神業(マリオネット)

tantan

1ー52★特性

一般的に植物系のモンスターには強敵が少ないとされている。


植物の多くは地面に根をおろしているものがほとんどで、これはモンスターにおいても同様だ。
なので植物系のモンスターが移動する場合には、地面におろした根を地上まで持ち上げてからの移動となる。
そのため植物系のモンスターは移動をしやすくするために根をあまり長くしない種族がほとんどだ。
逆に根が長いと言うことは、その分だけ移動のことを考えていないモンスターということになる。
また植物系のモンスターの多くは火や斬撃などというように弱点が多いと言われている。


だから敵となるモンスターが悪魔の樹デビルツリーのみであれば、周囲の安全と距離を保ちつつソフィアの火炎魔法で攻撃を一掃するのが最善と言える。
もしくは近づいてヘンリーとラゴスの力任せの斬撃で簡単に討伐は終わるはずだった…


火の玉魔法ファイアーボール!!』
『チィー、チッチッ!』


ソフィアが悪魔の樹デビルツリーを焼き払うべく火の玉魔法ファイアーボールを放つ。
するとソフィアの魔法に合わせるように氷鳥アイスバードが鳴き声を出しながら空中で1回転をする。
氷鳥アイスバードが1回転をした軌道には周囲2m四方位の氷の壁が現れた。
現れた氷の壁はソフィアの火の玉と相殺するように互いにぶつかり一緒に消えてしまう。
ソフィアと氷鳥アイスバードの攻防がこれで3度ほど続いている。
氷鳥アイスバードはソフィアの火の玉を防ぐ度に、決めポーズのように左右の翼をソフィアの方に向けて挑発しているように見えた。
その度にソフィアが舌打ちをしているようだ。


『やっぱ…弓矢も持っておくべきだったか…』


ソフィアの横でセアラが悔しそうに声を漏らしていた。
普段、セアラはモンスターの処理とかを行うことが多い。
その為にパーティの後方攻撃はソフィアの魔法攻撃に任せ、自分は槍を装備して中衛位置にいることが多い。
装備としては槍よりも弓矢の方が得意なセアラ。
だが出番が圧倒的に少ないので、弓矢を持ってくることは殆どないのが今回は仇になってしまったようだ。


俺とエルメダの方には、悪魔の樹デビルツリーの根が無数に襲いかかってきていた。
初撃は地面から細長いドリルのような根が一本。
だがエルメダの機転で、それが避けられたと分かると今度は狙いすました一撃から避けようのない連撃にスイッチしてきたようだ。
地中からは鞭のような根が数えられないほど現れて俺とエルメダに襲いかかってくる。
恐らく狙いは俺とエルメダの行動を阻害することだろう。
俺は自分のナイフでエルメダは風魔法である風の刃ウィンドウカッターで、手の届く範囲の根を片っ端から切っていくが根の数はいっこうに減らない。
俺もエルメダも余裕なく根の対処に精一杯だ。


そして悪魔の樹デビルツリーとの対決で最も貧乏くじを引くことになったのがヘンリーとラゴスだと思われる。
ソフィアが叫び、俺が根の一撃を受けそうになったとき、ヘンリーが悪魔の樹デビルツリーと叫んだ。
これは奇襲に乗じて一気に勝負を仕掛けようとするモンスターが、正面のヘンリーとラゴスに本来の姿を見せたからに他ならない。
その姿は樹の正面に大きな目が1つ付いているだけだった。
口や鼻や耳と言った顔らしい部分などない。
他にあるものといったら…
左右に対になるように太めの枝が腕になると言わんばかりに生えてきて、ヘンリーとラゴスに襲いかかってきた。
だが戦闘経験豊富なヘンリーとラゴス。
イキナリの奇襲攻撃とは言っても相手は左右対になっている枝。
ヘンリーとラゴスの二人であれば相手にもならない。
お互いが自分の持てる最大限の斬撃にて枝を一刀両断した。


『ギィィィ~、ヤアァァァァァー』


モンスターが叫び声を辺り一面に撒き散らしながら、左右に伸ばした枝を地面に落とす。
二人の斬撃による断面からは、何かドロッとした少し茶色っぽい透明な液体が垂れている。
痛がるモンスターは叫び声をあげながら切られた枝を無茶苦茶に振り回す。
その仕草は二人を近づけたくない、モンスター最後の足掻きのようであった。
ただ闇雲に茶色っぽい透明な液体は辺り一面に撒き散らされていく。
ヘンリーとラゴスは浴びたくないからと距離をとったのだが…


これが失敗だったのかもしれない。


モンスターが悲鳴をあげ終え大人しくなるのを二人が待つと、何やら臭いのようなものが漂ってくる。
何やら甘いような酸っぱいような感じで、どこかで嗅いだことがある臭いだ。
その臭いは瞬く間に辺り一面に漂い、反対方向にいた俺やエルメダ、ソフィアの方にまで臭いが漂っていた。


『あれっ…?これって…?樹液か…?』


そう言えば子供の頃にカブトムシとかクワガタ捕まえるのに樹を見つけて喜んだ記憶がある。
だが…モンスターとの戦闘中に何故懐かしい臭いが?
絶対に今は、そんな場合ではないはずだ!
などと思いつつ言葉と共に襲いかかる根の隙間からヘンリーとラゴスの方に視線を向けると…


そこには細かく黒い物体が無数に広がり霧のように二人の姿を一切隠していた。
あの位置にいたはずだよなと思い目線を切らずにいると…


『あーっ…クソっ!忘れてた…』
『マジか…引っ掛かっちまった…』


微かに聞こえるヘンリーとラゴスの声。
俺は二人は間違いなく黒い霧の中にいると確信した。


(これは…どう見てもヤバイよね…)


俺が焦りを隠せない分だけ、モンスターには喜びが隠せないようである。
先程までは身動き一つなく樹木となりきっていたモンスター。
今度は身をよじらせて大きな目を俺たちの方へ向けた。
その仕草が俺にはモンスターのくせに優越感に浸っているように感じる。

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