栴檀少女礼賛

マウスウォッシュ

悪の不在と正義の暴走

 朝、目が覚めた。夢の内容は途中からぼんやりと薄くなってしまって、何が起きたかはあまり覚えてない。


 断片的に覚えてる事として、画面から出てきた白い手から必死に逃げようとしたこと、あとは逃げようと頑張った結果、建物の窓から飛び立ったこと等。


 疲れてる時に見た夢なんて、あまり意味なんて無いのだろうけど、何か心のどこかに引っかかるような内容ではあった。








 登校後、僕はすぐにミカの所に行った。そしてミカにアキバ先輩の容態を聞いた。しかし、ミカもミカであまり詳しいことは分からないらしく、少なくとも亡くなっては無いという事しか分からなかった。


「また何か新しいことが分かったら言ってよ。」


「うん、てかアミの方はどうなの?」


「俺が知ってると思う?」


「もちろん。」


「まだ分かんない。お前の姉ちゃんに言われたこと、相当ショックだったみたいだけど。」


「アミにごめんって言っておいて。お姉ちゃん、悪い人じゃないんだ。ただ彼氏のことになると暴走する癖があって......」


「分かってる。」


「姉に代わって謝っておくよ。ごめん。」


「いいよ。別に誰も悪くないんだから。」


 僕は一応そうは言ったものの、内心どこか釈然としてない部分が存在することに対してモヤモヤしていた。


 誰も悪くない......裏返せば、みんな等しく悪い。アミにキツい事を言ったマキ先輩だって、マキ先輩と野球部を選び切れなかったアキバ先輩だって、アキバ先輩を悩ませる原因となったアミや僕だって......そう、みんな悪い。みんな悪くて、みんな悪くない。


 変な話だ。ちょっと前まで、僕はこういった悲劇の裏には、絶対に何か巨大な悪でも潜んでるものだと思っていた。


 だけど、現実は違う。悲劇の裏に悪が潜んでるなんて、ゲームのやり過ぎマンガの読み過ぎだ。


 そう言った話では、先日ショウタが殴り飛ばしたサラリーマンも、痴漢をしたという点で加害者ではあるが、反面、痴漢をしてしまうほど、精神的に何かに追い詰められていたのかも知れない......なんて考えることだって出来る。


 痴漢野郎の肩を持つわけでは無いが、何かやってしまった人間を、一方的に悪、絶対的に悪、と決めつけるのは、些か早計であり、正義の暴走とも言えるかも知れない。


 そしてその正義の暴走によって、アミは一度傷つけられた。過去の過ちは、二度繰り返してはならない。

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