神業(マリオネット)

tantan

1ー27★修練士なのに…

人は一度、決意が揺らぐと脆いものだ。
アンテロの態度は正に、それを証明していた。


最初にアンテロが発した一言は


『ただのアンテロだと思ってました…』


と言うものだった。
この言葉には、俺だけではなくエルメダとスルトも頭の上に[???]でいっぱいにしていたはずだ。


(アンテロは、アンテロだろ…話が見えない…)


修道院で神に仕える人を、この世界では修道師と呼ぶのだそうだ。
修道師は原則として男女どころか、種族の垣根などなく誰もがなれるとされている。
ただ、その代わりにあり方と言うのが他とは違い特殊だと言う。
先ずは修道師になるためには3年間の下積み期間があり、この期間は修練士と呼ばれる。
アンテロの現状は修練士と言うことになる。
この3年間の下積みが終わると修練士は、みな儀式を行わなければいけないらしく、その儀式で3年間神への誓いをたてることで修道師として認められるようだ。
だから1度修道師としての誓いをたてると3年間は原則縛られる。
これが今回アンテロが修道師を諦めると言う結論に繋がったらしい…


とは言ってもアンテロが実際に修道師を諦める結論になったのだって、比較的最近のことだと本人は言っている。
修道院と言うのは贅沢などを好まない風潮にあるらしく、自給自足と言うのがモットーなんだと。
これは単に食料の自給自足と言うわけではない。
他にも日用品や色々な道具に対してもであり、修道師になったら自分の適正に合わせて管理をして行くのが基本らしい。
小さい頃から植物が好きなアンテロは、薬草を元にして作るポーションなど薬系の管理に興味を持っていると言っていた。
そこである日、先輩に言われて癒し草と言うポーションの原料となる草を積みにいくように言われて持っていった際、先輩にポーションの作り方を教えて貰い一人になったときに試しにやってみたのだと…


『出来ちゃったんです…』


(ポーションって体力回復のやつだよね。おめでとうだよね!)


この時ほど俺は空気が読めないことを恥ずかしいと思ったことはない…


『うっ嘘だ!そんな訳、あるはずがない!』
『そうだよ!アンテロ、何言ってるの??』
『えっ?どういうことですか??』
『ナカノさん、ポーションの作成には職業の登録が必須になります』


意味が分からない俺にスルトが話してくれた。


『ポーションを作成するには、一部の職業スキルが必要になってきます。通常、アンテロを始め修道院の者達は修道師になった際に職業登録を済ませることになります。なので今のアンテロがポーションを作ることは絶対に不可能なのです!』


そうスルトが言い放つとアンテロは黙って左手を俺たちの方へ向けてカードを出して見せてくれた。


☆☆




アンテロ・ハクショク(22) LVレベル1
種族    →兎人族
職業    →薬師クスシ[3]
体力     2/2(+9/9)
精神     5/5(+15/15)
力      1 (+3)
防御     3 (+6)
速度     8 (+9)
魔力     0/0(+0/0)
属性     土 
職業スキル  初級薬学
ボーナススキル臆病者の知恵ラビットアビリティ
       三獣菩薩
備考
 装備   
    布のローブ(防御+1)
☆☆


アンテロが見せてくれたカードには俺が見たことのない情報が詰まっていた…
ただのアンテロとか言っていたから、ハクショクというラストネームには心当たりがないということか?
いまいちピント来ないが、そんなのは後から聞けば良い…
それよりも俺が聞きたいのは…


『これは…トジンゾクって言うのか?あれ?どう言うことなんだ?人間じゃないのか?・・・・・・・・・


俺の言葉を聞いてスルトとエルメダ、アンテロの視線が俺に集まってきた。
その中でもアンテロの顔は明らかに狼狽している。


『そうでした…ナカノ様は…何も知らないんですよね…あっ…』


酷く怯え途端に涙を流すアンテロ。
恐らく、アンテロにとっては俺に一生隠しておきたかった事実なのかもしれない。
己の軽率な行動が招いた不注意と言われたら、それまでだろう。
だからと言って次にどうすれば良いのか冷静に判断できるほど、アンテロには余裕などはなかった…。
この時、アンテロが知られたくない真実から目を背けるためにとった行動は逃避・・だ!
左手のカードを消し、荒い呼吸も涙も関係なく、イキナリ椅子から立ち上がり出口めがけて走り出した。
俺もエルメダもスルトも反応が遅れてしまった。
もちろん声もかける。
だが待てと言われて待つくらいなら最初から逃げないだろう。
俺たちの声も無視してアンテロが入り口に手をかけようとした瞬間、独りでに入り口が空いたのだ。
扉を開けたのはエウラだった。
予期せぬ展開にアンテロは入り口を掴み損ねた右手を大きく降りバランスを崩す格好となり、その場に腹から倒れてしまった。


『ちょっと、何!アンテロ?危ないでしょ!ぶつかったらどうするの!って…ナカノさん?に…エルメダまで…討伐はどうしたの?え?あれ?アンテロ…泣いてるの?』


時刻は昼過ぎ。
ムーブで移動してきた俺とエルメダ。
どうやらエウラは昼過ぎになり昼食の支度をしたはいいが、スルトが来ないということで探していたらアクシデントに遭遇といった感じらしい。
エウラが入り口を塞いでいるのでアンテロは逃げることができない。
そこでスルトがアンテロの側により肩を掴んでいった。


『お前がどうしてもと言うのであれば止めはしない。それに今の謎を全て解明して説明しろなどと言う無茶な要求もしない。ただ、今の現状や出来る限りの説明だけはしてくれ。お前も一度は神に仕えようと思ったのだろう?ナカノさんなら大丈夫だから』


『申し訳ございませんでした…』


アンテロは、たった一言だけ呟いて、床に座りながら力ない視線で俺を見上げていた…

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