神業(マリオネット)

tantan

2ー18★彼女の回想④花言葉

最初の異変に気づいたのは、王だった。
食事中に王が何気なくいった一言。
王女に向かって「凄い食欲だね」と言ったのだ。
言われた王女は全く自覚していなかったようで、自分の空けた皿を確認してみると…
四皿ものステーキを食べた後だった…
だが周囲からは、これも王女が全快した証だと言われたことで誰も問題にすることもなかった。
王女自身も王に指摘された事で恥ずかしさを覚え顔を赤くしてしまったのは事実だが…
それだけだ…
強いて言うのであれば皿から溢れたソースを見たときに、もう少し礼儀には気を付けるべきだったと思ったくらいだろう。
その後、体調を崩したりなどは一切無い。


二つ目の異変に気づいたのは彼女自身だった。


この世界の貴族など身分が高いとされる者は物心がついた頃にカードを登録する。
自分の名前や年齢、種族と言ったものをカードを通して知らせることは信頼に繋がると考えられているからだ。
もちろん、それは王や王女とて例外ではない。


この日、王女はとある話し合いに参加することになり、いつものようにカードを発動させようとした。
目の前にある特殊な板状のマジックアイテム。
この板は左手をのせてカードを発動させると板の上に自分の名前と年齢、種族と職業が表示される。
だがステータスなどの詳細については表示されないと言う、その程度のマジックアイテムなのだが…
特権階級が身分証代わりに使用するには、かなり便利なマジックアイテムなのだ。


その日の話し合いの控え室で王女は、いつもと同じ所作を行ってみるのだが…
何故だか、王女はカードを発動させることができなかった。
呪詛に悩まされる前は問題なくできた作業。
と言うより…
カードの発動自体は寝込んでいた時でも出来た。
それが今はできない。
二度三度と繰り返してみるが、やっぱりできなかった。
相手はすでに到着しているので、あまり待たせるわけにもいかない。
かといって信頼問題に繋がるのでカードを見せないと言うこともしたくなかった。
焦りに任せて何度も何度も繰り返すが全く成功する気配がない。
次第に彼女の顔から血の気が引いていき、しばらくするとその場に倒れこんでしまった。
その後、様子を見に来た侍女に発見されその日の話し合いは急遽中止となってしまう。


倒れた王女は寝室で休んだ後、周囲にその日の出来事を話した。
近くにいた者から、もう一度カードの発動をお願いされて実行してみると成功してしまう。
なんなく成功してしまった。
王女の話を聞いた者もカードの発動だけで疲れるなんてことは誰も聞いたことがないと言う。
強いて言うのであれば、疲れている時に発動した時ぐらいであると…
なので無理のし過ぎだろうと言うことで周囲の意見は一致する。
王女も自身に起きた出来事に首をかしげはするが、とりあえずは納得しその日は大事をとることにした。


三つ目の異変も彼女自身で気づく。


二つ目の異変から数日たち、何気なく彼女は庭を散歩していた。
カードの発動に失敗したのは、あのときの一度きり。
なので彼女の中では、みなの言うように疲れが原因だったのだろうと結論が出ていた。
あれ以来、体調の方まだ万全とは言いがたい。
多少だが貧血気味に感じる時がある。
周囲からも無理はせずにと言われていたこともあり、大好きな花でも眺めていようと庭を散歩していた。


今いる場所は彼女が大好きな庭の中でも最も好きな薔薇が一面に咲いてあるエリア。
赤や白は勿論、青やピンクなど様々な色の薔薇が咲いていた。
見た目の美しさもさることながら、かぐわしい香りも彼女は気に入っている。
更には、雲一つない青い空が薔薇の魅力をもう一段引き上げてくれるようだ。


王も王女が薔薇が大好きと言うのは勿論知っていた。
なので彼女にどうにか元気になってもらおうと、専門の園芸師まで手配していたほどだ。


大好きな薔薇の魅力に彼女は夢中になり、その場に座り込んだ。
確か園芸師が変わった薔薇が…
とか言っていたような気がする…
という曖昧な記憶なども思い出していた。
彼女は時間がたつのも忘れて気づくと夕方まで薔薇を眺めていた。
空色が変わり、そろそろ中に入った方がいいのかなと考え出した頃、知らない薔薇があるのに気づく。
その薔薇は一見すると黒い薔薇に見えた。
だがよく見ると黒赤色とでも言えばいいのだろうか、黒と赤が混ざっているようにも見える。


彼女は心の中で、これが園芸師が言っていた薔薇のことなのかと思いながら何気に手を近づけてみた。
手を近づけたのは花を摘んだりするわけではない。
理由などは特になく何となくという軽い気持ちだったのだろう。
フラッと右手を花ビラに近づけて、今度は茎の方に移動させる。
そんな無意味な動作をしたときに棘で指先を傷つけてしまった。


右手の人差し指を軽く傷つけて彼女は我にかえり、反射的に右手を自身の方へ戻す。
その際にほんの少しだが血が指先から垂れる。
自身の目の前で起こった光景だけに、その血の動きは彼女の目線が無意識の内にとらえていた。
気がつくと彼女は血の動きを目でおっている。
どこにいくのかと気になるわけではないが目に入ってしまっただけだと思ったのだが…


目に入った血は彼女の前で明らかに不自然な動きをみせた。


彼女の指先から垂れた一滴の血は、空中を一直線に落ちた後、薔薇の花ビラに当たることになるのだが…
なんと薔薇の花ビラが、少し粗めの砂に当たったがごとく一滴の血を跳ね返す。
そして、その血はそのまま地面に落ちると軽く転がり出したのだ。
血は液体だから薔薇に付着するのではないかと思った彼女だが、見た光景は全く違ったものだった。
彼女は目を丸くしながら地面に落ちた血を確認してみると…
赤い固まりになっていた…
指から流れた血が地面に落ちるまでの間に乾燥したということなのか?
いや正確には、薔薇に跳ね返るまでの間なのだろう。
そんな馬鹿なことはないはずと思い、彼女は自身の右手を触る。
すると今しがた血を流したばかりの手が、手当てなどしてないのだが…
人差し指に瘡蓋ができて血が止まっていた…

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