神業(マリオネット)

tantan

1ー2★職業登録所

紹介して貰った宿泊所で一泊をして1階の受付の方へ足を向けるとフェンは既に俺を待っていた。
この宿泊所はロスロー商会が男性従業員の寮もかねて営業しているらしい。


『おはようございます、アタルさん。昨晩は良く眠れましたか?』
『おはようございます。おかげさまで暫くぶりのベッドに快眠でしたよ』


と言うような会話をフェンと気軽にしていると、みんなの視線が一斉に向いていた。


(そう言えば商会の三男だっけ…気軽に話して良いのかな…)


みんなの視線を感じたのは俺だけではなかったようで、フェンも取り敢えずは外に出ようと合図を送ってきた。
宿泊料金は後でも問題はないらしい。


『そう言えば今日は登録所と言うところに行くんだよね?』
『はい、先ずはそこで適正を見てもらうのが一番良いと思いますので』
『仕事を探してくれると言う認識で良いの?』
『仕事と言うか、職業ですね』


(職業から探すのか?仕事をしていて職業ではないのか?)


世界観がずれているであろう俺を横に、フェンは任せてくださいと言うように胸を叩いている。


15分ほど歩くと上に大きな看板がある事務所のような建物があった。


(しまった…看板の文字は触れないから言語変換が使えない…)


フェンなら信用できるはずだと思いながら扉を開けると、受付らしき所にいる3人の綺麗な女性が声を揃えて迎えてくれた。


『『『いらっしゃいませ、ルート職業登録所へようこそ!』』』


一番左にいるのは金色の長髪で耳が尖っている感じの女性。
左目が黄色で右目が青と言う感じで綺麗なのだが神秘的な女性だ。
真ん中にいるのは茶色い髪にショートカットで活発的な雰囲気のする女性。
3人の中で最も体型が小柄に見える分、幼い感じで可愛らしい雰囲気がある。
一番右にいるのは黒い髪で眼鏡をかけた落ち着いた雰囲気の女性。
3人の中では最も年上のように感じる。
フェンが一番右の女性に話をかけて近づいていくので、俺もフェンの後に続いた。


後から聞いた話なのだが、ルートは人間にエルフとドワーフ、3種族が集まる貿易都市なので、受付も種族ごと別にしているらしい。
一番左がエルフの受付嬢でエレノアさん、真ん中がドワーフの受付嬢でルクトさん、一番右が人間でミンネさんと教えられた。


フェンの方から軽く紹介がされた後、ミンネさんは笑顔で俺に声をかけてくれた。


『本日はナカノ様のお相手を勤めさせていただきます。ミンネと申します。宜しければ、前にある椅子にお座りください』
『ありがとうございます。この職業登録所?には始めてきたので0から宜しくお願いします』


ミンネさんの笑顔が眩しくて眩みそうになるのを堪えながら俺は説明を聞いていた。
この都市を含めてランティスもバビロンもガルドも全て個人の仕事を行うにはギルドと言う同職業の集まりに所属するのが一般的らしい。
所属しなくても仕事はできるらしいが、他者に対しての信頼や保証など様々な面で自己責任となり実質的には、難しいといわれた。
だがギルドにも戦士や魔法使い、商人といったように細分化されていて、個人で見つけるのが大変なのでサポート役というのが職業登録所というわけだ。
ここで基本的な適正を見て、納得が行けば所属したいギルドに紹介状なども書いてくれるそうだ。
取り敢えず職業をみるだけであれば料金はかからないと言うことなので、試しにやってもらうことにした。


『先ずはナカノ様の利き手ではない方の手の甲を出してください』
『それでは、左手でお願いします』
『私が手を添えたら、心の中でカードオープンと唱えてください』


言われた通りにすると左手の手の甲の上にカードが浮かんできた。
カードにはミミズが這ったような俺には読めない異世界文字が刻まれている。
文字を読むために手を添えようとするとミンネさんは不思議そうに俺に顔を近づけてきた。


『あれ?もしかしてナカノ様は言語変換の魔法はかけられていないのですか?』
『言語変換って、このネックレスのことですか?』
『あー、そういうことですか。だから会話はできると言うことですね。では言語変換の魔法から最初に行いたいのですが、その場合は手続き料として銀貨2枚いただきますが宜しいですか?』
『それを行うとネックレスなくても会話できたり、読み書きも不自由しないでできると言うことですか?』
『はい、さらにいうと有効期限などもありませんので大変お得なサービスとなっております。』


ここでフェンに聞いてみようと顔を向けてみると


『魔法手続きであればネックレスのようになくすなどの心配もしなくて良いですよね。そちらのネックレスは僕の方からノルド様にお返ししておいても良いですよ』


どうやら後の事を考えるとお願いした方が良さそうな雰囲気だ。


『お願いします』
『かしこまりました。では私の右手を右手で握り、左手でネックレスを外したら私と目線を合わせてください。』


ネックレスを外すと会話ができなくなるので少し不安に思ったが、俺は言われた通りにしてみた。


『……』
『ナカノ様、終わりましたよ』
『あれ?もう終わり?』
『はい、完了ですので右手の方は放していただいて宜しいですか』


コミュニケーションが一瞬でも途切れる不安から、俺はミンネさんの手をおもいっきり掴んでいたらしい。
あわてて謝罪の言葉と同時に直ぐに手を放した。


『では先程の続きを行いますので、再びカードの方を出していただけますか?』


心の中でカードオープンと唱えると先程に似たカードが左手に出現した。
さっきと決定的に違うのが書いてある文字が読めることである。


☆以下カードの内容☆
アタル・ナカノ(37) LVレベル1
種族    →人間
職業    →ーーー
体力     8/8
精神     2/2
力      2
防御     4
速度     5
魔力     0/0
属性     ×
職業スキル
ボーナススキル
備考
☆ここまで☆


