聖玉と巫女の物語

ともるん77

秘密

 カイサルは王の方に顔を向けた。
 ホルティスは何も言わずに頷いた。それを見たカイサルは、ゆっくり話はじめた。


「あれは、闇石。妖魔の祖先たちが持っていた、もう一つの聖玉、それの原石だ。妖魔たちは力を結集させて闇石から聖玉を作った。巫女が持つ光玉に対して、闇玉とも呼ばれていた」


「闇玉……もう一つの聖玉? あの石碑は一体?」


「石碑は封印のため……」
 カイサルの言葉が途切れた。


『よいか、これは我々神官たちが代々守ってきた秘密だ。それを知ることができるのは、王と神官長を含め長年経験を積んだ神官のみ。その他の者には決して知られてはいけない』
 カイサルは亡きゾイタル神官長の言葉を思い出していた。


「カイサル……話してやれ」
 ホルティス王だった。
 カイサルは、しばらく無言だったが、王に一礼して、再び話し始めた。


「昔、妖魔は我らの仲間だった」


その場にいた全員が驚きで声も出なかった。
(神官長は何を言っているのだろう?)


「王族を陰で支えている存在だった」


 カイサルが語る内容は驚くべきものだった。
「神官たちとは別に、巫女と妖魔は元々は同じ不思議な力を持つ種族であり、代々王族に仕えてきた。光玉を受け継いできた一族は表舞台に立ち、王族の神威を示す巫女となり、闇玉を受け継いできた一族は王族を裏で支えていた。妖魔の祖先たちは王族のために妖術を用い、呪詛によって王族に敵対する勢力を排除していった。彼らは人々が寝静まった夜を活動時間とした。そうして長い間、日の光を浴びることなく、闇玉の力によって地下で妖術の使用を繰り返してきた結果、やがて彼らの見た目が巫女たちの祖先とは違う異形な者へと変化した。感情もほとんど失ってしまった。彼らが使い魔として使役していた動物たちも同じように異形化した。果てに、妖魔の祖先たちはほとんど正気を失ってしまった。そのため、彼らから闇玉を取り上げた。彼らの勢力を封印するため、彼らの本拠地であったこの地下空間を闇石の力で封鎖した。一部は森へ逃げた」


「だから、魔族狩りをはじめたのですか?」
 エリク神官がとっさに問いを発していた。彼は何も知らされていなかった。


「魔族狩りがはじまったのは、ある神官によるお告げがあったからだ。それによると、『人の感情を宿した魔王が復活する時、王族は滅びる』と。そのお告げをした神官は処罰された」


「違うわ」
 ファルサだった。
 彼女の握った手のひらから、紫色の光がこぼれていた。


「異形化してしまった彼らを、王族たちは最後に切り捨てたのよ。自分たちの身代わりとしてね」
「……」
「ある時、内乱が起こり、民衆たちの不満が王族に向けられた。その時、王族たちは妖魔の存在を明かした。地下に棲まう妖魔やその眷属たちが災いの源だと。そうして、王族たちによって魔族は森の奥深くへと追いやれてしまった。その時、妖魔たちの記憶のよりどころとなる闇玉は奪われ、神殿奥へと。その混乱の時に、闇玉が破損した。大きな欠片は妖魔が持ち去り、残りはここに」
 ファルサは握っていた手のひらを開いた。禍々しいほどの紫色の光が彼女を包んだ。
「今でも巫女の引継ぎの時に行なわれている、神官たちによる、巫女たちの家系の記憶の一部の封印。先住民族であったこと。妖魔も同じ種族であったこと。そして王族が……」


「妖魔です!」
 ヘイワードが叫んだ。
 見ると、巨大な石碑の塔の上に、一体の妖魔が浮かんでいた。

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