聖玉と巫女の物語
巫女ファルサ
神殿には今も、巫女候補がいる。
アシュリータが兄に連れられて、初めて神殿へ赴いたのは五歳の時だった。
彼女が候補に選ばれたのは十二歳の時だ。他の候補も、十歳から十五歳くらいまでの女の子だった。候補に選ばれて一年間、神殿の中の修練所で学んだ。
巫女は代々、同じ一族から選ばれていた。
だから先代のファルサや、他の巫女候補たちもアシュリータにとっては同じ一族であった。
巫女の突然の死に備えて、常に候補が何人かいるが、候補になったからといって、必ず次代の巫女になれるとは限らない。
だいたいは、自分の死期を悟った巫女がその役目を次代へ引き継ぐ。
まだ三十歳になったばかりのファルサだったが、自ら交替の時期を悟り、引継ぎの儀式を行なった。死期というよりは次代の巫女の出現を悟ったのが理由で、この機を逃すと巫女不在の時期が来る、という強い予感があった。
「いい、力の源はこの聖玉にあると言っても過言ではないわ。巫女の一族以外の者が持てばただの石だけど、私たち巫女にとってはなくてはならないものよ。そして、この聖玉が次代の巫女を選ぶの」
ファルサの言う通り、たくさんの巫女候補の中からアシュリータを選んだのは聖玉だった。
彼女がその聖玉に触れた時、玉は無色透明から、キラキラ光る七色へと変化した。
それは他の候補には現れなかった。
「これで……」
巫女の館へ、アシュリータが引っ越した夜、ファルサがふと漏らした言葉があった。
「……良かったのよね」
聖玉に選ばれない限り、巫女の力は引き継がれないため、巫女不在ということが過去にたびたび実際あった。
また、巫女の一族は代が下がるにつれ、その数が増えるのとは反対に、だんだんと巫女としての資質のある者の生まれる割合が減ってきていた。
周りが次代の巫女の誕生を祝う中、ファルサだけは浮かない顔をしていたのをアシュリータは覚えている。その理由を聞くのをためらった。
ファルサとは三年間、同じ巫女の館で暮らした。
その期間、魔族狩りを補佐してくれた。
アシュリータが一人立ちした後、ファルサは巫女の館を後にして、もともと彼女が暮らしていたことのある城下町の東の居住地シュノス街に移った。
ファルサが去る日に彼女と交わした言葉が、今もアシュリータの胸の中でこだましている。
「……花を何種類か植えていくわね。あと、この苗木を。ここにある花や木はすべて、歴代の巫女たちが植えたものよ。心の一部はここへ置いていくわ」
巫女の館へ初めて来た時に、本当はファルサに言いたかった事がある。でも、なぜか言わずじまいだったその言葉を、アシュリータは別れ際に口にした。
「小さい頃、国の式典であなたを見ました。あの時、王族と並んだあなたを見て感動しました」
それに対して、ファルサはこう答えた。
「そうね。あの時は確かに王族たちがいたわね。でも、よほどの事がない限り、彼らが巫女に会う事はないわ」
「……?」
彼女は何を言おうとしているのだろう。
「魔族狩りをはじめたら、王族たちに直接会う公式行事に、あなたが呼ばれる事はなくなるわ。この意味わかる?」
アシュリータには答えられなかった。
「私たちは聖なる者じゃない。彼らが、したくない事を代わりにしているだけ」
あの時はファルサの言った事がよくわからなかった。
だが、今ならわかる。
「こんな事を言うのは、あなたの身に起こる事が、あなた一人だけのものではないという事を知っておいて欲しかったから。あなたが王子に惹かれているのはわかるわ。でも、もう終わりにしないと」
あの時、ファルサは兄のように遠まわしではなく、はっきりと言った。
アシュリータが兄に連れられて、初めて神殿へ赴いたのは五歳の時だった。
彼女が候補に選ばれたのは十二歳の時だ。他の候補も、十歳から十五歳くらいまでの女の子だった。候補に選ばれて一年間、神殿の中の修練所で学んだ。
巫女は代々、同じ一族から選ばれていた。
だから先代のファルサや、他の巫女候補たちもアシュリータにとっては同じ一族であった。
巫女の突然の死に備えて、常に候補が何人かいるが、候補になったからといって、必ず次代の巫女になれるとは限らない。
だいたいは、自分の死期を悟った巫女がその役目を次代へ引き継ぐ。
まだ三十歳になったばかりのファルサだったが、自ら交替の時期を悟り、引継ぎの儀式を行なった。死期というよりは次代の巫女の出現を悟ったのが理由で、この機を逃すと巫女不在の時期が来る、という強い予感があった。
「いい、力の源はこの聖玉にあると言っても過言ではないわ。巫女の一族以外の者が持てばただの石だけど、私たち巫女にとってはなくてはならないものよ。そして、この聖玉が次代の巫女を選ぶの」
ファルサの言う通り、たくさんの巫女候補の中からアシュリータを選んだのは聖玉だった。
彼女がその聖玉に触れた時、玉は無色透明から、キラキラ光る七色へと変化した。
それは他の候補には現れなかった。
「これで……」
巫女の館へ、アシュリータが引っ越した夜、ファルサがふと漏らした言葉があった。
「……良かったのよね」
聖玉に選ばれない限り、巫女の力は引き継がれないため、巫女不在ということが過去にたびたび実際あった。
また、巫女の一族は代が下がるにつれ、その数が増えるのとは反対に、だんだんと巫女としての資質のある者の生まれる割合が減ってきていた。
周りが次代の巫女の誕生を祝う中、ファルサだけは浮かない顔をしていたのをアシュリータは覚えている。その理由を聞くのをためらった。
ファルサとは三年間、同じ巫女の館で暮らした。
その期間、魔族狩りを補佐してくれた。
アシュリータが一人立ちした後、ファルサは巫女の館を後にして、もともと彼女が暮らしていたことのある城下町の東の居住地シュノス街に移った。
ファルサが去る日に彼女と交わした言葉が、今もアシュリータの胸の中でこだましている。
「……花を何種類か植えていくわね。あと、この苗木を。ここにある花や木はすべて、歴代の巫女たちが植えたものよ。心の一部はここへ置いていくわ」
巫女の館へ初めて来た時に、本当はファルサに言いたかった事がある。でも、なぜか言わずじまいだったその言葉を、アシュリータは別れ際に口にした。
「小さい頃、国の式典であなたを見ました。あの時、王族と並んだあなたを見て感動しました」
それに対して、ファルサはこう答えた。
「そうね。あの時は確かに王族たちがいたわね。でも、よほどの事がない限り、彼らが巫女に会う事はないわ」
「……?」
彼女は何を言おうとしているのだろう。
「魔族狩りをはじめたら、王族たちに直接会う公式行事に、あなたが呼ばれる事はなくなるわ。この意味わかる?」
アシュリータには答えられなかった。
「私たちは聖なる者じゃない。彼らが、したくない事を代わりにしているだけ」
あの時はファルサの言った事がよくわからなかった。
だが、今ならわかる。
「こんな事を言うのは、あなたの身に起こる事が、あなた一人だけのものではないという事を知っておいて欲しかったから。あなたが王子に惹かれているのはわかるわ。でも、もう終わりにしないと」
あの時、ファルサは兄のように遠まわしではなく、はっきりと言った。
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