神業(マリオネット)

tantan

2ー46★記憶のやり取り

『フェン君、レシピの方は問題なくあったけど…材料の方はあいにく…』


フィリアが入った部屋とは更に別の部屋に入ったノルドが出てきた。
恐らくフィリアのための準備と消えない傷ブレイクショットの治療薬のレシピだと思ったのだが…
ノルドの手には大きめの袋を持っている。
そしてその袋から次々と色々なものを出してくることから恐らくは収容袋デポット系の物なのかもしれない。
出されたものは黒い砂のような物やゼリー状の物が大半をしめ、最後に得たいの知れない何かが置いてある。
大きさ形共に単三電池にも見えるような不思議な物体だ。
だがこの世界で俺が来てから電池を必要とする場面と言うのに出くわしたことがない。
と言うかエネルギー関係の事は、ほとんど魔石で補われている。
恐らく彼が俺たちの前に出したと言うことは、消えない傷ブレイクショットの治療薬に関係すると言うのは分かる。
多分、先程の一言から黒い物とゼリー状の物は材料のはずだ。
そうすると、これがレシピということになるのだが…


『ノルド様、ありがとうございます。材料は…あっ!草系の物が足りない感じですね。そちらは明日以降にでも周辺を探すと手に入るでしょうから何とかなると思います。では、そちらのレシピの方はアンテロさんに渡していただけますでしょうか?』


やはり不思議な小さい何かがレシピのようだ。


『アンテロさんですね。ちなみに彼女の職業と言うのは?』
『私は薬師くすしだと聞いています』
『なるほど薬師くすしですか。それでは納得ですね。では、こちらどうぞ』
『はい。ありがとうございます』


(渡す前に職業を確認した?何故?)


ノルドとフェンの間で不思議なやり取りが繰り広げられている。
そして彼らのやり取りに問題なくついていくアンテロ。


『申し訳ない。さっきから二人の会話の内容に全くついていけないのだが…』


思わず口に出てしまった…


『あー、すいません。アタルさんには後程僕から説明しようと思ったのですが、今がいいですか?』
『できれば…話の内容つかめないと…少し不安になってくるんだよね。別に信用してないとかではないんだけど…』
『そうですよね。みんなのことなんですから自分でも知っておきたいと思うのは当然ですよね。分かりました。説明させていただきます。ノルド様の方は、気にせずにフィリア様の方へ、どうぞ』


フェンの言葉の後で、ノルドは無言で相づちをうつとフィリアの入った部屋に消えていった。


『では、アンテロさんの邪魔はしたくないので、僕とアタルさんは場所を移動しますけど、エルメダさんはどうしますか?』
『うーん…今さら聞いてもって内容だし…それならご飯の用意とかでもしていようかな…』


(えっ…俺、今からフェンにそんなレベルの説明を受けるのか…?)


若干、エルメダの反応に心が痛くなったが知らないものは知らない。


『分かりました。それではご飯の用意はお任せします。ではアタルさん、取り合えず外に出ましょう』


と言うことで俺とフェンは一緒に外に出ることになった。


★★★


小屋の外に出ると直ぐのところに大きめの石が二つあったので、俺たちはその意思に腰を掛け話をすることになった。
ただ、話をする前にフェンがやることがあると言うので黙ってみていると、俺とフェンの周囲が不思議な空間として覆われていく。
どうやら所作などに若干違いはあるが、ミンネやトラボンが俺と話をしたときに使用したスキルなのだろう。
確か、契約や大事な話をするときなどの漏洩防止のためのスキルだったはずなのだが…
エルメダが興味を示さない内容なのに、そこまで慎重になる必要があるのだろうか。


