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「拝啓、親愛なるヒカルに告ゲル」

コバヤシライタ

第三部 「野良猫な気持ち」③

第四章「雨降りと嘘月」


相変わらず記録的な大雪は降り続けていた。
最近何日も降り続けていることもあるかもしれないが、そろそろ雪のなかった頃の町並みの風景を忘れかけていた。確か黒いアスファルトに白い線が車と人々を分離し、それが人間のいる限り延々と続いているはずだ。まぁ確かにそうだ。しかし…

―だからなんだって言うんだよ…―

全くその通りだ。今は確かに車の通っているタイヤの道だけが黒くなり、残りのところは真っ白である。北海道から県が取り寄せた除雪機が定期的に通っているので歩道には見慣れない小高い丘のような雪の塊がある。ホントにそれだけなのだ。それが元の風景を忘れているからと言って、じゃあ雪がなくなったとしても、あるのは延々と続くアスファルトとその上に乗っかった白い線が近づくことなく同じように延々と続いているだけであろうし、むしろ不規則に並ぶ小高い丘や、北海道から取り寄せた除雪機など、ほんの少し新鮮に思っていたモノたちが姿を消していくわけであって、ひょっとしたら少し寂しい感じさえしてくるのである。

なくならなくて良いモノなんかないはずである。眠り続けている彼女を見ているときは、いつでもそう考えるようにしている。そう考えておかないといつの間にか彼女を忘れてしまいそうな気がしてしまうのだ。眠る前の彼女でさえ野球の試合の時には完全に忘れてしまっていたのに、今は自分から話しかけないと存在を主張してくれない。野球のことが一杯になっていらいらしている自分に無理に話しかけてきていたときは避けてばかりいた彼女の声も聞こえなくなると求めてしまうのだ。


「野良猫な気持ち」

僕と彼女の間に
いきなり入り込んできた小さな野良猫
ヤキモチ焼いてる僕をしり目に
彼女の膝でゴロゴロ言ってる

こうやって公園に来た人たちにこびを売って
今日も小さな命は生き延びようとする

いくらかわいそうでも
エサをあげたらダメなのは知っている
辛そうな顔をしている彼女に
もっと辛そうにゴロゴロ言ってる

こうやっていつかは捨てられるのも分かってて
今日も小さな命は生き延びようとする

僕も同じで捨てられるのが怖いから
今日も小さな信頼を彼女と確認している

今日であった野良猫があまりにも僕みたいで笑えるから

また来ようね 二人で
絶対だよ


僕と彼女との間には今見たこともないほどの大雪が転がり込んでいる。このただ白いだけの雪に想いを重ねまくっている僕はよほど彼女に捨てられるのが怖いのだろうか。彼女は今深い眠りに入っていて逃げ出すわけでもなく、出来れば聞きたくない言葉を言うわけでもない。なのに何故こんなに不安になるのだろうか…。



「テノヒラトハナビラ」

風が吹く公園は大好き
君がサクラが好きだから
君に謝りたいのに
僕はハナビラを探しに行く
綺麗なハナビラは
「タスケテホシイ?」と冷やかした

君のテノヒラと咲くハナビラ
比べてみたら少し似ていた
「チイサクテ マモリタイ」
君のテノヒラと咲くハナビラ
サクラは思ったより散らない
僕はとりあえず最低なヤツ


