神業(マリオネット)

tantan

2ー59★フィリアの容態

小屋の方へ戻るとフィリアが外にいた。


『フィリアさん、調子はどうですか?』
『あっ、ノルド様、先程はどうも。調子ですか?今のところはそれほど変わった様子と言うのは感じられませんが…』


ノルドはそうフィリアに話しかけながら、彼女の周囲をじっと見ている。
恐らく先程、ノルドは昼過ぎにフィリアに何かをしたようなことをいっていたので、それの確認だと思う。


そう思い、ノルドがフィリアに具体的に何をやったのか興味があった俺は、彼と一緒にフィリアの周囲を見たのだが…
パッと見た感じでは、何をやったのか分からなかった。


ただノルドがフィリアから視線を外さないことから、彼は彼女に何かをやっているはずなのだが…
少なくとも彼女自身で外見的な変化と言うのは感じられないように思う。


そして一通り見終わった後、ノルドは…


『フィリアさん、僅かですが良い兆候が見えているようです』
『ほんとですか?ありがとうございます』
『今日が初日で、まさか兆候が見られるとは思いませんでした』


フィリアの右手を取りながら、そんなことを言っている。
右手には昨日と今朝で何度か見た緑色の碧玉ジャスパーを何個も繋げたものを装着していた。
パッと見た感じ、数珠のように見える。
恐らく、あれが何か変化をもたらしてはいると思うのだが…


でも彼女のデリケートな問題であろう部分に、俺が興味本意で首を突っ込んでも良いのか正直悩んでしまう…
だが、あの数珠みたいな物がどんな変化をしているのか正直、とても気になる…


『ねー。それ見て良い?』
『エルメダさん、はい。どうぞ、とは言っても、あまり面白いものではないのですけど…』
『うん。じゃー、いこ』
『えっ?俺も?』
『別に良いんじゃない?ねぇ~?』
『はい。ナカノ様も興味がございましたら、どうぞご覧になってください』
『あー、それなら。お言葉に甘えましてお願いします』
『すいません。私は先に小屋のなかで治療薬の作成に入りたいと思いますので』


アンテロが薬止草を先に受け取り、俺を含めて四人に会釈をして先に小屋の中に入っていった。
彼女も興味がないわけではないともうのだが、役目としての優先順位を考えたのだろう。
エルメダのお陰でラッキーにも話に参加することがで来た。
思いがけない感じがするが、せっかくなので二人の輪の中に遠慮なく入らせてもらおうと思う。


『では、これを見てください。違いが分かりますか?』


ノルドは、そういいながら数珠状になっている緑色の碧玉ジャスパーの中から二つを摘まんだ。
一目見ただけでは、両方が宝石のように透明な緑色の石と言う感じで違いが分からない。
ただ、彼がわざわざ違いという位なので何かある筈なのだが…


『えっ…、どこか違いあるの?』
『私も分からないんだけど…』
『では、もっと近くまで来てみてください』


俺とエルメダは、ノルドに言われるままに自分達の顔をフィリアの右腕に寄せていった。
すると僅かではあるが、片方の緑色の碧玉ジャスパーに不純物のようなものが確認できる。


『あれ…、こっちの方、ほんの少しだけど赤くなってるような気がする』
『はい。そうです』
『だよね。最初、赤い糸がくっついてるのかな?とか思ったんだけど…よく見てみると糸とかじゃないし』
『簡単な説明になりますが、これが宿り子の原因と考えていただいて構いません』
『へー、ってことは良くなってはいるんだぁ~』
『はい、そうです』


エルメダの言葉にノルドが答える。
そして、このやりとりが非常に嬉しかったのだろう、フィリアが若干涙ぐんでいるように見えた。


『あれ?ってことは明日からは、フィリアの経過観察をして行くってことぉ?』
『一応、彼女もやることがあるので、ノンビリと何もせずということではないですよ。それに緑色の碧玉ジャスパーも量が足りなくなってしまうと思いますので…』
『と言うことは明日から、エルメダたちはノルドと一緒に緑色の碧玉ジャスパー集めかな?』
『えっ…ナカノさんは?』
『俺?俺の方はアンテロが作ってくれた治療薬をトーレたちの方に届けないとな…って、あっ、そうだ!ノルドに聞きたいことあったんだ!』


思わず大声になってしまった俺の声に、三人が驚きの表情を見せた。


『はい、何でしょうか?』
『いやー、無いならないで良いんだけど…これの着替えって無い?』


俺はそういいながら、今着ている精神削減効果のあるノルド自作のシャツの襟を掴みながら聞いてみた。


『えっ…着替えですか…?』
『いやー、今日もなんだかんだでモンスターと何回か戦闘したりとかあって流石に汗とかホコリとか…』
『着替えですか?』


(やっぱり無さそうか…)


『うん。でも、やっぱりなさそうだよね…明日、トーレたちのとこにいくなら冒険者のスキル、座標移動ムーブを使うことになると思うんだけど…できれば精神回復薬マインドポーションは節約していきたいなと…』
『それでしたら…今から洗いましょうか?恐らく、明日の昼過ぎに出発とかなら乾くのではないでしょうか?』
『えっ…そうなの?』
『明日も天気は良いと思いますので、大丈夫だと思いますよ』


着替えは無いようだが、フィリアの機転で思わぬ解決策が生まれた。
ここは素直に甘えさせてもらおうと思う。

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