『えーっと、先ずは基本的なことから説明させていただきますね』
『うん。お願いします』
『はい。では最初に言っておくことなんですけど、今回の消えない傷ブレイクショットの治療薬やポーションって言うのは薬師くすしとか錬金術師とか後は…修道系の人々もかな?そんな感じの職業の方たちが専門的に作っているのですが、本当は一般の方も作ろうと思えば作れます』
『えっ…そうなの?でも…その割りには価格が結構高い気がするんだけど…』
『はい、高いですね。それは、そういう職業の方が作ったポーションと言うのはある一定以上の効果が保証されているからです』
『スキル使って作ると効果が付加されると言うこと?』
『熟練度を高めた方の場合はそういったこともありますが、僕が言おうとしているのはどれも一緒ということです』
『どれも一緒?』
『はい。例えばアタルさんは料理とかして日によって味のばらつきとかを感じたりはしませんか?』
『最近はアンテロ任せだけど…一人でやってた頃は言われてみると確かにあった』
『次にこの料理をポーションに置き換えて、作る人をアンテロさんとして考えてみます』
『うん』
『アンテロさんがポーションを作る場合は、二種類の作り方が考えられます』
『二種類?』
『はい、先ずは薬師くすしとしてポーションを作る場合。続いて薬師くすしを発動させずに作る場合です』
薬師くすしを発動させずに作るなんてことできるのか?』
『一応、できるようですよ。ただほとんどの場合、そうするメリットがないらしいのでやらないようですが』
『なるほどね』
『話を戻しますがアンテロさんの場合、前者は失敗無しで全てが同一の商品となり、後者は失敗と成功が一定数で存在して薬の効果にムラができるようです。』
『なるほど。確かに言われてみると、モンスターとの戦闘中に怪我してポーション使用して回復しませんでしたとかだと洒落にならないよな』
『はい。なので製薬ギルド、修道院やその他の店などで薬などを扱う場合には、職業の裏をとったりして保証できるものを商品として取り扱っています』
『と言うことは、今回アンテロにレシピを渡して覚えてもらえば、失敗なく作ってもらえると言うことだよな?』
『はい、薬師くすしとして覚えて、薬師くすしの能力を使い作成した場合にはですけどね』
薬師くすしとして覚える??』
『はい、そうです』
『それって記録とかを見て覚えると言うことじゃないのか?』
『それで覚えられるのは、自分が正しい所作で行った場合だけです。実行していない場合では失敗などの結果も考えられるので、それは覚えていないと言うことになり、薬師くすしの能力で製薬することは出来ません』
『へー、色々と決まりがあるんだな。でも、そうなると今回、材料足りないみたいだしレシピを見ても職業的には覚えたことにならないんだろ?』
『ただ、ノルド様が今回アンテロさんに渡したレシピは、その限りではありません』
『えっ…どういうこと?』
『ノルド様が持ってきたのは、一見すると小さい木筒のようなものですが、実はれっきとしたマジックアイテムになります』
『マジックアイテム?あれが?』
『はい。今回あれの中には、消えない傷ブレイクショットの治療薬に関する記憶と言うものが封じ込まれています。それで、ある一定の職業につく者があのアイテムを使用したときに木筒の記憶が職業の方に追加されるんです』
『なるほど、そのある一定の職業というのが薬師くすしとかだってことか…ちなみに、その木筒の記憶ってどうなるんだ?』
『木筒の記憶は別にそのままです』
『なるほど、それじゃー、アンテロが仮に今のポーションの記憶をあの木筒につめたときはどうなるんだ?アンテロがポーションの記憶を忘れるとかあるのか?』
『それはないです。アンテロさんが職業の記録として覚えたことは忘れません。あと木筒の方に関してですが、中身が何もない木筒の場合はポーションの記憶が記録されます。そして他の記憶がある場合にはポーションの記憶が上書きされることになります』
『なるほどね。凄い便利だね』
『はい、それに薬の記憶だけではなく使用魔法を増やすことができたりもできます。元々は親から子への技術の伝達などをスムーズに受け継げるようにと開発されたマジックアイテムらしいです』


アンテロが自分に薬師としての職業があると知った切っ掛けで、エルメダやスルトたちが、おかしいと言っていたことがあった。
その時は不思議に思っていたことだが、今回フェンからの説明を聞いてスッキリと納得できる。


『使用魔法を増やせるとか凄い便利そう!』
『確かに便利ですけど、魔法の場合は魔力の兼ね合いとかもありますから覚えたからと言って直ぐに使いこなせるかと言うと、それはまた別問題らしいですよ』
『へー、やっぱり色々とあるんだな』
『ですね。それで、アタルさんに一つご相談があるんですけど…』


フェンの態度が急に改まった。
声のトーンも変わりなにやら真剣な話をしそうな雰囲気を醸し出している。


もしかして…
彼の話の本題と言うのは、これからが本題なのか?

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