魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる
57 暴走
「ついでにしちゃ重すぎるだろ」
ついでの一撃として魔王の身を砕いた父に、ロイドは言葉に反して表情は明るいものだ。 いかに現代では失われた魔術を身につけ、その実力を高めようとも不思議と届かないと思わせる父の背中は、やはり実際に目の当たりにしても遠かった。
いかにその身に宿る力が巨大であろうともそれを十全に扱えなければ無意味であり、そして力が足りなければ工夫によってそれを足してやれるという事を知らしめる戦い方。
ルーガスの最初の一撃は彼自身が生んだ風だけではなく、彼の風によって周囲の風も誘導して使っていたのだ。
そしてロイドも扱うダウンバーストは上空の冷えた空気が落ちるという自然現象を利用したもの。
それによって自身の持つ以上の力を発揮する技を、更に自然の風まで巻き込みつつ完全にコントロールする操作能力。
力と技巧の完成度が桁違いであり、故に戦い方も豊富で幅広い。
その百戦錬磨の威容は、確かに現代最強の名に相応しかった。
「こ、ここまでやれる魔法師なんて聞いた事ないわよ……」
ルーガスの力は古代にて最強と謳われた魔術師をもってしても驚愕だったらしく、アリアさえも目を丸くしていた。
「それに、なんなのこの領民達……なんでこんな小さな領地にこれほどの実力者が集まってんのよ」
そんな力を持つ者達がこんな田舎とも呼ぶべき地にこれほど集まるという異常に彼女はなんとも言えない感情を抱く。
ちらほらと時代の合間に観察していた彼女からすれば、この時代ならば彼らだけで大陸制覇も可能ではないかとすら思えた。
事実、恐らく可能だろう。
「だが、これからは俺達の仕事だ。気を抜くな」
とは言えレオンの言葉通り、最強世代と名高い彼らに残る魔力は多くない。もう一度同じ事をしろと言われても厳しいはずだ。
「当たり前だろ」
それは新世代と呼ばれるロイド達も当然理解しており、親世代の勢いをそのままに攻めんと魔力を高めていた。
だが、
「アぁアァアアあぁあアア!!」
「っ!なんだ!?」
地獄の底から轟いたかのような音に、生物の本能が身を強ばらせる。
「魔王か……?!」
それは一個の生命体から発せられた声。
そうでありながらこの世のものとは思えぬそれは、際限なく高まる魔力と相まってどこか非現実的な悍ましさがある。
「アァアあぁァアアッ!」
その咆哮のままに、魔王は無造作に両腕を振るう。
それに伴って乱れ飛ぶ衝撃波が周囲の空間を掻き乱した。
「ぐあっ!」
「きゃっ!」
「っ、父さん、母さんっ!」
「ぐぅっ!」
「がっ!」
それに最も近くにいたルーガス達は咄嗟に防御したものの、やはり耐える力は残されていなかった。
金属バットで叩かれたボールのように勢いよく吹き飛ばされ、大地に叩きつけられる。
慌てて後続の攻撃を防ごうとするロイド。それよりも早く、氷の華とせり上がる大地が衝撃を食い止めた。
「に、兄さん、グラン」
「……これは、まずいね」
「やべぇぞ、そうは保たねぇ!」
思わず兄と親友の方を見やるが、兄が常に浮かべる微笑みはなく苦しそうな表情があった。
それを表すかのように、氷の華は次々と砕かれていき、砕けた端から次々と咲かせてはいるもののそれがいかに大きな負担かは言うまでもない。
グランも同様で、彼の自由自在に操る大地をもってしても破壊の速度に追いつかず盾が削られている。
そうしている内に魔王はついに地面へと落ちてきた。
着地を考えずに暴れていた魔王はその衝撃で一瞬動きを止めており、今しかないとロイドが駆け出す。それよりも早く、レオンもアリアも動き出していた。
「っ?!居ない!」
「なっ、どこに行った?!」
だが、地面に叩きつけられた場所に魔王は居なかった。
目を剥くレオンとロイドは、慌てて周囲を見回しながら魔力探知に集中する。
しかし、ロイド達が探し出すよりも早く、その答えは現れた。
