神業(マリオネット)

tantan

1ー65★一時の安心

ヘンリー達は周囲に敵やトラップの危険はないか、慎重になりながらナカノを探していた。


『あれは…』


先頭にいるラゴスが何かを発見したようだ。
後ろにはヘンリー、アンテロ、殿にはセアラと並んでいる。
エルメダは上から何か異常がないかと確認していた。


『下にいるのはナカノさんだね…』
『えっ…ナカノ様ですか!』


モンスターの形をした石の下敷きになっているナカノを見つけた。
背中には服を切り裂かれたような跡が二ヶ所あり、跡からは背中が赤く腫れているのが分かる。
だが傷を負っているとは言っても、とりあえず命に別状などはないように見えた。
ラゴスの言葉の後にヘンリーが状況を確認するように喋る。
続いてアンテロが驚き、いてもたってもいられないと言う表情で声を上げ近寄ろうとするのをラゴスに止められた。


『近寄りたいのは分かる。だが先ずは用心せんといかん』
『あっ…軽率な行動ですいません。確かにそうですね…』


ヘンリーは一人振り返り上を向く。
エルメダにジェスチャーを送ると、エルメダは両手で大きな丸を作っている。
どうやら敵やトラップと言った心配はないようだ。


『ナカノさん…聞こえますか…?』


わずかに見える指や顔の一部がわずかだが動いている。
どうやら気絶などはしていないようだ。
なのに呼び掛けても返事をしてくれない。
ヘンリーはラゴス以下に、その場にいるようにジェスチャーで示し、みんなから少し距離をとる。
そのままナカノを中心にするように弧を描くように歩いて反対側に回り、顔を確認できる位置まで回り込んできた。


『ナカノさん、ヘンリーです!もしかして…喋れないですか?』


目線を合わせながらヘンリーが言うと、ナカノの石の下敷きになっている右指が小さく動き出した。


『んー…、トラップか…』


ヘンリーは口を一文字にして困った口調で言う。
反対側で様子を見ていたラゴスも気づいたようで、アンテロとセアラに自分の予想を喋っているようだ。


『はー…、もう~、あのクソガキは…やっぱり予想通りかい…』


ヘンリー達に遅れてソフィアがナカノのところに到着するなり言ってきた。


『ソフィア、あのクソガキって…何か知ってるのか?』
『まー、知ってるけど、今は詳細を喋っている場合じゃないけどね』
『確かにね、それで、どうにかなりそう?』
『まー、やってみるよ』


ソフィアはヘンリーと会話し終わると無造作にナカノの方へ近寄っていった。


『よーし、とりあえずは座らせてもらおうかね』


ちょうど、アスタロトが地面に刺していったであろうナイフのすぐ横の位置に座り込んだ。
その後すぐに他のみんなにも近寄ってくるように合図を送る。


『おばさん、大丈夫なの?どっかり座っちゃって』
『あー、もう大丈夫だよ。元凶は逃げていったからね。火をつけて樹の処理もできそうだし、後はこの子を助け出して逃げるだけさね』
『ナカノ様は大丈夫なのでしょうか?』
『よーし、それじゃー。先ずはアンタの上に乗っているモノって言うのは悪魔の石像ガーゴイルかい?合ってるなら右指で二回地面を叩いて、違うなら動かなくていいよ』


コツコツ
音が小さいが確かにナカノは地面を二回叩いた。


『おいっ…本気か…!!』


誰よりも早くラゴスが驚いた!


『ラゴス様、悪魔の石像ガーゴイルというのは?』
『あーっ…ゴメンね!周囲に火もついちゃってて時間もあまりないから無駄話は後にしてね』


ラゴスの驚きに傷の手当てをしているヘンリーのサポートをしているアンテロが反応した。
だがソフィアがアンテロの言葉を少し乱暴ぎみに遮る。
と言うのも現状を考えれば仕方がない対応と言えるはずだ。
言われてみると若干の焦げ臭いにおいと白っぽい煙が多くなっているような気がする。
みんなの顔は再びソフィアとナカノの方へ向いた。


『やっぱり悪魔の石像ガーゴイルだったかい。召喚悪魔だってことなら、もう喋っても大丈夫だよ!今の悪魔の石像ガーゴイルは単なる石に戻っちまったよ』


二人を除いた全ての視線がナカノの方へ向いた。


『すいません…無様な姿で…』


第一声、ナカノが小さく声を出す。


『何言ってんのさ、キャリア積んでないアンタが一人でどうこうできる相手じゃないよ。ホントならね…』


ソフィアの視線がラゴスを睨み付ける。


『すまん。ホントなら…』


気まずそうにソフィアの視線から目をそらした後、申し訳なさそうにラゴスが頭を下げる。


『それで、とりあえずどうなんだい。ラゴス、アンタならなんとかできるよね?って言うか悪いと思うならしろ!』
『そうだな、とりあえず火の具合から、あまり時間がないだろ。少し粗っぽい方法になるが構わないか?』


中腰になりながらラゴスはナカノに聞いてきた。


『えっ…?何とかなるんですか?良かった~。ダメだと思った~』
『よーし、では傷の手当てが終わったら早速やるからヘンリーとソフィアは手伝ってくれ!』
『了解!』
『はーい、分かったよ~!って、魔法のコントロールってことだろ?』


ラゴスの一言だけでソフィアは何をやるのかわかったようだ。
喋った後、黙ってラゴスの後ろに立ち両肩に自分の手を乗っけていた。

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