栴檀少女礼賛

マウスウォッシュ

転がり込む厄介事たち

 僕がまたいつも通り教室にヌッと入ると、そこにはいつも通りでは無い光景が広がっていた。


 アミの席の周りに何やら人集りが出来ている。よくよく見ると、その集まっている人達は、3年の先輩であることが分かった。しかもゴリゴリの野球部。


 なんで1年の教室なんかに......と思って様子を伺っていると、その怖そうな3年の野球部の先輩達がいきなり動き出した。


「恥を忍んで申し上げさせていただく。アミさん! 俺らに勉強を教えてください!」


「「「よろしくお願いします!!!」」」


 なんと、いきなり野球部の主将含め3年の先輩達がアミに頭を下げたのだった。


「ちょ、ちょっと待ってください? 私が先輩方に勉強を教える?」


 アミは非常にあたふたしていた。アミにとっても予測外の事が起きているようだ。



「そうです! 俺ら3年野球部! この前のテストにて全員物の見事に赤点! コーチに『お前らは甲子園に参加させられない。いっぺん勉強してこい。』と言われる始末!

1年生の成績トップ、木野 亜弥キノ アミさんが非常に優秀と聞きおよび! 馳せ参じた次第であります!」



 めちゃくちゃガタイが良くて威圧感ゴリゴリの主将が、まるで道端の小石のように小さくまとまって、軒並みアミに頭を下げていた。


「このままでは!」


「甲子園に出られません!」


「どうか!」


「何卒!」


「勉学のご指導ご鞭撻を!」


「よろしくお願いします!」


 周りにいた先輩達も、一人一人頭を下げていった。これはこの上なく断り難い状況だ。


 アミは何やら熟考している様子で、そこに僕がピョッと近づいた。


「ハヤテ!」


「困ってる?」


「私よりかは、この先輩達の方が困ってると思う。だって甲子園でしょ? 絶対出たいじゃん?」


「じゃあ協力するか?」


「流石に私1人じゃ無理。」


「てか、3年生の先輩に教えるって......そんな3年生の内容とか分かるの?」


「高校の内容なら既に中3の頃に全て履修済み。教えられない事は無いけど、私1人の力じゃ限界があるわ。」


 僕は彼女の何かを訴えかけるような目、そして先輩方の甲子園に出たいという熱意を汲み取り、協力することを腹に括った。


「分かった。僕も手伝う。そうすれば先輩達は甲子園出られるんだろ?」


「さぁ? それは先輩達の頑張り次第。」


 それを聞いた先輩達は目を輝かせた。


「ありがとうございます!」


「「「ありがとうございます!!!」」」

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