聖玉と巫女の物語
巫女アシュリータ
ここカインデルと呼ばれる国に、人々から女神と崇められている一人の巫女がいた。
名前はアシュリータ。今年十八歳を迎える。
彼女は今、人工的に作られた洞窟で禊を行っている。
「アシュリータ様、今宵は満月でございますよ。こういう夜は魔族の力がすさまじいものだと聞いていますが、本当の事なのですか?」
アシュリータは、湯浴みを手伝う侍女のエルダに、微笑みながらこう答えた。
「ええ、そう言われているわね。魔族狩りの時に、こういう夜は特に警戒しているわ」
「アシュリータ様がそうおっしゃるなら、そうなのでしょうね。なんといってもアシュリータ様は女神でいらっしゃるもの」
侍女はそう言って、アシュリータの濡れた髪を乾かし始めた。
「……」
アシュリータは黙ってされるがままにされていた。
侍女は神聖なる白い衣を持って、彼女に着せ、髪をとかしつけた。
「いつも思うのですが、アシュリータ様の髪は、驚くほど柔らかいですね。芯のお強い人には珍しいですわ」
何気ない言葉であったが、それを聞いた当人はドキリとした。
「ほんとにまぁ、美しい……」
侍女はしばし、うっとりしたように主人を眺めた。
確かに、アシュリータは絵画に出てくる天使のようであった。まだ、あどけなさが残っている分、女神というよりは天使に近かった。
深い海のように神秘的で印象深い瞳。小さな可憐なくちびるは、いつも微笑をたたえているかのようだった。そして、ウェーブがかった、絹のような金の髪は、肩の辺りでふっつりと切りそろえられ、柔らかい光を放って彼女を包んでいた。
侍女が去った後、残されたアシュリータは、美しいと言われた自分の顔を、目の前にある大きな鏡で見た。
彼女の目に映るのは、微笑みの形をしたくちびるを持ってはいるが、どこか寂しげな自分の姿だった。
(強くなくてはならないわ。民衆たちが安心する存在でなければ)
(でも……)
彼女は、洞窟に作られた窓から満月を眺めた。
月の光の中、飛んでいるのは夜の鳥か、それとも……。
瞬間、妖魔の咆哮を聞いたような気がした。まさかこんなところには出まい。
とっさに、首からぶら下げている、先代の巫女から譲り受けた聖玉のお守りを、服の内側から取り出した。手のひらでは包めないくらいの大きさの、丸い透き通った石。
透明に見える聖玉は、光の加減でいろんな色に見えた。
(この光り方は……)
気のせいかもしれない。
しかし、胸騒ぎがした。
名前はアシュリータ。今年十八歳を迎える。
彼女は今、人工的に作られた洞窟で禊を行っている。
「アシュリータ様、今宵は満月でございますよ。こういう夜は魔族の力がすさまじいものだと聞いていますが、本当の事なのですか?」
アシュリータは、湯浴みを手伝う侍女のエルダに、微笑みながらこう答えた。
「ええ、そう言われているわね。魔族狩りの時に、こういう夜は特に警戒しているわ」
「アシュリータ様がそうおっしゃるなら、そうなのでしょうね。なんといってもアシュリータ様は女神でいらっしゃるもの」
侍女はそう言って、アシュリータの濡れた髪を乾かし始めた。
「……」
アシュリータは黙ってされるがままにされていた。
侍女は神聖なる白い衣を持って、彼女に着せ、髪をとかしつけた。
「いつも思うのですが、アシュリータ様の髪は、驚くほど柔らかいですね。芯のお強い人には珍しいですわ」
何気ない言葉であったが、それを聞いた当人はドキリとした。
「ほんとにまぁ、美しい……」
侍女はしばし、うっとりしたように主人を眺めた。
確かに、アシュリータは絵画に出てくる天使のようであった。まだ、あどけなさが残っている分、女神というよりは天使に近かった。
深い海のように神秘的で印象深い瞳。小さな可憐なくちびるは、いつも微笑をたたえているかのようだった。そして、ウェーブがかった、絹のような金の髪は、肩の辺りでふっつりと切りそろえられ、柔らかい光を放って彼女を包んでいた。
侍女が去った後、残されたアシュリータは、美しいと言われた自分の顔を、目の前にある大きな鏡で見た。
彼女の目に映るのは、微笑みの形をしたくちびるを持ってはいるが、どこか寂しげな自分の姿だった。
(強くなくてはならないわ。民衆たちが安心する存在でなければ)
(でも……)
彼女は、洞窟に作られた窓から満月を眺めた。
月の光の中、飛んでいるのは夜の鳥か、それとも……。
瞬間、妖魔の咆哮を聞いたような気がした。まさかこんなところには出まい。
とっさに、首からぶら下げている、先代の巫女から譲り受けた聖玉のお守りを、服の内側から取り出した。手のひらでは包めないくらいの大きさの、丸い透き通った石。
透明に見える聖玉は、光の加減でいろんな色に見えた。
(この光り方は……)
気のせいかもしれない。
しかし、胸騒ぎがした。
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