第六話　彼女の意思

　「レイスは大会までどうするんだ？」

　さっきまでの慌てた様子とは違い、暗い面持ちで話した。

　「分かりません、ユウトさんのおかげで魔法自体はどうにかなるかも知れませんが、それでも私に対するみんなの考えは変わらないので。」

　話している彼女の顔は昨日初めてあった時と同じだった。

　「なら、魔法大会でお前の実力を見せればいいだろ。」

　「無理ですよ、私は役立たずですから兄さんたちに迷惑かけるだけです。」

　俺は昨日、彼女にあってから少し苛立ちを覚えていた。

　「それはお前の本心か。」

　俺の突然の言葉に彼女は驚いた様子だが構わず続ける。

　「お前、ずっと人からの評価ばかり気にしてるだろ。」

　彼女は黙って聞いていた。

　「お前が役立たずなのは人が決めたことだろ。」

　「でも……。」

　またなにか言いかける彼女に言い放った。

　「俺はお前に聞いてんだ。お前の兄じゃない。」

　「……。」

　「お前の意思を言ってくれ。」

　泣いていた、それは誰かの意思なんかではなく、彼女自身の意思だろう。

　「私は……なりたいです、みんなが否定した物を守りたい。」

　そう強く答えた。

　「なら、俺が教えてやる。」

　「よろしく……お願いします。」

　彼女の頭をなでてやると、彼女は何かが吹っ切れたかのように泣き崩れた。
　

***
　

　結局レイスは泣き崩れたまま子供のように寝てしまった。
　
　起こすのも悪いのでベットに寝かせておいた。

　２時間くらい経ってようやく彼女が目を覚ました。

　「ごめんなさい、寝てしまって。」

　「いいよ、それより君に提案があるんだが。」

　「提案ですか？」

　「大会までの１ヶ月うちに泊まらないか?」

　驚いた様子だったが彼女は答えた。

　「私はユウトさんがいいならそうしたいです。　でも、ご家族の方は大丈夫なんですか？」

　「家には俺しかいないよ、他は色々あっていない。」

　「それってユウトさんと二人きりでって事ですか！？」

　真っ赤にした顔でレイスが言った。こいつ赤くなりすぎじゃないか？

　「そりゃぁ嫌だよな。」

　「嫌じゃないです！　むしろ嬉しいです……。」

　最後の方は小さすぎて聞こえなかったがとりあえずいいってことだよな？

　「なら今日は休め、疲れたろ。」

　「待ってください、父に許可をもらはない
と。」

　「さっきレイスのお母さんから電話があって、伝えておいた。」

　「お母さんが！？」

　思いのほか驚いたな。

　「１時間ぐらい前にあって、『レイスはいますか』って聞かれたからさっきのこと伝えた。」

　「それでお母さんはなんて？」

　「『娘のことよろしくお願いします』って嬉しそうに言われた。」

　「お母さん……。」

　「レイス？」

　レイスは何やら喜んているように見えた。
　「あっ！　でも着替えとか持ってこないと。」

　「それなら妹の使ってくれたらいいよ。部屋も隣が妹のだから好きに使ってくれ。」

　「ユウトさん、妹いるんですか？」

　「お前と同じくらいのな。」

　レイスは何を思ったのか笑みを浮かべた。

　「なんだ？」

　「いえ、だからユウトさんって私に優しくしてくれるんだなって思って。」

　彼女はそう言っていたが俺がレイスを助けたのはそんなことじゃない。

　でも、今それを彼女には言えない。