「があぁあっ!」
「ぐぅ、…っ!?」
フィンクとグランの背後の地面の中から現れた魔王が、グランと地面に叩きつけ、フィンクの首を掴んでいたのだ。
「っ、やめなさいっ!」
近くに居たエミリーが咄嗟に炎の閃光を放つ。
「っ?!このっ…!」
フィンクへと余波がないよう圧縮された赤い炎は、しかし魔王がフィンクを盾にするように延長線上に突き出した事でエミリーが慌てて消した。
そうしている内にフィンクの必死の身体強化で耐える時間も限界なのか、彼の顔が青くなっていく。
「離せやボケ!」
だが、その隙をついてロイドが空間魔術による瞬間移動で魔王の頭上をとった。
そのままフィンクを掴む腕に上空から短剣二刀を振り下ろす。
そして短剣が腕を捉えーーガンッ! という硬質な音を立てて止まった。
「な……っ?!」
あまりに異様な光景にロイドの思考が止まる。
これでもかと魔力を込めた魔導具の刃が通らないとは思いもしなかったロイドの、ほんの一瞬の隙。
それを見逃す魔王ではなく、反対の腕でロイドの首を掴んだ。
「っ、が……ぁっ!?」
万力どころではない圧力に咄嗟に渾身の身体強化を施して即死は免れたものの、外すことはおろか拘束を緩めることすら叶わない。
それどころかどんどん食い込む五指にロイドは焦りで背筋が凍る。
「くそ……!」
両腕で2人の少年を掴む魔王に、レオンが直進する。
温存すら頭から放り出し、駆けながら高まり続ける魔力によってじわりと銀の輝きが滲む。
『剛魔力』を纏う身体と剣を前に、しかし魔王はそれを迎え撃とうとはしなかった。
「ジャまなんダよォ!」
声というよりは音の羅列といったそれは、上手く聞き取れない不快音として耳をつんざく。
音の乱れは魔王の混乱によるものに見えるがその実、魔王の体からじわりじわりと滲む黒い光――剛魔力が乗せられた声を、通常の聴覚では拾えきれない故の認識の乱れだったりする。
ともあれ本人からすればどちらにせよ不気味かつ耳障りな音に、顔をしかめたくなるレオン。 それに構わず魔王は両腕をレオンへと振り抜いた。
「っ、」
それによって放り投げられたロイドとフィンクは、弾丸もかくやといった速度でレオンへと迫る。
レオンは即座に剣を捨てて2人を掴み、2人にかかる衝撃をその身で受け持たんと後方に跳ぶことで勢いを殺した。
「オレハまおウダ!チョうしにのるナ!」
そのレオンに耳障りな音と共に魔王フィアニスが追撃せんと迫る。
それを前にしてレオンは迎撃するでもなく、危険から遠ざける為に両腕に抱えた2人を左右に放り投げた。
それによりガラ空きとなった胴体に、フィアニスの拳が突き刺さる。
「がはァッ!」
「……んン?」
身体強化『部分強化』により、腹部を集中して防御。
それが功を奏して先のように貫かれる事は防いだものの、その衝撃は肺の空気を全て吐き出させ、レオンの呼吸を止める。
「良い歳こいてキレてんじゃないわよ!」
攻撃した際に訝しむように一瞬停滞したフィアニスに、アリアが圧縮した空間を指向性を持たせて解放する事で空間破砕とも言うべき凶悪な衝撃波を叩き込んだ。
余波だけで大地ごと抉るそれに、踏ん張るという前提すら与えられずフィアニスは後方へと吹き飛ぶ。
「レオン、大丈夫?!」
「あ、ああ……クソガキは生きてるか?」
「おーよ……酸欠なのか頭いってぇけどな」
ふらつく意識を気合いで立て直しながらロイドが立ち上がる。
横を見やると、ロイドよりも長く掴まれていたフィンクは限界だったのか意識を失っており、呼吸はあるから助かりはしたようだが戦うのは厳しそうだ。
周囲をさっと見回すと、叩きつけられたグランや衝撃の中心地に居たルーガスやシルビア、ラルフ、ベル、ドラグ、ディアモンドも地に伏せている。
「くっそ……バケモノが。いきなりキレてんじゃねーよ…」
一転して一気に厳しい状況になってしまった。
猛威を振るうフィアニスに悪態をつきつつ、ふと思う。