風のない公園は大嫌い
サクラは枝にしか咲かないから
君に謝りたいのに
僕は幹を揺さぶってみる
綺麗なハナビラは
「シカタガナイナ」と降りてきた


君のテノヒラで舞うハナビラ
比べてみたら少し似ていた
「アリガトウヨリ タスケテ」
君のテノヒラで舞うハナビラ
思ったより君は笑わない
僕はとりあえず最低なヤツ

僕のテノヒラと散るハナビラ
比べてみたら少し似ていた
「イミモナク マイアガル」
僕のテノヒラで散るハナビラ
君は思ったより優しいね
最低な僕を許している

君のテノヒラと咲くハナビラ
比べてみたら少し似ていた
「イミモナク アタタカイ」
君のテノヒラと咲くハナビラ
君は思ったより優しいね
僕はとりあえず最低なヤツ

ドキッとした。いつのまにか「彼女」から「詩織」に呼び方が変わっていたのだ。呼び方だけではない。詩織に対
眠ってしまった後になって必死になっている僕は、木を揺さぶって花びらを得ようとしている人のようなもんじゃないだろうか。そんなことで手にいれた幹のにじんだ花びらでは絶対に詩織は喜ぶはずはなかったのだ。今までの詩織はこの詩の中に出てくる「君」のように最低な僕を許してくれたが、このままでは間違いなくダメになってしまう。こんなに大事な事に詩織が眠ってからやっと気づくなんて、ホントにバカなんじゃないだろうか。人間は何かを失ったとたんにそれが欲しくなる。そんなこと分かってる。でもそれ以上に今ならたとえ詩織が目を覚ました後でも想いが消えない自信がある。まるで僕のかさを持ってずぶ濡れになった僕の帰りを待ってくれているかのように…




「雨降りと嘘つき」

いつものように傘を忘れた僕は
君のところにずぶ濡れで向かう
傘を二つもった君が「待ってたよ」って
目の前にいることを想像した僕に
雨が「調子にのるな」と笑う

君が笑うとき、僕の胸が痛まないように
「さようなら」と君が言わないように恋をするほど
僕は君のためにそんなに器用に生きれない
だから今日も僕は君に会いに行く


いつものように傘を忘れた僕を
雨は「懲りないやつ」だと僕をずぶ濡れにする
傘を二つ持った君が「待っていたよ」って
目の前にいることを想像できるくらい
僕はまだ君の僕になれてないね

僕が笑うとき、君の胸が痛まないように
君が僕の知らない場所でどんな君か知りたいなんて
僕は君のためにそんなことは思えたりしない
だから今日も僕は君と笑っている

君が笑うとき、君の胸が痛まないように
「君のために尽くしてる」と胸を張って言えるほど
僕は君のためにウソつきになれるように頑張る
だから今日も、僕と君は笑っている


愛する思いが今までの詩にこめるだけの願望から確実に何かが変わっていたのだ。少なくとも今言葉に出来る感情は何とか今すぐに目が覚めることを願っている。ホンの少し前までは彼女の目が覚めるのを待っているという程度だったが、今は似ているようで違う。

君が笑うとき、君の胸が痛まないように

「君のために尽くしてる」と胸を張って言えるほど

僕は君のためにウソつきになれるように頑張る

だから今日も、僕と君は笑っている

確かに詩織は眠っているわけで、それについて強攻策で何かを変えようとジタバタしているわけではない。しかし人間の中の細胞の中の核の中の染色体の中の遺伝子の中のDNAで求めているように、何かの要因のあとは必ずこの要因が起こると決定されているから追いかけられるのだと思い込んでいるかのように、時間軸を奪い取るほどの濃い霧に包まれていくように…。
その瞬間か少し前、辺りに見たこともないような霧が立ち込め始めた。まるで地面に敷き詰められた雪のような真っ白な雪が空と繋げているのかと思うくらいにあたりは真っ白になった。少しの間は身体が反応するための部位の何かが失われたようにあっけにとられていたが、何かを忘れていたかのように状況を確認しようとテレビをつけた。

-あっ-

なんとテレビに自分が映っているのだ。確かに少し前にプロ入りを断ったことでテレビでいろいろ言われていたことはあったが今やほとんどマスコミに使われていなかった。しかも今テレビに出ているのはこの18歳の自分ではないし、マウンドも甲子園ではない。愛媛の小さな球場で中学生最後の総体の決勝戦のマウンドで投球練習をしている自分なのだ。記憶力には自信は無いが、これは4年前の中学生の時松山に行っていたせいで録画放送が見れなかったやつではないのか。4年もたった今でも再放送をする必要のあるような魅力的な試合であったかどうか。記憶力に自信のない自分には全く思い出せない。ともかく「突然の再会」に大濃霧も忘れて見入ってしまって気づかなかったが、温度がすこしずつ上がり雪が溶けてさらさらとひっそりした川となりつつあった。

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