栴檀少女礼賛

マウスウォッシュ

事故ったのは誰のせい

「貴女のせいで......貴女のせいで!」


 マキ先輩はそう言いながら、もう一度アミにビンタをしようとした。僕は咄嗟にマキ先輩の手を掴み、2度目のビンタを阻止した。


「離して! 離して!」


「おいマキ! そこら辺にしとけ。」


「......何よケンジ......私が何か悪いことでもしてるかしら!?」


「してるさ! アキバの事故にアミは何にもカンケーねーだろ? アミに手を挙げる義理なんてねーじゃねーか!」


「妹から聞いたわ! タイヨウは轢かれる直前まで、ボーッとフラフラしてたって! そこまで精神的に追い詰めたのは、この女のせいよ! だからコイツが犯人よ!」


 マキ先輩がそこまで言った所で、ケンジ先輩が机をかき分けグッと近づいてきた。そしてマキ先輩の襟首を掴み、鬼すら縮み上がる程の眼光でマキ先輩を睨みつけた。


「おい......それ以上アミを貶すようなことを、その汚ぇ口から吐き出してみろ。女だろうが容赦なく潰すぞ。」


「アンタら野球部も同罪よ。アンタらさえ居なければ、今頃タイヨウは私の所で勉強を教えて貰っていたハズよ!」



「だったらテメーも同罪じゃねぇかよ! タイヨウは俺らの所に来るか、お前の所に行くかで悩んでた。それで来てる車にも気づかないくらい疲弊させちまったんなら、てめぇも俺らも等しく同罪だ。

だけどアミは違う、アミは俺らに勉強を教えてただけだ。アキバに来いと強要もしてねぇし、この勉強会だって俺らがアミに頼んでやってもらってる事だ。」



「クッ......だったら......誰が悪いのよ!」


「誰も悪くねぇよ。強いて言うなら轢いたヤツが悪いよ。だからアミを逆恨みする事だけは決してするな。」


 ケンジ先輩がそう言った後、教室には静けさが戻ってきた。しかし数秒後、誰かの荒い息遣いが耳に入ってきた。


 僕は音がする方を見ると、アミが頭を抱えながら過呼吸寸前くらいになっていた。


「アミ......? 大丈夫か?」


「ハァハァハァ......私のせいで......私のせいで......」


 アミは頭を抱えて同じ言葉を繰り返していた。その双眸はもはや焦点が合っていなく、ただただ虚空を見つめていた。


「先輩達すみません、今日の補講は中止にします! アミ......立てるか? 保健室に行こう?」


「私のせい......私のせい......私のせい......」


 こりゃダメだと思い、僕はアミの肩を持ちながら教室から出ていき、保健室を目指した。

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