もしかして煽りすぎてキレたんじゃないよね?と。
ついでの一撃として魔王の身を砕いた父に、ロイドは言葉に反して表情は明るいものだ。 いかに現代では失われた魔術を身につけ、その実力を高めようとも不思議と届かないと思わせる父の背中は、やはり実際に目の当たりにしても遠かった。
いかにその身に宿る力が巨大であろうともそれを十全に扱えなければ無意味であり、そして力が足りなければ工夫によってそれを足してやれるという事を知らしめる戦い方。
ルーガスの最初の一撃は彼自身が生んだ風だけではなく、彼の風によって周囲の風も誘導して使っていたのだ。
そしてロイドも扱うダウンバーストは上空の冷えた空気が落ちるという自然現象を利用したもの。
それによって自身の持つ以上の力を発揮する技を、更に自然の風まで巻き込みつつ完全にコントロールする操作能力。
力と技巧の完成度が桁違いであり、故に戦い方も豊富で幅広い。
その百戦錬磨の威容は、確かに現代最強の名に相応しかった。
「こ、ここまでやれる魔法師なんて聞いた事ないわよ……」
ルーガスの力は古代にて最強と謳われた魔術師をもってしても驚愕だったらしく、アリアさえも目を丸くしていた。
「それに、なんなのこの領民達……なんでこんな小さな領地にこれほどの実力者が集まってんのよ」
そんな力を持つ者達がこんな田舎とも呼ぶべき地にこれほど集まるという異常に彼女はなんとも言えない感情を抱く。
ちらほらと時代の合間に観察していた彼女からすれば、この時代ならば彼らだけで大陸制覇も可能ではないかとすら思えた。
事実、恐らく可能だろう。
「だが、これからは俺達の仕事だ。気を抜くな」
とは言えレオンの言葉通り、最強世代と名高い彼らに残る魔力は多くない。もう一度同じ事をしろと言われても厳しいはずだ。
「当たり前だろ」
それは新世代と呼ばれるロイド達も当然理解しており、親世代の勢いをそのままに攻めんと魔力を高めていた。
だが、
「アぁアァアアあぁあアア!!」
「っ!なんだ!?」
地獄の底から轟いたかのような音に、生物の本能が身を強ばらせる。
「魔王か……?!」
それは一個の生命体から発せられた声。
そうでありながらこの世のものとは思えぬそれは、際限なく高まる魔力と相まってどこか非現実的な悍ましさがある。
「アァアあぁァアアッ!」
その咆哮のままに、魔王は無造作に両腕を振るう。
それに伴って乱れ飛ぶ衝撃波が周囲の空間を掻き乱した。
「ぐあっ!」
「きゃっ!」
「っ、父さん、母さんっ!」
「ぐぅっ!」
「がっ!」
それに最も近くにいたルーガス達は咄嗟に防御したものの、やはり耐える力は残されていなかった。
金属バットで叩かれたボールのように勢いよく吹き飛ばされ、大地に叩きつけられる。
慌てて後続の攻撃を防ごうとするロイド。それよりも早く、氷の華とせり上がる大地が衝撃を食い止めた。
「に、兄さん、グラン」
「……これは、まずいね」
「やべぇぞ、そうは保たねぇ!」
思わず兄と親友の方を見やるが、兄が常に浮かべる微笑みはなく苦しそうな表情があった。
それを表すかのように、氷の華は次々と砕かれていき、砕けた端から次々と咲かせてはいるもののそれがいかに大きな負担かは言うまでもない。
グランも同様で、彼の自由自在に操る大地をもってしても破壊の速度に追いつかず盾が削られている。
そうしている内に魔王はついに地面へと落ちてきた。
着地を考えずに暴れていた魔王はその衝撃で一瞬動きを止めており、今しかないとロイドが駆け出す。それよりも早く、レオンもアリアも動き出していた。
「っ?!居ない!」
「なっ、どこに行った?!」
だが、地面に叩きつけられた場所に魔王は居なかった。
目を剥くレオンとロイドは、慌てて周囲を見回しながら魔力探知に集中する。
しかし、ロイド達が探し出すよりも早く、その答えは現れた。
「があぁあっ!」
「ぐぅ、…っ!?」
フィンクとグランの背後の地面の中から現れた魔王が、グランと地面に叩きつけ、フィンクの首を掴んでいたのだ。
