魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

48 魔導具2

「おーやれやれー!」
「いけや長男!次男に負けんなあ!」
「ロイド頼むぞ!お前に全賭けしてんだからな!」

 冒険者達に囲まれた中で、ロイドとフィンクが向かい合う。

「すんげぇうるせぇ……」
「ふふ、彼らも良い息抜きになるんじゃない?」

 ロイドは黒一色の短剣を2本だらりと握り、フィンクはにこやかに笑う。

「マジかぁ魔導具……俺も欲しいんだけど」
「魔導石がそこまでとれなかったからな」
「グランくんなら地魔術でたくさん探せそうだし、今度探してきたら?」

 グラン、レオン、アリアもそれに混じるようにして2人を眺めている。
 他にもウィンディア家やクレアもおり、更に人が集まってきていた。

「おぉルーガス、また兄弟喧嘩するんだって?」
「手合わせ程度だ」
「いやどうせ負けず嫌いなあいつらだから喧嘩になるっての」

 ラルフも加わり、さらにベルやドラグと錚々たる面子が顔を覗かせに来ていた。

「うわぁ、どんだけ集まってきてんだ……あの人達、暇なんかな」
「仕事がないからね。ほんと、のんびり出来ない人達だよね」

 集まった者達も騒ぎの中心の2人には言われてたくないだろうが、しかし言い返せもしないだろう。
 
 ロイドの試し斬りという名目だが、先に見せたレオンのパフォーマンスのインパクトが強過ぎた。
 その為、念の為にとウィンディア家の庭ではなく領の外で試す事となった。

 そして最初にグランの地魔術による岩壁に試し斬り。すると、割とあっさり斬れてしまった。
 衝撃を受けたグランの表情はちょっと笑えたとはロイドの談。

 そしてあとは実践形式で短剣の感覚を取り戻そうという話になり、汎用性が最も高いフィンクと相対する事となった。

「てか、なんでまだ始めちゃいけねーの?」
「まだ賭けの募集が終わらないからだってさ」
「おいおい良いのかよ……」
「ま、身内のかわいい遊びみたいなものさ」

 さっき全賭けとか聞こえたけど、とロイドは頬をひきつらせるも、フィンクは柳に風で笑顔のままだ。
 知った事かといったところか、それとも単純に手合わせを楽しみにしているのか。
 なんにせよ、ただの感覚を掴む為の手合わせ程度に大袈裟な、とロイドはため息をこぼす。

「っしゃオッケー!さぁ始めていいぞ!ちなみにオッズが高いのは弟の方だぁ!」
「………あぁ?」
「ふふ、まだ僕の方が人気みたいだね。悔しいかい?」
「は?悔しくねーし。てかただの手合わせだし」

 フィンクのニコニコ顔がロイドを煽る。
 オッズが高いーーつまり倍率が高く、ロイドの勝ちに賭けた者の方が少ないという事だが、それが悔しかったようだ。
 明らかに目の色を変える弟に、しかしむしろフィンクは嬉しそうである。

「それじゃ始めようかーー『氷華』」

 フィンクの周囲に氷の華が咲き誇る。
 ふわりふわり、と華は透き通るような氷で構成されており、戦闘向きとは思えない美しさだ。

「全部ぶった斬ってやる!」
「ふふ、頑張って」

 しかしその華は、否花弁ひとつとっても凶悪な代物。
 研ぎ澄まされた刃のような切れ味と、鋼鉄のような硬度を持ち合わせており、さらにはそれを手足のように扱うとなれば厄介極まりない。
 
 ロイドは身体に風魔術を纏い、速度を底上げしつつ突貫。
 まずは様子見だと、目の前にある氷華に短剣を叩きつける。

「……へぇ」
「おぉ、やっぱよく斬れるなこれ!」

 結果は真っ二つ。さらには殺到する氷華も2本の短剣を縦横無尽に振るって斬り落としていく。
 これにはフィンクも片眉を跳ねさせた。

 そうしていく内に魔導具の性能が理解出来てきた。
 とは言え言葉にすれば単純なもので、魔力を込める事で硬度や強度が際限なく高まるというものだ。
 斬れ味については魔力を多く込めてもあまり変化はないので、恐らくはロゼットの腕による短剣そのものの性能だろう。
 
 勿論、単純に魔力による補助効果として多少の切れ味強化はされているだろうが、魔導石の本来の性能ではないといったところか。

 だが、この際限なく耐久性が強化されるというのは魅力的すぎた。
 
 ロイドの身体強化による速度と力に耐えられる武器は少ない。
 耐えたとしても、精々1、2回の戦闘が限界だったのだから。
 
 ロイドですらそうなのだから、レオンがあれ程喜ぶのも分からなくもない。

「やるね。久しぶりなのに全然使えてるじゃないか」
「いやぁ、身体が覚えてるもんだな。これなら兄さんの理不尽氷魔法とも打ち合えるわ」

 そう、氷華の厄介な最たる点はそこにあった。
 なんせ武器で止めようにも余程良い武器でなければ耐えられないし、だとしても限界はある。
 対して氷華は刃こぼれなど関係ない。すぐにまた新品になって咲き誇るのだから。
 
