神業(マリオネット)

tantan

1ー41★俺は病気なのか?

結局、アンテロは本当に俺の家まで押し掛けてきた。
俺は馬車の中で揺れながら、何処かで嘘だろ?と思っていたのだが、全く引き返す様子がない。
馬車の中ではアンテロとエルメダはチラチラと俺の様子を見ながら話をしていた。
俺の家についた後は、馬車の運転手も早く帰りたいようで、アンテロとエルメダが荷物を馬車から下ろすのを率先して手伝っていた。
そして荷物を全て下ろした後は逃げるように帰ってしまい、俺は家の前に一人でいる。
エルメダとアンテロの二人は元気に俺の家まで運んできた荷物を今度は部屋の方へ運んでいた。


『ナカノさん、終わりましたー!もういいですよ』
『はい?良いって…別に外で待っていたとかではないんだけど…』
『でも、引っ越し終わって日も暮れたし晩御飯まだですよね?』
『確かに晩御飯まだだけど、それはエルメダも一緒でしょ?』
『うん、だからアンテロがご飯の準備をしてくれたから呼びに来たの!』


エルメダに言われて家の中を見てみると、何やら良い臭いが漂ってきた。
確かにエルメダが言う通りに腹は減っているのだが、言われる通りにご飯をいただいてもいいのだろうか…


(そうじゃなくて!ここは俺の家だよな…)


なんか錯覚に陥ってしまいそうだが、とりあえずは家の中に入ることにした。




家の中に入り1階奥のキッチンまで足を運ぶと、エプロン姿のアンテロが当然のごとくいた。
勿論、俺はアンテロに一言でも文句をいってやろうと思いとりあえず近づくと


『ナカノ様、修道院の方から食材を分けていただいたので、今日の晩御飯はそれで準備させていただきました。お口に合うと良いのですが』


アンテロが振り向き様に俺に言ってきたのだが、俺はとりあえずアンテロから目を伏せてしまった。
俺はアンテロが眩しすぎて、照れてしまい恥ずかしくて見てられなかったのだ。
もう既に日も暮れたのだが、俺の家のキッチンだけは真っ昼間に戻ってしまったかのように錯覚してしまった。


『あっ…ありがとうございます…それじゃー、とりあえず食べましょうか?』


あれだけ文句を言ってやろうと決めていた俺だが、いざ面と向かって出てきた台詞が「食べましょうか?」なんて…
それも自分が照れているのを悟られたくないがために、俺は余裕を見せながら振る舞っていた。
俺のそんな気持ちに知ってか知らずか、アンテロが笑顔で料理の説明をしてくれる。


『ナカノさん、アンテロの料理は本当に美味しいの!私も久しぶりに食べるから楽しみ!』
『ありがとうございます。お嬢様に食べていただけるのは久しぶりですね。今日はナカノ様もご一緒なので、いつも以上に力をいれましたよ!』
『エルメダ、晩御飯は孤児院で食べなくて大丈夫なのか?』


俺は一体何を言っているのだろうか…
エルメダに話す言葉はそんなことではないのはハッキリと分かっている。
心の中に思っている言葉とは全く違う言葉が出てくるのだ…
もしかしたら俺は病気なのかもしれない…
だがこのままでいても良い手段を実行できる自信もない。
俺は半ば諦めてエルメダとアンテロが隣通しで座る椅子の向かい側の椅子に座り、大人しく一緒に晩御飯を食べることにした。

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