栴檀少女礼賛

マウスウォッシュ

核心つく不思議ちゃん

 ある日の帰り道、いつも通りアミと話しながら駅に向かっていると、意外な光景を目撃した。


「あ、アレってアザミじゃないか。」


「ホントだ。何してるのかしらね?」


 阿佐美 楓アザミ カエデ。普段なに考えてるかよく分からない、いわゆる不思議ちゃんって感じのやつだ。


 そんなアザミが、自転車に跨る少年に優しく話しかけている。普段のアザミから想像もつかない姿を僕達は不思議に思い、少し声をかけることにした。


「やぁアザミ、何してるの?」


「この子がね、自転車のチェーンが外れちゃったみたいで困ってて、それを直してあげたの。」


「なるほどね。」


 見てるとアザミの手には、自転車の黒い油がベットリと付着していた。普通の人なら気にするようなことも、彼女はドコ吹く風といった感じで放っておいている。


「自転車のチェーンが外れたなんてね、枕モグラの巣にでも突っ込んだのかな?」


 彼女は時おり、こんな風によく分からない事を言う。前に少し話した事があるが、どうやら彼女は実在しない生き物(妖怪の類い?)を信じており、何か起きると大体その生き物のせいにして片付ける節がある。


 今言った『枕モグラ』なる存在も、彼女の頭の中だけの存在だ。以前聞いた事があるが、枕モグラは基本眠っていて、巣の上を自転車や自動車が通り過ぎると怒って起きて、タイヤをパンクさせたりチェーンを外したりするのだそうだ。


「今から帰る感じ?」


「そうだよ、ハヤテとアミも?」


「うん、一緒に帰ろうか。」


「おっけー。じゃあね少年。」


「アリガトお姉ちゃん。」








 今日はアミと僕とアザミで夜ご飯を食べた。そしてそのままアザミが居る横で採点を始めた。


「これは何?」


「いま野球部の先輩達の為に特別補講してるんだ。それのテキストの採点。」


「これ作ったの?」


「アミが問題を考えて、僕が印刷してる。」


「面白いことしてるね。」


「面白い......かなぁ?」


「ハヤテはアミに恋してるの?」


「へ?」


 アザミは不思議な事を言う反面、時々こうして心理的な距離を無視して、いきなり物事の核心を突くような事を言い出す。


「お、俺が? アミのことを?」


「ハヤテ一人称ヘンじゃない? いつもは『僕』って言うよね?」


 アザミの恐ろしい所、それはこういう事を計算してやってるワケでは無く、自然と無意識のうちにやってるという点だ。


「おっぷ......まぁまぁ、どうかな?」

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