 武器での衝突を避けようとしても自由自在に操られる凶刃の群れから逃れるのは至難だろう。
 圧倒的な硬度と操作性、そして物量が脅威なのだ。

「よし、それじゃもう少し慣らさせてあげるよ」
「お?ん?お、おぉ」

 なんか声に圧がなかった?と思うロイドの目の前で、氷華が一斉に倍以上咲き誇る。

「『氷樹』」
「へ?」

 その上2人を囲うように現れた数本の氷の樹。華よりも太く大きいそれは先程までのように簡単には斬り落とせないだろう。

「うわ、新技?!」
「試し斬りにはもってこいだろ?」
「限度あんだろーが!ってうわ、この樹動きキモっ!」

 ぎゃーぎゃーと騒ぎながら飛び回るロイドとそれを氷魔法で追うフィンク。
 それを囲ってヤジやら応援やらを飛ばす冒険者達。

「楽しそうね」
「あぁ、そうだな……」

 その様子を可笑そうに見ていたアリアだが、レオンの返事に違和感を覚える。

「……レオン?」
「ん?なんだ」

 くるり、とアリアはレオンの顔を見やる。
 覗き込むようにしてじぃーと見るが、レオンの無表情は揺るぎもしない。だが、

「思うところがありますー、ってとこかしらね」
「……なんのことだ」
「魔王との戦いが終わっても、この国なら大丈夫よ」

 肩をすくめるレオンに構わずアリアはさらりと言った。
 それに珍しく思いっ切り目を丸くするレオン。

「それにこの子達なら戦争になる前に止めそうじゃない?」

 と可笑そうに笑うアリアに、レオンは目を奪われる。

 かつての対戦の後、魔族という共通の敵を失い人族同士での戦争が始まった。
 その最中にレオンは『死神』として忌避されるようになり、そして人族に見切りをつけたのだ。
 
 魔王との戦いを前に、どうしてもその事が脳裏を過ってはいたが、こうして人が集まって楽しそうにしているのを見て、かえってそうなる未来を不安に思ってしまっていた。

「それに、私もいるのよ?アンタとは違うんだから。私の前で国同士のケンカなんてさせるわけないじゃない」

 そんな数百年前のトラウマにも近い不安感を、しかしアリアは笑いながら吹き飛ばす。
 
 昔からそうだった。
 基本ふざけたヤツなのに、誰よりも不安に早く気付き、不安を消し去る為に行動した。
 
 その最たるものは魔王との戦いだったのかも知れない。
 思えばアリアによって後に英雄の呼ばれる者達は集められた。
 リーダーとして、魔王を退けられるメンバーを誰よりも早く集めるべく動き、そして導いていった。

 そんな彼女が自信満々に言い放ったのだ。
 きっと大丈夫なのだろうと、捻くれたレオンらしくなく信じる事ができた。

「……はは、そうかもな」

 今も昔も変わらず、アリアは道標だった。導いてくれるリーダーだ。
 もっとも、ただ導かれるがままに大人しく着いていくような者は昔も今もあまり居ないが、それでも頼りにしているのは間違いなかった。

「…………」

 そんな頼れるリーダーは、奇しくも先程のレオンと同じように目を丸くしていた。
 その様子にレオンは訝しげに首を捻りつつアリアの顔を覗き込む。

「っ」
「おい、なんなんだ」

 すると弾かれたようにアリアは顔を背ける。
 いきなり不機嫌になるんじゃねーよ、とばかりにレオンは眉根を寄せるが、アリアからすればそれどころではない。

「……レオン、あんたまだ笑う機能壊れてなかったのね」
「当たり前だろう。俺だって笑う時は笑う」
「絶対嘘でしょ」

 はい嘘です、とロイドが居れば答えたろう。が、今ロイドは必死に氷の群れを斬り落としながら逃げ回っている。

「笑っちゃ悪いのか」
「そんなワケないじゃない。どんどん笑いなさい。命令よ」
「いつまでリーダーのつもりだ」
「アンタが死ぬまでよ」
「勇者パーティ、ブラックすぎないか」

 やっと見せれる顔になったらしく呆れるレオンに顔を向けて、ニィッと笑うアリア。

「何を今更。魔王討伐メンバーなのよ?もともとすんごいブラックだったじゃない」

 確かに「はい、じゃあ君達の仕事は魔王を倒すことです」なんて指示が飛ぶ職場などブラックの極みである。
 
「魔王を倒しても続くんだから。あんたは老衰までちゃーんと生きるの。私がサボらないように監視してあげるわ」

 悪戯っけのある笑顔のままに言い放ったアリア。 こいつは人の心が読めるのではないか、とレオンは本気で考えた。

「……まぁ、それも悪くないかもしれんな」
「っ」

 無自覚の反撃に、結局アリアはロイドとフィンクに引き分けが言い渡されるまでレオンに顔を背けたままだった。

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