名前の上には何やら2行ほどスペースらしきものが確認できたが現状把握できた内容は先にあげたものであった。


『ナカノ様の場合ですと、先程のロスロー様の仰っていた通り、まだ職業の方は発生ししていないようですね。』


職業と言うのは種族の下にある項目でーーーとなっているので、何か自分に適正があれば表示されるのだろう。


((37)は年齢だと理解できるが、その他はなんだ??わからないことが多すぎるぞ…)


『では、ナカノ様ご説明させていただいても宜しいですか?』
『はい、お願いします』
『名前と年齢は理解できると思います。その横に書いてあるLVレベルと他の数字はナカノ様の基本的な強さの目安になります。恐らくナカノ様の場合は今回の手続きというのが生まれて初めての手続きとなるはずです。なので1からのスタートとなっています。このLVレベルというのは様々な要因によって増える可能性があります。LVレベルが増えると体力の数字なども増えていきます。職業と言うのを覚えると職業スキルやボーナススキルを覚えたり、能力値が増減したりすることもあります。備考で称号などを手に入れた場合もボーナススキルや能力値に影響を与える場合があります。ここまでは大丈夫ですか?』
『ええっと……はい?』


(一気に説明しすぎだし、内容が頭に入ってこないんだけど…)


『要は頑張って色々やってくださいと言うことです!』


ミンネさんは本日一番の笑顔を俺に向けていた。


(あー、この人…説明投げ出したよ…いい人だと思ってたのに…)


ちょっとミンネさんへの印象を改める必要があるかと考えていたところで


『ただ…この状態ですと、こちらからご紹介できる職業が冒険者のみと言うことになるんですが、宜しいですか?ロスロー様とご相談されて日を改めてでも全く問題はありませんが…』
『もしも冒険者の職業を紹介して貰った場合は、他の職業は受けられなくなるのですか?』
『職業の方は他の職業を選択中であっても条件が合致すると発動いたします。ただ、加入できるギルドは1度に1つになりますので、他の職業を選択する場合には毎回こちらまで足を運んでいただく必要があります。条件の合致した職業のご紹介に関しては無料になっていますが、変更についてはギルドの変更手続きも含めて銀貨5枚が必要となります。もちろんギルドを変更する場合には、現所属ギルド内で請け負っている仕事がないことが前提となります』
『今日もしも冒険者の紹介を受けて、後日他の職業の条件が合致して他の職業を希望する場合にはもう一度ここにきて銀貨5枚払って手続きしてくれという意味ですか?』
『はい、そのような理解で問題ありません』
『それであれば、冒険者の紹介もお願いします。』


(勝手が分からないとはいえ変更も自由に行えるのであれば、取り敢えず動いてみるべきだ)


『ありがとうございます。ではご一緒にアイテムボックスとお財布の手続きはいかがですか?』


(おおっと…知らないワードが出てきたぞ!)


『お財布はお金をカードに保存する能力で、アイテムボックスというのはLVレベル分のアイテムをカードに保存する能力です。ナカノ様の場合には1種類になりますが、同じアイテムであれば99個まで保存できます。料金はお財布は金貨1枚。アイテムボックスはLVレベル×金貨1枚になります』


(あれ??さっきまで銀貨のやりとりなのに一気に金貨取引に格上げされてる気が…)


『アタルさん、お財布はLVレベルが上がっても追加料金は発生しないですよ。アイテムボックスの方は、当面はノルド様からの袋の方でも代用はできると思います。』


顔をひきつらせて判断を迷っている俺にフェンが助け船を出してくれた。


『では、お財布の方だけお願いします』
『かしこまりました。では右のお皿に本日のお会計金貨1枚と銀貨2枚を、左のお皿にはお財布にしまうお金をお願いします。』


指定のお金をミンネさんに見せて預けるお金の確認を求められたのだが…
そこには488000YUNと記載されている…


(金貨と銀貨の枚数が書いてないんですけど…)


『はい、それで間違いありません』


またも俺の代わりにフェンが返事をしてくれた。


後で聞いた話なのだが、実は共通通貨はYUNという単位が基本となるようで、1000YUNで銀貨1枚、10000YUNで金貨1枚、100000YUNで大金貨1枚と換算されるということだ。


(物価をしっかりと調べていないから詳しくは分からないが、ノルドはなかなかの金額を俺にくれたのかな??)


そんなこんなのやり取りをしながら、職業の紹介を貰い、後日訪問する冒険者ギルド用の紹介状を作成して貰い職業登録所を後にした。



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