神業(マリオネット)

tantan

1ー86★演出

俺とエルメダ、アンテロの三人が別室で手続きをして戻ってくるとイーグルのみんなは先に帰っていた。
本来であれば討伐報酬を受け取り終わりなので時間は掛からない。
だが受け取りの手続きをしている最中で部屋にいた都市局の職員から、ある提案があった。


通常、この都市を出入りする際には銀貨一枚(1000YUN)相当を支払わなければいけない。
なのだが都市に近づくモンスターの討伐や都市に続く道の整備など、場合によっては外で行わなければいけない仕事もおおくある。
イーグルの討伐などがそれに当たる。
そこで都市局は信頼がおけて一定以上の実績を積み重ねた個人や団体には許可証を発行して、都市の出入りをある程度は自由にしていた。
今回、三人には特別にこの許可証を発行しても良いと言う提案があったのだ。


俺の方としては、もう暫くイーグルと行動をするつもりだったので、許可証の方は別にどうでも良かった。
だが二人の考え方はどうやら違う考えだったようだ。
特にアンテロ、今はまだ無理だとしても先々としては旅に出ることになる。
徐々に都市の出入りを多くすることを考えると、どうやら許可証と言うのは魅力的に見えるようで…
エルメダを巻き込んで、ものすごい勢いで力説してくる。
信頼があると言うことは、ある方面では身動きがとりづらくなると思うのだが…
アンテロは、その辺りはきちんと考えているのだろうか。
結果は別に後日でも良いと職員は言ってくれていたのに、アンテロは捲し立ててくる。
お陰で話は闇雲な方へ進みすっかり長引いてしまった。
エルメダなんて、さっきはお腹減ったとか言ってたのに…
すっかりアンテロにコントロールされている。
そして…その提案には、どうやら条件があるようだった。 


そんなわけで討伐報酬を受け取り先程の部屋に戻ると、市長が一人で優雅にお茶を飲んで待っていた。


『どうもすいません。お待たせしてしまったようで…』


先ずは待っている市長に謝罪をした。
すると市長はテーブルにカップを置き、スクっと立ち上がり気にしないとでも言うように首を横に振って喋り出す。


『ナカノ君、私の方としては全く問題ありませんよ。ただ、イーグルの皆さんは、できるなら休日を満喫したいと言うことで、先に帰りましたよ』
『ですよね…さすがに待っててくれと言えるような時間じゃなかったので…ほら、二人も早く謝罪して!』


俺はアンテロとエルメダの首を掴み強引にお辞儀させる。


『申し訳ございませんでした』
『だって…ごめんなさい』


二人とも謝りながらも若干納得がいかないような顔をしている。
少しは場面と言うものを考えてほしいものだ。


『御二人とも気にしないで下さい。それより報酬の方は問題なく受けとりましたか?』


心地の良い声で市長が気にしてくれる。
ほんとに好感度が高い方だなと感心する反面で…
ブヒーとか豚を連想させる口癖があったほうが違和感ないのにと不謹慎なことを考えてしまった。


『あー、はい。それは問題ありません。ありがとうございます』
『それなら良かった。ところで時間かかったのは、恐らくですが提案の件についてでしょうか?』
『はい、そうです。ただ具体的な条件と言うものを聞いてからではないと何とも…』
『なるほど、確かにおっしゃる通りだと思います。もし宜しければ、昼食を食べながらと言うのはいかがでしょうか?都市局の料理は非常に評判が良いですよ!』
『えっ!!ご飯??美味しいの!食べたい!』


市長からの申し出にエルメダが待ってましたとばかりにくいついてきた。
見ると目をキラキラさせている。
断るとか言ったらどんな反抗が来るのか…


『ありがとうございます。そうですね。せっかくなのでいただきます』


俺の言葉に合わせて、アンテロもお辞儀をして食事の誘いを受けた。


『はぁーーい!、それでは準備しましょう!!HEY!!!』


大きな声で市長はそう言うと、両足を自分の肩幅よりやや広いくらいに広げる。
次の瞬間、自分の右手を人差し指で天井を指差すように垂直に高く上げ、おしりを左側につきだした。
そのまま自分の左手を左の腰に当てる。
次の瞬間、右人差し指にはめてある指輪がキラリと光を放ったように見えた。
俺たちは不思議に思いながら天井を見る。


(えっ…?何?)


だが当然と言えば良いのか…上を見ても何もない…
市長が妙なポージングをとったのでつられてみてしまった。
むしろ、つられてしまった感がして恥ずかしい…
この動作の意図するところが分からずに、俺たちは首をかしげながら視線を天井から下に戻したのだが…


テーブルの上には様々な料理が並んでいた!!


(えっ??ちょっと!!何これ!すごっ!!)


俺だけじゃない、エルメダもアンテロもビックリして声がでない!
二人は口をパクパクさせているが、俺もたいして変わらない顔をしているかもしれない。
何度も市長とテーブルを繰り返し見ている。


『いやー、驚いてくれたようで、こちらとしてもやった甲斐があります。実生活に全く役に立たない私の唯一のスキルなんですよ!それにしても昼食断られなくて本当に良かったぁ~!』


爽やかな笑いと共に市長が言うのだが本当なのだろうか?
詳しいやり方は俺には分からないが…
市長はスキルだと言っていた。
もし仮にスキルの内容が一定の物品を自由自在に出したり消したりできる能力だと考えたとき。
それが実生活に役に立たないわけがない。
もしかしたら、この市長は才能を無駄遣いしているのではないかと思う中で、俺たちの昼食はスタートした。

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