聖玉と巫女の物語

ともるん77

ファルサとヘイワード

「なぜ君がここに?」


 突如、ヘイワードの目の前に現れたのは、エリク神官とファルサだった。
 彼らは騎士を連れて、ヘイワードの隊に合流した。


 エリクはヘイワードのファルサに対する慣れなれしさに違和感を覚えた。
「城からの要請で、巫女の捜索に加わるようにと」
「……」
「何か、わかった事は?」
「いえ。これから北の森に赴くつむりです。しかし……」


 ヘイワードはファルサの方を向いた。
「私の事は心配しないで。大丈夫よ」
「とにかく、いったん宿営地を張りましょう。そこで話を」
 ヘイワードは部下に命令して天幕を張らせ、その一つにエリクとファルサを招いた。ファルサは冬用のコートを脱ぐと、それを無造作に椅子にかけた。中に着ていたのは魔族狩りの時に巫女が着る紺色の戦闘服だった。


「どうしてファルサ……彼女が捜索に加わる事に?」
 簡易な椅子に座っているエリクとファルサとは対照的に、ヘイワードは落ち着きなく立っていた。彼は背も高く、体格も良かったので二人の前ではさらに大きく見えた。


「ファルサ前巫女になら何かわかるかもしれない、とのカイサル神官長の考えです」
 エリクの言葉にヘイワードは反論した。
「ファルサは以前とは違う。力はない。それでもし、戦闘が起こって彼女に危険が及んだら?」
「……」
「ご心配ありがとう、でも、本当に大丈夫よ」
「何が、大丈夫なものか。君は知ってるだろう、力のない者が北の森に入る危険を。しかも、もうすぐその森も雪で閉ざされる」
「わかってるけど、それどころじゃないでしょう!」


 ファルサの興奮した声に、それまで黙って聞いていたエリクが口を開いた。
「僕はこれまで魔族狩りの経験はない。だから、どれほど危険なのか正直わからない。神殿ではあらゆる危険に備えて、経験のある神官が重要なところに配備されている。しかし、このまま巫女不在では困る。民衆はまだそれを知らない。知れば大混乱が起きるかもしれない。だから、一刻も早くアシュリータ巫女を探しださねばならないのだ」


 その時、ファルサは服の内側から首にぶら下げていた布袋を取り出した。
 そして、中から透明な玉を出した。
「聖玉の複製品よ。カイサル神官長がくださったの」


 ヘイワードはその玉を見つめた。
「複製品? そんなものに意味があるのか。それに、聖玉はそんな小さなものではなかったろう?」
 ヘイワードの言うように、聖玉の複製品は、すっぽり手のひらで包めるくらい、アシュリータが持つ聖玉より随分と小さかった。


 ファルサは一瞬、エリクに目をうつしたが、すぐにヘイワードの方を向いた。
「ええ……。でも、力にはなるの」
「複製品でもか?」
「……ええ、神官長がおっしゃるには、神官たちの力を結集していると」


 そして再び、ファルサはエリクを見た。今度は話かけるために。
「ごめんなさい、エリク。ヘイワードとじっくり話したいの」
(席を外してくれる?)というファルサの言葉を待たずに、エリクは席を立った。
「わかりました。少し、外を見てきます」
 そうして、テントにはヘイワードとファルサだけになった。


「どういう事だ? なぜ」
 エリクがいなくなった途端、ヘイワードの口調が荒くなった。
「怒らないで聞いてちょうだい」
「こんな危険なところに」
「ヘイワード!」


 思わず立ち上がったファルサは、ヘイワードの傍らに近寄った。
「あなたに話したい事があるの。お願い、座って聞いて」
 ファルサはそう言って、彼の肩をつかんだ。
 ヘイワードは大人しくなって、自分に触れたファルサの手を握った。


「ヘイワード……」
「君はもう巫女じゃない。こんなところに来るべきじゃない」
「事態は深刻なの、ヘイワード。今回、巫女をさらった妖魔は特別よ」
「……」
「人間の容姿をし、人語を解する、知能を持った妖魔。先代の巫女から話には聞いていたけど、私は実際に見たことはないの。もうそんな妖魔は存在しないと思っていた。でも、なぜか今ごろになって現れた」
「君も……魔王の復活だと言いたいのか」
 ヘイワードの言葉にファルサは息を呑んだ。


「誰がそれを?」
「誰でもいい。ただの噂だ」
「神官たちが何かを隠してるのはわかるわ。それが魔王なのか何なのか。私にできることがあるなら協力したいの」
「君はもう引退したんだ。さっさと誰かと結婚して、普通に暮らせばいい。関わるな」
 ヘイワードの語調がひどく荒くなったので、ファルサはいぶかしんだ。


「ヘイワード……。私は誰とも結婚する気はないわ。何を怒ってるの?」
「怒ってなんかいない。そう思っただけだ」
「あなたはいつもそうね。怒ってるのに、怒ってないって言う。小さい時から」

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