は俺の親友だ」と言葉にして感謝の気持ちを伝えていたからだ。
 
  今思うと、なかなか恥ずかしいことを伝えていたなと思う。普通は恥ずかしくて言えないことも俺たちは普通ではなかったので言い合えていた。 
 
  喧嘩をして会えなくなってしまったり、そのような後味の悪い別れ方をしていたら、これから先、俺の心のどこかで何かがチクチクしていただろう。
 
  だが今回は急なことが急に起きてしまった不運なことだったのでよく今まで生きてくれた。天国でしっかりと休んでくれ。と思える。いやもしかしたら自分にそういう風に言い聞かせていたのかもしれない。


  8月の余力をまだ存分に残していた10月。貴人の死を知らされた瞬間、俺は免許センターにいた。 

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