聖玉と巫女の物語

ともるん77

神殿にて

 その頃、ウェルギンは神殿に戻っていた。
 不安が全体を覆っていた。


 神官たちは武装し始めていた。


(嘘だろ。なぜ神官たちが)


 神官の一人は、ウェルギンの姿を認めると、呼び寄せた。
「なぜ、勝手に隊を離れた?」
「あっ……」
「今、敵国に国の情勢を知られるとまずい。お前は行商人として各国を訪問しているから逆に監視されていると思え」
 武装しているのは、その為か。


「少し、気になる事があって。妹……いや、巫女をさらったのは、伝説の《魔王》かもしれないと言っていましたが、その根拠はあるんですか」


 その神官は厳しい表情を露にした。
「根拠はない。人々を混乱に陥れるような真似はするな。バカなことを口走った神官は処罰された」


(処罰……)


「いいか、そんな昔話は忘れて、今は巫女を一刻も早くお探しするのだ。それと、巫女が不明になった事は他言するな。巫女候補や神官見習いにも知らせていない。彼らは今、休暇をとらせ自宅待機させている」
 ウェルギンは釈然としなかった。


 その時、ウェルギンは神殿内に白服の神官たちが少ない事に気付いた。カイサル神官長や年長の神官たちがいない。


 そして彼は神殿奥の扉を見た。
(あの中か? 何を話し合うんだろう。内容が聞きたい)


 そう思ったウェルギンは誰かを探し始めた。
(おかしいな、エリク神官もいない)


 ウェルギンは、近くにいた紺色服の神官に、エリク神官の事を聞いた。神官補佐の中では年が若いので、話しやすいと思ったからだ。


「どうもエリク神官は、フアルサ前巫女を連れてヘイワード隊と合流して巫女捜索に加わったらしいですよ」


(ファルサ前巫女まで……)


「えっ、ファルサまで!」
 突然、ウェルギンの後ろで別の人の声がした。


「……!……」


 振り向いたウェルギンは、自分の後ろで商人服を着て立っていた人物を認めると、驚きで声が出なかった。
 その人物は頭巾で顔を覆っていたが、ウェルギンと目が合うと、慌てて目をそらした。


「急ぐので失礼する」
 話かけた神官が去ると、ウェルギンの後ろに隠れるようにじっとしていた商人服の男はほっとした様子だった。


「フリンツ王子……なぜ」


「見つかってしまったか」
「……」
「いてもたってもいられなくなったんだ。あなた、アシュリータのお兄さんでしょ?」


 フリンツは、何回か巫女の館へしのんだ時に、チラッとウェルギンの姿を確認していた。
「僕も何かの力になりたいんだ」


 ウェルギンはしばらく黙ったままだった。
 神官たちは何か隠している。
 ウェルギンは神殿の奥深く、限られた者しか入れない書庫があるのを知っていた。


(僕の知らない、古代からの知識があの中にあるのだ)


 アシュリータをさらった魔族がもし魔王なら、巫女をどうするつもりなのか。
 巫女を、妹を救う手だてはあるのか。


「わかりました、王子。お願いがあります」
 それを知るためなら、何も怖くなかった。

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