栴檀少女礼賛

マウスウォッシュ

彼女の発言の真意と根

 帰宅後、テツから連絡が来た。彼は『クイズ正解の褒美』として、彼が知る範囲内で僕にアミの過去について教えてくれた。


 そして同時に、当時の新聞の切り抜きの写真なんかも送ってくれた。10年ちょっと前に起きた『赤王岳遭難事件』に関する記事を。


 赤王岳遭難事件、掻い摘んで説明すると、当時まだ幼かったアミと、K大学の登山サークルのメンバーの1人の青年が、赤王岳と呼ばれる雪山で遭難し、救助隊が発見したとき、酷く損傷した青年の遺体と、それを食って飢えを凌いだ彼女が見つかった。


 この事件『生き残るために致し方なかった』と世間はアミに対して慈悲の気持ちを抱いていたが、メディアは異常なまでに彼女をバッシング、彼女の悲痛さを全く考慮しないクソ取材を強行したようだ。


 この辺りまで知って、何となく僕は思う節があった。アミがミカに対して「ミカには社会的なメディア人間と同じになって欲しくない。彼女には弱い人の気持ちに寄り添える人間になって欲しい。」と言ってた理由も、心の底から理解した。







「ミカお帰り〜。めっちゃ帰るの遅かったね。今日どっか行って何かやってた?」


「ごめんごめん! ちょっと友達に勉強教えて貰っててさ、マジ古典と化学ヤバいんだわ。」


「へぇ......その友達ってのは、あの有名なアミちゃんかな?」


「ん、そうだけど、なんでお姉ちゃん、そんな事知ってるわけ?」


「いや、なんでもないよ。ただ、あの子の周りにはいつも人が居るなぁって思ってね。」


「お姉ちゃんだって負けてないくらい周りに人いるじゃん。図書委員長やってるんだし、先生も言ってたよ『お姉さんの真貴マキさんはホントに優秀だね、図書委員長なんかじゃなくて生徒会長やっても良いくらいだよ。』ってさ。」


「私は別にそんなに凄い人間じゃないよ。」


 そう言いながら、マキは鍋をコンロの上に置いた。そして元栓を開きながら会話を続けた。


「ミカもご飯食べるよね?」


「あ、私いらない。もう食べてきちゃった。」


「それならそうと先に連絡してくれれば良かったのに。まぁ良いや、夜ご飯お姉ちゃん一人で食べちゃうね。」


「はいは〜い。」


 そう言いながらミカはソファにドカッと座り、リモコンでテレビをつけた。マキは鍋の中に水を入れ、コンロを点火した。


「例えどれだけ優秀でも......精神的に脆けりゃ簡単に崩れちまうさ。」


 マキはそう独り言を呟きながら、鍋の中に豆腐を入れ、グシャグシャに潰した。

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