神業(マリオネット)

tantan

1ー85★ギャップ

フェンとの話し合いから三日が経過した。
その後の調査員の話を聞く限りでは、やはり悪魔の石像ガーゴイルの痕跡というのは見つからないと言われた。
ただ、火事については多くの人が関わっている。
それに不自然に空いた穴(ラゴスの魔法で出来たもの)や悪魔の樹デビルツリー氷鳥アイスバードの残骸などについては間違いない。
それらを目撃した者の多くは詳細は分からなくても、何かしらの問題発生したであろうという察しはついているようだ。
都市の治安を司る保安局としては、不必要な問題を抱えたくはないということで、俺達には通常よりもかなり多目の
討伐報酬が払われることになった。
要するに口止め料ということなのだろう。
俺たちは今回の件について改めて話し合いをして、この討伐報酬を受けることにした。


一応、アスタロトの事などはソフィアが色々と調べていたようだ。
話を聞いてみると、証拠らしい証拠を集められなかったと言っていた。
なので保安局へ話すには、どうにも心もとないものらしい。


ということで俺たちは今、全員で都市局と呼ばれる場所に来ていた。
待合室で待たされること3時間は経っているはずだ。
マトモに待っているのはヘンリーとアンテロ、セアラだけ。
ソフィアとラゴスは良い顔で夢の中という感じだから問題はないとしても…
朝早くから来て今は昼過ぎ、エルメダはそろそろお腹が減ったと騒ぎ出すかもしれない。
現に貧乏揺すりなんかをして俺の方をチラチラと見ている。
一応、何かを言い出そうとするとアンテロが宥めてくれてはいるが、そろそろ限界なのではないだろうか…
俺の方も限界間近のアピールを含めて大きな欠伸をしたところで、やっと待合室の扉が開いた。




『お待たせして申し訳ありません。準備の方が出来ましたので、みなさまこちらへお越しください』 


やっと係りの者が呼びに来た。
長すぎる待ち時間に思わず文句が出そうになったが、あちらにも色々と都合があるのだろう。
あまり揉め事は起こさないように黙って指示に従おうと思ったのだが…


『すいませーん。お腹減ったんですけど~』


アンテロがソフィアとラゴスを起こそうとエルメダから目を離した一瞬…
彼女が空気を読まない一言を発した…
とりあえず俺とヘンリーで係りの人に謝りつつ、全員で市長のいる部屋に向かった。






『市長、失礼します!みなさまをお連れしました』
『ご苦労!それでは、入ってもらってください』


先に係りの人が市長に一言入れた後で俺たちが呼ばれて部屋に入ると…
そこには俺よりも頭一つ分、小さい二足歩行の豚がいた…


(え??なんで…豚が普通に会話して二足歩行で歩いてるんだよ…)


異世界に来てエルフ・ドワーフも見た。
亜人も見たし、モンスターも見た。
色々と不思議な体験もしたのだが、何となく納得してきたつもりだ。
だが目の前に見える者については言葉がでない。
確か亜人というのは基本的に体の一部が異なるはずなのだが…
ふと市長の手に目をやると両指とも5本づつ。
二本足でいるところから見ても体の一部と言うのは、この場合は顔のことを言うのだろう。
人なのかエルフなのかドワーフなのか判別ができない。
豚なのに黒い髪に眉毛が生えていて若干不思議な感じはするが、顔は見間違いようもない誰がどう見ても豚だ!
靴は何かの皮なのだろうか茶色い皮のような材質の靴。
黒のスラックスのようなズボンと黒のベストに白いシャツ。
ネクタイまで着けて上下はピシッと決まっている。
さすが市長とでも言えば良いのか、服装からかなり決まっていると思う。
格好いいバーテンダーという雰囲気とでも言えば良いのか、仕事もやり手というオーラを感じるのだが…
顔が豚という違和感…
どこまで聞いて良いのだろうか…
初対面ということもあり、俺の方からは声がでない。
ふと横の方を見ると全員が当然とばかりに無言でお辞儀している。
とりあえず俺も、みんなに習ってお辞儀をした。


『どうも、イーグルの皆さんお久しぶり。そちらの三人は初めましてですね。私が市長のジンガーと言います。先日の戦闘では都市のために尽くしてくれてありがとうございました。みんなを代表してお礼を言わせていただきます』


非常に優雅なしぐさと落ち着いた声のトーン。
きっと目を瞑り聞くと、どれほど素敵な紳士が喋っているのだろうと錯覚しそうになるだろう。
だが目の前の現実に目を向けると豚なのだ…
とりあえず俺は挨拶をするべく心を落ち着ける。


『市長、初めまして!アンテロと申します。今回の事は都市の討伐を担う者として当然の事と自負しております』
『あー、そんな畏まらないで下さい。式などではないので』
『どうも初めまして、エルメダです』


市長の言葉の後でエルメダが、可愛らしくお辞儀をして挨拶をした。
当然、その次は俺の番なんだよね。


『確か、君はアタル・ナカノ君って言うんですよね?最近、この都市に来たと言うのは間違いないですか?』


超絶イケボの豚市長は俺の事をご存じだったらしい。
一瞬、「なんで?」とは思ったが…
今回の件はそこそこビックニュースなのだろう。
それであれば事前に情報を入手しておくのも市長としての仕事の一つなのかもしれない。
若干肩透かしを食らった感はあるが、意外すぎる市長からの言葉に俺は会釈で答えた。


『そうですか、ありがとうございます。時に質問なんですが、アンテロさんとエルメダさん、ナカノ君の三人は一緒のパーティでいいのですか?』
『はい、その通りです。ただ、結成したばかりなので今は、イーグルの方々に教えてもらいながらですが、なんとかやっています』
『なるほど、では先ずは討伐報酬を渡したいと思います。報酬はチームごとに支払いますのでイーグルの方は出て左の部屋、ナカノ君達は出て右の部屋で報酬を受け取ってください』


と言われたので、俺たちは市長の指示のもと別々の部屋に移動することになった。

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