神業(マリオネット)

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2ー19★王女の回想⑤バビロン王家の証

バビロン王家の人間は幼い時、体のどこかに刺青タトゥーを入れられる。
バビロン王家の証と言われるそれは、一般的には王家とその他を区別するためのものとされていた。
実は…
あまり知られていないのだが理由は他にもある…


バビロン王家は子や孫と言った血縁者が受け継ぐ世襲制をとっていた。
子孫が受け継ぐと言えば無駄な権力争いなどないので聞こえはいいのかもしれないが、国を統治するのは財産や血統だけでは上手くいかない。
時にはある程度の力量というものが必要になる場合もある。
古来より親が優れているから子も優れているという考えはバビロンには無い。
なので世襲制とは言っても、先ずは自分も王に足るだけの力量があると国民に認めてもらう必要があった。
そこで王家は世襲式というものを作り、次に王を継ぐ予定の者が王としての力量を見せ国民を納得させる。
理解を得たところで長年に渡る統治をするという方法をとってきた。


この力量というのは別に単純な強さというものだけではない。
他を納得させることができる何かであればいいのだ。
人によっては新たな魔法を作り出す知識であったり、国民の生活の利便性を上げる制度であったり、何でもいい。
とにかく王を名乗る場合には国民から認められる必要があった。


だが、失敗はいつかする。
子が優秀じゃない、周囲に自分を含めて優秀な教師役がいないなど理由は様々。
そうなったときに世襲式を後日改めてぐらいの失敗であればいいのだが…
もしかすると取り返しのつかない失敗をする可能性もある。
今が良ければそれでいいという考えではない。
子や孫、まだ見ぬ子孫の繁栄を確約することができる手段は無いものか…
そこで考え出されたのが[バビロン王家の証ドーピング]であった。


古来より王家に伝わる特殊な液体を使い刺青タトゥーを彫る。
刺青タトゥーを受けたものは、自らの能力を引き出すことが出来るというわけだ。
デメリットは今のところ報告をされていない。


今のところ…
これのお陰でバビロン王家が誕生してから目立った国民の反感もなく国が存在している。
それどころかバビロン王家の証ドーピングを行うことで、特定の病気にかかった者などがいた報告もない。
と言うか、もし仮に報告されたとして代わりの策がない限り王家は選択し続けるはず。
バビロン王家を続けていこうと考えている限りは…
なので代わりになるような研究は細々ではあるが続けられてはいる。
だが積極的というほどの姿勢ではない。
そしてデメリットに関する事は報告どころか研究さえされていなかった。
むしろ先々代の王あたりで研究の拡大は漏洩の危険も招くということで、禁止しようかという考えもあったらしい。
王家は結果だけを必要としているからだ。
強いて言えば引き出される能力というのは、その者により様ざまなものになる。
だから、先ずはそれを知るために王家の人間は幼少の頃よりあらゆる訓練を無理強いされることくらいだろう。
そして王女の場合は水の魔法がバビロン王家の証ドーピングの影響を最も濃く影響を受けることになる。


彼女は生まれつきの魔法使いではない。
バビロン王家の証ドーピングを受けることによって水の魔法が使えるようになった。
運のいいことに刺青タトゥーを入れた後、カードに属性と魔力が反映されたので、きつい訓練などは他の者に比べて少なかったと言える。
それでも、彼女の魔法の頭角は直ぐに現れることになった。
自身の心優しい性格から人を傷つける類いの魔法は決して使おうとしないが、それでも使える魔法は非常に強力で実に多岐にわたる。
日数を費やし自身の全身全霊を傾ければ天候を左右することもできるほど。
彼女は自身が他所に嫁ぐ身であるというのは小さい頃より自覚していた。
この時も彼女の中ではヨハンの主に嫁ぐつもりでいたのだから…
自分はそこで幸せになれると疑ってすらいない。
だから世襲式で、その力をアピールするつもりはない。
むしろ今の自分の役目は日々、自身の魅力を高めていくこととさえ思っているので、世襲式には興味などなかった。
だが、もし披露することになれば国民は納得できるであろう能力があることを自身でも熟知はしている。


今回のこれは、もしかしたら自分の能力が関係しているのかもしれない…
むしろ、それ以外に考えられるところが今の自身には思い当たらないのだ。
先ず、異常なのは自分に流れる血。
そして血というのは液体であるから水の魔法の影響を強く受けるのでは?
彼女は、そのように考えた。
なので自身の証を改めて意識をしてみる。
魔法を使用する時や何か新たな魔法を覚えた時は証に熱を持つような感覚を覚えるのだが…
思い返してみても今回、血の異常を認識した時に証の感覚に全く変化はなかった…
触ってみたりしても全く変化も異常も見られない。
考えてもさっぱり分からない。
でも、自分の目の前には砂のように細かくなっている血のかたまりが転がっている。
その固まりは自分のみた光景というのが間違いではないという裏付けに他ならない。
どうしようかと途方にくれだした頃、自分のいる場所が庭であることを思い出した。
そして日もほとんど落ちかけているのに気づいた彼女は、体調を崩してこれ以上異常を抱えるわけにはいかないとも思ったのだろう、とりあえず部屋に戻ることにした。

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