栴檀少女礼賛

マウスウォッシュ

空から絞りとった雨雫

 昼休み、僕はアミの所へ行って、今後どうするか......否どうしたいかを話し合った。


「アミ、どうする? いや、どうしたい?」


「私は......別に先輩達が教えてくれって言うなら、教えることは辞めたりしない。」


「そうじゃないだろ。」


「え?」


「僕が聞いてるのは、アミ本人がどうしたいかってこと。野球部の先輩達が教えてくれって言う云々以前に、アミがどうしたいのか。」


「私は......」


「うん。」


「私は......」


「うん、アミは?」


「私は......多分、教えたいのかも......知れない。先輩達に勉強を教えて、先輩達に甲子園に行ってもらいたいのかもしれない。」


「それが聞きたかった。」


「でも、また何か言われたりするかもしれない。また私の精神が不安定になるかも知れない。」


「そん時は、また僕がそばにいて支える。さっきショウタが言ってたみたいに、1人の人間なんてちっぽけな存在なんだ。でも、人間は支え合うことが出来る。僕は1人じゃ勉強を教えられないし、アミも1人じゃ裏方まで手が回らない。でも2人なら出来る。今までそうだったみたいに。」


「うん......そうだね。」


「大丈夫、僕だってアミが居なけりゃ何にも出来ない。だから僕はアミを頼るし、アミも僕を頼って。」


 アミは水晶玉のような綺麗な瞳から、空からギュッと絞りとった雨雫の一滴のような涙を流した。


「ゴメン......ハヤテ......わたし驕っていたかも知れない。何の問題もなくスムーズに物事が進むと思ってた。」


「そうかそうか、ほら涙拭いて。」


 僕はポケットからハンカチを取り出して、アミに手渡した。アミはハンカチで涙を拭くと、精一杯の笑顔で僕の方を見た。


「えへへ......ハヤテから元気づけられるなんてね。ありがと、今日の特別補講もちゃんと出来る気がするよ。」


「そっか、そりゃ良かった。」


 何故か僕の胸は高鳴っていた。涙を拭いた後のアミの笑顔は、どこか梅雨明けの快晴のような心地良さを持っていた。


「よし......そうと決まったら、やること1つ!」


「やること?」


「マキ図書委員長と話してくる。」


「大丈夫?」


「全然大丈夫。てか、腹割って話し合わないと、マキ先輩に嫌な思いをさせちゃうかも知れないからね。」


「そっか、じゃあ一応僕もついて行くよ。」


「ありがとう。じゃあ後で行こうか。」

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