栴檀少女礼賛

マウスウォッシュ

僕と彼女の奇妙な会話

 5分遅れで彼女が発した言葉は「イタリアンが良いかも知れない。」だった。


 今、僕は教室にいる。現在ちょうど放課の時間で、部活に行くやつは部活へ行き、4時台の電車で帰りたい奴らはサッサっと駅へ向かった。


 こんな時間に、特に焦ることもなく教室に居るのは僕達2人くらいなものである。


 5分前、僕は彼女に「今日の夜ご飯どこに食べに行こうか?」と訪ねた。そして5分経った今、ようやく返答が返ってきた。


 普通の会話のキャッチボールの速度に慣れてる人なら、不自然に思うかもしれない。しかし、彼女とまぁまぁな時間を共に過ごした身からしてみれば、幾分普通な速度に感じる。


 と言うのも、彼女の平生の会話の速度は並の人と変わらないのだ。しかし、今この時に限っては違う。


 まるでゲームに没入し過ぎるあまり、親の言う事を話半分で聞いてる子供のように、彼女はある事に没入しているのだ。


 彼女が没入していること......それは端的に言えば『勉強』である。彼女は机にテキストとノートを置いて、カリカリとシャーペンを走らせている。


 彼女の勉強時の集中力は恐ろしい物がある。大抵の人間は15分で同じ事に飽きるというのに対し、彼女は最長で5時間近く同じ事をやり続けられる。もちろん休みナシでだ。


「イタリアンか......駅ビルにあるお店に行こっか。」


 と僕は返す。次に返答が来るのは5分後だろうなと思い、僕はスマホを弄る。ある意味では、僕らも彼女と似たようなことをしているのかもしれない。


 例えばスマホを弄っていて数分だけのつもりが、数時間触ってしまっていた、なんて事は無いだろうか?


 彼女にとってしてみれば、勉強は僕らにとってのスマホみたいな物なのかも知れない。


 実際、ツールや方法が違うだけで、何かしらの情報を吸収しているという点においては似ている行為だ。


 僕は勉強なんて嫌いだが。逆に、彼女はスマホを持ってはいるものの、触っている所をなかなか見たことが無い。


 あったとしても、親と連絡を取っている時とかくらいだ。ある意味では、彼女の方が『携帯電話』として正しく扱っているのかも知れないが。


「駅ビルのお店〜? いいね〜。あそこ安いし美味しいしね〜。学生の味方だよね。」


 またもや5分遅れで返答がきた。まるでSMSで会話してるかのような速度だ。

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コメント

  • 北の里の柴犬

    新作お待ちしておりました! またマウスウオッシュ先生の世界観がたのしめるのが嬉しいです!(*´ω`*)

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