栴檀少女礼賛

マウスウォッシュ

義務教育からやり直せ

 教室に戻ると、アミが来ていた。ただ、明らかに普段より窶れている。あんなにサラサラだった髪の毛も、梳かしていないのかグシャグシャで、目の下に隈を作って頬も痩けて、何か流行病にでも罹患したのかと思うほどの疲弊具合だった。


 僕は少し心配しつつ、自分の席に座った。すると、ショウタが僕の席の前に来て、アミの様子を遠巻きに見て鼻で笑った。


「へっ......アレじゃあ天才アミちゃんも形無しだぜ。もう俺の勝利は目前だな。」


 この時、何故か無性にショウタのことを殴り飛ばしたくなった。無論、頭脳のみならず腕っ節もショウタには絶対に敵わない。そんな事100どころか1億も承知の上で、ショウタのことを殴り飛ばしたくなった。


 僕はとかく堪えた。ぶん殴ったら返り討ちにされるとか、そういう打算的な面で堪えたのでは無くて、単にアミが居る場で厄介事を起こしたく無かったからだ。


 ふつーに元気な時ですら、友達同士のケンカなんて気が滅入るだけなのに、精神的に消耗してる時に見せるようなもんじゃない。


「どうしたハヤテ? 今日はバカに静かじゃないか。」


「ショウタ、お前は憧れの先輩が事故って、何か思う所は無いのか?」


「あぁ〜......そりゃあ、まぁ気の毒とは思うけどよ、ある意味失望したっつーか?」


「失望した?」


「100人相手にして無双した伝説の男がさ、車に撥ねられたなんて、ギャグもいい所だろ。」


 その言葉を聞いた瞬間、僕の心の中にある堰が崩壊し、感情の激流が氾濫を起こした。理性という名の街はあっという間に飲み込まれ、僕の脳は如何に理想的な打撃をショウタに打ち込めるかだけを、純粋かつ超高速で計算していた。


「おいハヤテ、何の真似だ。」


「ショウタ......お前は他人に暴力こそ振るうが、根はマトモなヤツだと思ってた。だけどよ、そんな便所の黒ずみ以下の価値しかねぇ言葉を、その口から吐き出したってんなら、俺はお前との縁を切る。」


「はァ? 勝手に人のこと殴っといて何様のつもりだ!」


「何様はテメェの方だ! 人が事故って大ケガしたってのに、何が『失望した』だ! 何が『ギャグ』だ! テメェは自分のこと頭良いとか勘違いしてるようだけどな! 義務教育の道徳すらマトモに学べてねぇバカだぜ!」


「うるせぇ!」


 ショウタは俺の事を殴った。しかし、思ったよりもダメージを受け無かった。なんというか芯のないパンチだった。


「義務教育からやり直せアホ。」

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