聖玉と巫女の物語
決意
こうやって会うのは何年ぶりだろう。
すっかり大人になってしまった二人。
「念願の北の森に行けたよ。いや、気付いたら飛ばされていた、かな」
年月を感じさせないフリンツの話かただった。
国王に代わって実務をこなし、執務室の大きな椅子に腰掛けている彼。アシュリータはそんな彼の前に立っていた。
「ごめん、ここに座って。僕もこんな大仰な椅子はまだ似合わないや」
彼は同じ部屋に置いてある長椅子にアシュリータを座らせ、自分もその横に座った。
「あの……ごめんなさい」
フリンツは首を振った。アシュリータが、王の失明や、カイサル神官長の死に責任を感じていることに薄々気付いていた。
「君のせいじゃない。いずれこうなってた」
しばらく無言のあと、フリンツは振り払うようにわざと明るく言った。
「みんな元気にしているようだね。ファルサが婚約したって聞いてびっくりした。彼らがそういう仲だと知っていたらヘイワードを国境警備隊の指揮官に任命しなかったんだけど」
ファルサのことはアシュリータも驚いていた。兄のウェルギンはなんとなく察していたようだったが。
「エリク神官からだいたいの話を聞いた。君やファルサが見たり経験したことをね。もう、本当の妖魔は存在しないこと。眷族たちは人間に危害を与えるものではないこと。ただ、北の森の脅威が消えたことで、他国からの侵攻の危険が増したことも事実。北のローデンヌと同盟を組み、東のバルディスをけん制できれば、と思っている。そこで、他国との人脈も多い君のお兄さんに大使になってもらおうと考えている」
「兄に?」
「うん、適任だろ? ヘイワード隊長には悪いが、しばらくバルディスの国境付近に陣を張ってもらい様子を見てもらう」
「それで、婚約なんですね」
「うん、本当に申し訳ない」
ヘイワードとファルサが婚約したことは、かなり大きな話題となった。結婚は先延ばしにはなったものの、たくさんの人が祝福していた。
「そして、魔族狩りの必要はなくなり、巫女の役割も変わっていくだろうことを考えていた」
フリンツの言葉にアシュリータは安堵の気持ちを持った。
「そこで、王族の役割も変えていくべきだと思った」
「……?」
「王政を廃止しようかと思っている。まだ具体的なことは、これから神官たちと話合いをしなければ
ならないけれど」
(王政を廃止……)
アシュリータにはフリンツの決断が正しいのかわからなかった。
「その時……王冠のなくなった僕の傍にいてくれないか?」
彼の言葉の意味を悟ったとき、アシュリータは自分の心が揺れるのを感じた。
あの頃だったら素直に嬉しいと思ったかもしれない。いや、巫女である自分の身を重く感じたかもしれない。でも、どちらにせよフリンツを受け入れていただろう。
しかし、今は違った。
アシュリータは今、自分がどこにいたいかわかっていた。
「ごめんなさい」
すっかり大人になってしまった二人。
「念願の北の森に行けたよ。いや、気付いたら飛ばされていた、かな」
年月を感じさせないフリンツの話かただった。
国王に代わって実務をこなし、執務室の大きな椅子に腰掛けている彼。アシュリータはそんな彼の前に立っていた。
「ごめん、ここに座って。僕もこんな大仰な椅子はまだ似合わないや」
彼は同じ部屋に置いてある長椅子にアシュリータを座らせ、自分もその横に座った。
「あの……ごめんなさい」
フリンツは首を振った。アシュリータが、王の失明や、カイサル神官長の死に責任を感じていることに薄々気付いていた。
「君のせいじゃない。いずれこうなってた」
しばらく無言のあと、フリンツは振り払うようにわざと明るく言った。
「みんな元気にしているようだね。ファルサが婚約したって聞いてびっくりした。彼らがそういう仲だと知っていたらヘイワードを国境警備隊の指揮官に任命しなかったんだけど」
ファルサのことはアシュリータも驚いていた。兄のウェルギンはなんとなく察していたようだったが。
「エリク神官からだいたいの話を聞いた。君やファルサが見たり経験したことをね。もう、本当の妖魔は存在しないこと。眷族たちは人間に危害を与えるものではないこと。ただ、北の森の脅威が消えたことで、他国からの侵攻の危険が増したことも事実。北のローデンヌと同盟を組み、東のバルディスをけん制できれば、と思っている。そこで、他国との人脈も多い君のお兄さんに大使になってもらおうと考えている」
「兄に?」
「うん、適任だろ? ヘイワード隊長には悪いが、しばらくバルディスの国境付近に陣を張ってもらい様子を見てもらう」
「それで、婚約なんですね」
「うん、本当に申し訳ない」
ヘイワードとファルサが婚約したことは、かなり大きな話題となった。結婚は先延ばしにはなったものの、たくさんの人が祝福していた。
「そして、魔族狩りの必要はなくなり、巫女の役割も変わっていくだろうことを考えていた」
フリンツの言葉にアシュリータは安堵の気持ちを持った。
「そこで、王族の役割も変えていくべきだと思った」
「……?」
「王政を廃止しようかと思っている。まだ具体的なことは、これから神官たちと話合いをしなければ
ならないけれど」
(王政を廃止……)
アシュリータにはフリンツの決断が正しいのかわからなかった。
「その時……王冠のなくなった僕の傍にいてくれないか?」
彼の言葉の意味を悟ったとき、アシュリータは自分の心が揺れるのを感じた。
あの頃だったら素直に嬉しいと思ったかもしれない。いや、巫女である自分の身を重く感じたかもしれない。でも、どちらにせよフリンツを受け入れていただろう。
しかし、今は違った。
アシュリータは今、自分がどこにいたいかわかっていた。
「ごめんなさい」
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