K国の少年

我鷲院

第1話 S市の少年

その少年の名を――仮にwoodsとでもしておこうか

彼は隣のN国に生まれ、やがて己のrootsを知った

かつて大陸にあった小国KDR、そこがwoodsの祖先が住まうところだった

KDRは大国Tの代理者SRGの侵略を受けた

N国の支援も受け、KDRは応戦した

だが、敗れた……

HSKでの決定的敗戦ののち、KDRの民はN国へと渡り、TRY人となった

もう、1000年以上も前の話だ

その不幸な人々の末裔が自分たち――と知ったwoodsは、やがて「敵」を倒し、再び祖国をよみがえらせる夢を見る

そして、さらに100年以上の時が流れ、そんなKDRの都があった場所もK国の首都S市と呼ばれるようになっていた

そこに、ひとりの少年がいた

その少年の名を……そう、やはり――good-boyとしておこうか

彼の生涯に銘打つとして、名は体をあらわすというのが真実だとすれば、彼はgood-boyだった、というよりほかに言葉はない

good-boyはS市繁華街にある、とある安売り店を訪れていた

その店の名を……dotsukiri-donkといった

彼はその店の中で、CD売り場に立っていた

「いいなぁ……」

good-boyはつぶやいた

そのCDを見たとき、思わず、言葉がもれたのだった

それは、まさにsenseの塊だった

神々しいまでのartist-groupが手がけていたことは、すでに耳にはしていた

だがこれほどとは……

ジャケットを目にしただけで、中味の素晴らしさが分かる……

手に取るより、先に

good-boyの、k国人特有の完璧すぎるsenseが、その黄金の音色を彼の脳内全体に響かせたのだった……

手に取るより、先に……

しかし、彼には残念ながら、いわゆる先立つものが無かったのだった

「残念だ……本当に……」

good-boyは立ち去った

その瞳に涙すらたたえながら

K国人は、すべてにおいて完璧すぎる

頭脳明晰、眉目秀麗、健康、美的感覚、運動神経抜群――それらにて、他の国の人々を遙かに上回る存在……

故にK国人は、自分たちを「呪われている」と思うことすらあった

good-boyも、もれなくそれに当てはまった

容姿、知性、性格、肉体性能――すべてにおいて完璧すぎる、K国の少年だったのだ

だから、彼も呪われていた

嫉妬の女神に怨まれていた

それをひしひしと感じながらも、生きる

ただ、自然に、自分らしく

それが、K国人の宿命

そして、イキザマ……

その大きな安売り店を出てしばらく、good-boyはため息をはきながら、とぼとぼ歩いていた

季節は冬

彼は、人気の無い裏道に入ったあたりで、冷たい風に吹かれて、上着のポケットに手を入れた

「あ…………」

そこで、はじめて気づいた

そのポケットの内側に、あの素晴らしいCDがあることを

取り出すより先に、手の感覚で理解できた

いつの間に、忍び込んでいたのか……分からない

それが、嫉妬の女神の呪いなのか、それともまったく別の理由か……とにかくK国人にとっては別に、比較的よくあることだった

考えたこともない、身に覚えもない、運命の悪戯、奇跡……だが、驚くほどのことでもない、出来事の連続

それが、K国人の日常

驚きはなかった

が、それでも――

「何か、良くないことが起ころうとしているのか……」

この時のgood-boyは、そう思わずにはいられなかった

諦めのような気持ちとともに、悪い予感がしたのだ

「おい!」

その、耳を覆いたくなるような、無様な、教養のかけらも感じられない声質の音が、彼に投げかけられたのは、ちょうどそのときか……

振り向くと、奇妙なガニ股の男たちが、立ち並んでいた

中肉中背がひとり、眼鏡が2人……いや、3人目が彼らの背中から姿を見せる

計4人か……

「そ、それ、俺らに寄越せぇ……!」

中肉中背が、言葉を続けた

喉から、無残に尽きる音をがなり立てて……!!!

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