神業(マリオネット)

tantan

1ー70★食い違い

ヘンリーたちの話が終わると程なくしてエルメダが十数人を引き連れてきた。
全員が水魔法を使えると言うことで、消火活動を行ってくれるらしい。
どうやらエルメダが事情をうまく説明してくれたようだ。
人数の方もじゅうぶん足りるように思える。
俺の方としてはメインで消火活動するとはいかなくても、もう一苦労はあるのかと思っていた。
だが必要はないと言うことで、安心したら一気に力が抜けた。




力が抜けたついでに俺はダメージや疲労に身を委ねたのだが…




『……カノ…ま……カノ様!ナカノ様!』


誰かが呼んでいる気がすると思い目を開けると、自分の家のベッドにいた。
どうやら俺は気絶していたらしい。
呼んでいたのはアンテロだった。
状況がつかめずに、何故?どうして?という感情が先行している。
だが、それよりもアンテロが何かを言っていた。


(俺の聞きたいことは後回しでもいいかな…)


『お疲れなのは重々承知なのですが…面会が来ていまして、申し訳ございません…』


頭を下げながら話してはいるが…
今日、俺に面会の予定というのはないはずなのだが…
と言うか気絶して身動きのとれなかった俺に約束など出来るはずもない。


『アンテロ、気にしないで。それよりも面会?俺、約束とかないはずなんだけど…』


寝過ぎてしまったからなのか、頭が若干クラクラするのを耐えながらアンテロに聞いてみた。


『いえっ…あの昨日の事は覚えていますか?』
『はいぃ?昨日の事って…??』
『あのっ…皆様でモンスターと遭遇して戦いまして…』
『ん?昨日、みんなでモンスターと戦った?それって…もしかして…?』
『はい。一日経っております』


アンテロが控えめに言ってきた。
ふと外を見ると日が暮れようとしている。
どうやら俺は悪魔の樹デビルツリーとの戦いから1日以上もの間、眠り続けていたらしい。
正直、どこまで醜態をさらせばいいのかと思ってしまうが、今はそれどころではないようだ。


『そっか、ごめんね。それで面会というのは…?』
『市の調査員の方が昨日の事について事情が聞きたいと…』
『なるほどね』


単なる戦闘だけではなく、その後は外部の人も巻き込んでの消火活動。
あれだけの大立回りだけに、色々と調べる人もいるということだろう。


『分かった。下に待たせているんだろう?それじゃー、行こうか』
『はい、こちらでございます』




俺はアンテロと一緒に2階の寝室から1階にある応接室に移動した。




応接室にはベレー帽を被ったエルフの青年が座っている。
俺が応接室に入ると青年は立ち上がり礼儀正しく一礼をして挨拶をしてくれた。


『初めまして、私は保安局のカントと申します。ナカノ様ですね、宜しくお願いします』
『はい、私がナカノです。多分、昨日の件ですよね?』
『そうです。色々とお話を伺いたいのですが宜しいでしょうか?』
『えーっと、いいですけど…ただ…答えられることって限られていると思うんですけど…』
『はい、もちろん分かる範囲で構いません』


と言うやりとりから事情聴取はスタートしていった。
なんでもヘンリーやラゴスなど、イーグルの面々は昨日の内に事情聴取を済ませているらしい。
アンテロもエルメダと一緒に今朝、自分達から保安局の方に向かい事情聴取を済ませたと言ってた。


聞かれた内容は実にどこにでもあるような内容だ。


先ずは俺の身元。
ここにはいつ来て誰と一緒に来たのかといった質問から始まっていった。
一通り終わると次は、本題の昨日の戦闘についてだ。
誰に何人で襲われ、どんなモンスターと戦ったのか。
相手の名前は分かるのか。
当然、俺は聞かれたことには素直に答える。
だが、話の内容が相手の目的等に及ぶと全く分かることがない。
その度に首をかしげることになるのだが、それでも青年は熱心に質問してきた。
かなり真面目な性格なんだろうなと思う。


『そうですか…でも、悪魔の石像ガーゴイルに乗られたのですよね?良くご無事でしたね?』
『いやー、全然無事じゃないですよ…体ボロボロで危機が去った途端に気絶してしまいましたから…』
『そうですか!それで、その悪魔の石像ガーゴイルはどこにあるのですか?』
『はあぁぃぃいぃぃ?どういうことですか?』


俺は自分の耳を疑った!
このカントという調査員は何を言っているのだろう。
頭は大丈夫なのか?と本気で心配してしまった。


『いやー、昨日と今朝、そちらのアンテロ様も交えたお仲間の方々にもお話を聞きました。確かに悪魔の石像ガーゴイルらしい大きな岩があるとも言ってました。それで昼間、現場検証に言ってみたんですけど…無かったんですよ』
『えっ…無いって、どういうことですか?』
『それを聞きたくて、こちらからお伺いさせていただいたんです』


俺の視線はカントに釘付けだ。


(おい、おい、お前ふざけんなよ…)


俺は自分で間違ったことは言っていないはず。
アンテロの方へ視線を向けると、アンテロも静かにうなずいてくれた。


『昨日、消火活動をしてくれた方達はどう言っているんですか?』
『はい、実は…消火に集中しててあまり見てないと…』
『えっ…?でも、あの大きさが分からないって…』
『先程のナカノ様のお話通りですと確かに分からない訳がないんですが…間違いないですよね?』


カントの目線が一瞬流れているように感じた。
もしかしたら疑われている?


『それは間違いないですよ』
『分かりました。もう一度こちらの方でも調べてみますので。もしかしたら今度はご同行いただく可能性もあるので、そのときはご協力いただけますか?』


あんなでかい岩が見当たらないなんて俺には理解できない。
かなり納得できない話だが、調査員も仕事だけに嘘を言っていないはずだ。
この後もう少しだけ、お互いの言い分が微妙に噛み合わない事情聴取が続いていった。

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