聖玉と巫女の物語

ともるん77

アルマン

 目が覚めた時、自分がどこにいるのか、はじめはわからなかった。


 ベッドに寝かされていたのだが、心地よい風が、開いている窓から流れてきて思わず外の景色が見たくなった。
 窓の外はバルコニーのようになっていた。


「わぁ……」


 見たこともない景色だった。
 淡い色彩画のような世界。
 一面、見渡すかぎり色とりどりの花を咲かせた草原だった。
 ところどころ、木も生えているが、どれもそう高くない。


「やっと目が覚めたか」


 その声で驚いたアシュリータは振り向いた。そして、彼の存在に気付き、自分がどうなったのかを悟った。


「あなたが連れてきたの」


 魔族の男はすっかり傷も癒え、何事もなかったように平然としていた。


「ようこそ、僕の城へ」


 アシュリータは聖玉を握り、身構えた。


「……!」


「無駄だよ。ここでは君の力は使えない。大丈夫、君に危害は加えないから」


 しかし、彼女の心には騙された思いが強く、容易に男を信じられなかった。
 それは、男にも伝わったようだ。


「無理やり、ここへ連れて来たのは悪かったと思っている」


「私を元の世界へ返して!」
 怒りでいっぱいだった。


「君をここへ連れて来たのは……」


「早くここから出して!」


「君は僕を憎んでるの?」


 アシュリータはバルコニーから身を乗り出した。
「よせっ! 僕の結界の中で君は無力だ」


 アシュリータは妖魔にも結界が張れることに驚いていたが、怒りにまかせて口から出たのは違う言葉だった。
「じゃあ、あなたは何だっていうの? 知的レベルの高い魔族?」
「……」
 一瞬、男の顔が曇ったように見えた。


「話を聞いてくれないか」
「いやっ、近づかないで!」
「わかった。とにかく落ち着いてくれ。僕の名前はアルマンだ」
 アシュリータの警戒はとけなかった。


「魔族に名前があるとは思わなかった?」
「……」
「君にはしばらくここにいてもらう。君でないとだめなんだ」


 アルマンと名乗った魔族は、そうして彼の館にアシュリータを閉じ込めた。
 アシュリータは魔族の名を呼ばなかった。


(帰りたい)


 そして、アルマンを憎んだ。
 皮肉にも、彼女がアルマンを憎むほど、彼の方の態度も硬化していった。

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