神業(マリオネット)

tantan

2ー39★フィリア・ヴァン・ユースティティア

最初は目の前で老婆が茹でたソーセージを食べていた。
ただひたすらもくもくと食べる光景。
かける言葉も見つからずに、老婆の食事風景を眺めていると誰もが変化を感じた。


髪の毛は薄いクリーム色から徐々に濃くなると、今度は髪質までも変化していく。
気がつくと上から下まで一転の曇りもない光輝く金髪。
どこからどう見ても文句のつけようもないハリや艶を取り戻した美しい髪を取り戻している。
そして日が傾き、赤みを帯びた日の光が彼女の髪の毛を照らすことで、彼女の美しさは一層光輝いているように見えた。


肌もそうだ。
食べる直前は、齢を訪ねたくなるようなほど深いシワとシミが現れた肌。
青白く病弱ともとれるような肌の色だったのだが…
それが今では、シワやシミ、たるみがないだけではない。
肌の色も生き生きとした血色と透明感も遠目で見ただけで確認できる。
きっと触ると素晴らしいほどの潤いとハリを確認できるのだろう。


その場にいた女性たちは一瞬で彼女の肌と髪の毛に羨望の感情を抱いていた…


見ただけで分かる美しい肌と髪…


そんな女性が気がつくと座って物を食べていた。


誰もが彼女に起こった変化には詳しい説明をすることができない。
試してみようと思ったナカノ本人でさえ、ここまでの効果があるとは思っていなかった。
とは言ってもフィリアにはしっかりと変化や感想は伝えねばならない。
そう思い、彼女に上を向くように声をかけたのだが…


彼女の美しさにその場にいた全ての者が驚かずにいられなかった…
誰もが上を向いた彼女に声をかけることを忘れ、時間が経過するのを楽しむような表情で彼女の顔を見いることになる。


『あのぉー、申し訳ありません…そんなに見つめられると…』


上を向くように言われ上を向いてみたら、全員が自分の食べる光景を黙ってみている。
そんなシュールな光景に、彼女は頬を若干赤くしながら声をだした時、誰しもが我にかえった。


『あー、こちらこそ、ごめんなさい…どうぞ気にせず食べていいですからね』


最初に言葉を返したのはフェンだ。
本当なら謝罪した後は、彼女に自らの変化というのを伝えるべきなのだろう。
だが彼は冷静に彼女の容姿の変化だけを伝える自信がなかった。
もう少し自分の感情をコントロールできる時間が欲しいと思い、彼は彼女に食事をすすめたのだろう。


その時の「はい!」という返しのたった一言。
だが満点の笑顔と一緒に放たれた言葉に誰もが再びノックアウト寸前まで追い込まれた。


そうして彼女が食事を終えた頃には調査隊がストックしていたレバーソーセージや豚血肉と脂身の腸詰めブルートヴルストは残り半分ほどになっていた。


★★★


『ありがとうございました』


食事を終えたフィリアは一人一人に簡単ではあるが丁寧に頭を下げていく。
彼女が食事をする時間をフルに使い、なんとか抵抗力を高めることに成功したメンバーは笑顔で応える。
一応、食事の間にトーレがさりげなく彼女に鏡を渡し事前に変化を確認してもらった。
なので彼女は自分の変化については気づいている。
もちろん、その時の俺達は彼女の喜びによってなす統べなく一時ノックアウトされた。
そして一人一人を周り、最後に俺のところに来てフィリアは頭を下げたのだが…


(身分も最高、容姿も最高、性格も最高…多分、その他もすべてが最高なんだよね?でもそれって…怨まれるだけだよね…)


それが彼女に対峙した時の俺の第一印象だった。
恐らく状態としては復活したとは言っても宿り子の問題自体が解決したわけではないはず。
とは言え今の彼女の状態はベストにかなり近いはずだ。
まだ短い時間しかたってはいないから確定的なことは言えないが、恐らく欠点らしい欠点というのはないはず。
彼女の身の上話の中でも、美しくそして気高く誰からも恥じることなく正義の元に生きて来た人生という印象を受けた。
そして俺は自分がひねくれ者であることは小さい頃から自覚はしている。
そのひねくれ者の勝手な考えでしかないのだが…
彼女の人生は[誰もが羨む人生]と言う言葉を越えている感じがした。


『こちらこそ、とりあえず元気になってよかったです』
『本当に今回の事は何度感謝を申し上げても感謝しきれません。でも何故、ワタクシに試してみようとか思ったのでしょうか?もし宜しければ教えていただけませんでしょうか?』


俺より頭が1つ半~2つ位小さい彼女。
お辞儀をしてから直ぐ話をすると、俺を上目使いで見るような形になる。
ひねくれ者の俺は狙ってるとしたら、あざとすぎだろ!と心の中で思いながら…
丁寧に頭を下げる彼女のお願いに、多分…逆らえる男はいないのではとも同時に思い俺は彼女に話すことにした。


『あー、血塗れの宿り子伝説ブラッディメアリって、夜な夜な血を求めるモンスターっていってましたたよね?で、最後は討伐されると…それなら、手遅れになる前なら夜モンスターになって、朝には戻るってことですよね?だったら戻る方法あるんじゃないかと思ったんです。後、血を求めるってことは話に出てても、人間の血だけを求めるなんて事は話に出てこなかったので、それなら一度試すしかないかなと思いまして!』
『そうなんですね!ありがとうございます!』
『でも、問題の根本的な対処ではなく、あくまでも先伸ばしみたいな感じなので他の対策も考えないと…後はグリエルモさん?の方も確認しておいた方がいいとは思いますし…』
『あっ…そうでした…彼の事も…』


思い出したように彼女はそう言うと下を向きながら落ち着きない素振りを見せる。


『あー、申し訳ないのだが…もし良ければ一度計画を練り直した方がいいと思うのだが、どうだろうか…?』


俺とフィリアとの会話の間にアンバーが申し訳なさそうに入ってきた。
もうすでに夕日が指していて、問題自体も今日中に終わるとは思えない。
明日以降の事も考えると行動も色々と修正を加えることになると思う。
それらの事から残りの全員もアンバーの意見に賛成し出していた。

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