聖玉と巫女の物語

ともるん77

聖玉の記憶

 エリクは、カイサル神官長の補佐の中では一番若かった。神官は、巫女の一族とは違い、血筋よりも適性で選ばれた。もっとも、代々、神官を務める家系には不思議と呪術に適性のある者が多かった。その中で、エリクは民衆出であったが、学問に秀で、速記の能力があり、信用できる人柄だったので、書記の一人を務めていた。神官長の補佐は他に、助言をする年輩の者たちや、事務を手伝う者たち、身の回りの世話をする者たちなどがいた。


「ファルサ様、起きていますか。よろしいでしょうか?」
「ええ」
 ファルサには珍しく、目覚めが悪かった。
 エリク神官がファルサの天幕に入ってきた。


「ヘイワードの隊が早朝、北の森に入りました。連絡があるまで私とあなたはここ、北の外れで待機するようにと」
 それを聞いてファルサはすぐに返答できなかった。
「あなたを守るための騎士を何人か置いていっています」


 ファルサは返事をする代わりに、首からぶら下げていた袋から聖玉の複製品と言っていた小さな玉を取り出した。
「これの本当の由来を聞きたいのですが」
「……」


「これを身につけるようになって、夢を見るのです」
「夢?」
「妖魔の……」
「……」


「何かご存知なんでしょう?」
 エリク神官はしばらく口に手をあてていた。


「先代の巫女から、妖魔は時おり人間に化身すると聞いていました。でも、私はこの目で実際に見たことはありません。本当にそんな妖魔が存在するのかと疑っていたほどです」
 エリク神官は黙って聞いていた。


「夢に出てくる妖魔には知性を感じます。今まで魔族狩りで会ったことのない種類です。同じ妖魔とは思えません。ただの夢でないことはわかります。この玉が見せている夢……というか」


 エリクは外に誰かいないか確認すると、声を落として言った。
「他言なさらないようお願いしたいのですが」
 ファルサは頷いた。


「確かに、この玉はただの複製品ではありません」
 エリクはいっそう声を低くした。
「その昔、聖玉が破損した時の一部だそうです。同じ力が宿っていると。今の聖玉は、その時に加工直されたものだと聞いています」
 ファルサは言葉が出なかった。


「もしかして、元の聖玉と呼応しているのかもしれませんね。夢に出てくる妖魔が、アシュリータ巫女をさらった妖魔だとしたら」
「でも……」
 ファルサは自分の言おうとした言葉を飲み込んだ。


(夢に出てきた妖魔の数は一体じゃない。きっと、この石が持つ、古い記憶だわ。その昔、知性のある妖魔がたくさんいたんだわ。でも、なぜ聖玉に妖魔の記憶が?)


「でも、何ですか?」
「いえ、あの……同じ力があるんですよね、この玉には」
「カイサル神官長はそう言っていました。神官たちの祈祷を込めたことも本当です」


「そう……。今までこの石は何かに使われていた?」
 ファルサの問いに、エリクは少しとまどった。
「どうして?」
「そんな気がしたので」


 エリクは深い呼吸をして、意を決した表情で話し始めた。
「その通りです。この石は、代々、巫女引継ぎの儀式の時に使われています」
「……!」


「それが何の目的のためかは僕も詳しくは知りません。知っているのはカイサル神官長ほか、少数の年長の神官たちだけです」
「……聞いたことはないの?」
「ありますが……。今は知らなくて良いと」

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