「っ、やめなさいっ!」
近くに居たエミリーが咄嗟に炎の閃光を放つ。
「っ?!このっ…!」
フィンクへと余波がないよう圧縮された赤い炎は、しかし魔王がフィンクを盾にするように延長線上に突き出した事でエミリーが慌てて消した。
そうしている内にフィンクの必死の身体強化で耐える時間も限界なのか、彼の顔が青くなっていく。
「離せやボケ!」
だが、その隙をついてロイドが空間魔術による瞬間移動で魔王の頭上をとった。
そのままフィンクを掴む腕に上空から短剣二刀を振り下ろす。
そして短剣が腕を捉えーーガンッ! という硬質な音を立てて止まった。
「な……っ?!」
あまりに異様な光景にロイドの思考が止まる。
これでもかと魔力を込めた魔導具の刃が通らないとは思いもしなかったロイドの、ほんの一瞬の隙。
それを見逃す魔王ではなく、反対の腕でロイドの首を掴んだ。
「っ、が……ぁっ!?」
万力どころではない圧力に咄嗟に渾身の身体強化を施して即死は免れたものの、外すことはおろか拘束を緩めることすら叶わない。
それどころかどんどん食い込む五指にロイドは焦りで背筋が凍る。
「くそ……!」
両腕で2人の少年を掴む魔王に、レオンが直進する。
温存すら頭から放り出し、駆けながら高まり続ける魔力によってじわりと銀の輝きが滲む。
『剛魔力』を纏う身体と剣を前に、しかし魔王はそれを迎え撃とうとはしなかった。
「ジャまなんダよォ!」
声というよりは音の羅列といったそれは、上手く聞き取れない不快音として耳をつんざく。
音の乱れは魔王の混乱によるものに見えるがその実、魔王の体からじわりじわりと滲む黒い光――剛魔力が乗せられた声を、通常の聴覚では拾えきれない故の認識の乱れだったりする。
ともあれ本人からすればどちらにせよ不気味かつ耳障りな音に、顔をしかめたくなるレオン。 それに構わず魔王は両腕をレオンへと振り抜いた。
「っ、」
それによって放り投げられたロイドとフィンクは、弾丸もかくやといった速度でレオンへと迫る。
レオンは即座に剣を捨てて2人を掴み、2人にかかる衝撃をその身で受け持たんと後方に跳ぶことで勢いを殺した。
「オレハまおウダ!チョうしにのるナ!」
そのレオンに耳障りな音と共に魔王フィアニスが追撃せんと迫る。
それを前にしてレオンは迎撃するでもなく、危険から遠ざける為に両腕に抱えた2人を左右に放り投げた。
それによりガラ空きとなった胴体に、フィアニスの拳が突き刺さる。
「がはァッ!」
「……んン?」
身体強化『部分強化』により、腹部を集中して防御。
それが功を奏して先のように貫かれる事は防いだものの、その衝撃は肺の空気を全て吐き出させ、レオンの呼吸を止める。
「良い歳こいてキレてんじゃないわよ!」
攻撃した際に訝しむように一瞬停滞したフィアニスに、アリアが圧縮した空間を指向性を持たせて解放する事で空間破砕とも言うべき凶悪な衝撃波を叩き込んだ。
余波だけで大地ごと抉るそれに、踏ん張るという前提すら与えられずフィアニスは後方へと吹き飛ぶ。
「レオン、大丈夫?!」
「あ、ああ……クソガキは生きてるか?」
「おーよ……酸欠なのか頭いってぇけどな」
ふらつく意識を気合いで立て直しながらロイドが立ち上がる。
横を見やると、ロイドよりも長く掴まれていたフィンクは限界だったのか意識を失っており、呼吸はあるから助かりはしたようだが戦うのは厳しそうだ。
周囲をさっと見回すと、叩きつけられたグランや衝撃の中心地に居たルーガスやシルビア、ラルフ、ベル、ドラグ、ディアモンドも地に伏せている。
「くっそ……バケモノが。いきなりキレてんじゃねーよ…」
一転して一気に厳しい状況になってしまった。
猛威を振るうフィアニスに悪態をつきつつ、ふと思う。
もしかして煽りすぎてキレたんじゃないよね?と。
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