魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる
43 スタンピード2
それからどれほど時間が経っただろうか。
「ちっ……思ったより手間取ったな。やはり魔力が減っているな」
「アンタは循環させた身体魔術主体だからいいけど、私なんて遠距離中心なのよ?労わりなさいよね」
レオンとアリアが帝国とウィンディア領の中間ほどの地点で一息ついていた。
微かに上がった息を数呼吸で整えて、ウィンディア領へと走り出す。
ちなみにフェブル山脈は帝国までは届かずとも、それでもまだ2人のいる場所からは帝国の方に向けて伸びている。
それなのに中間地点で引き返すのは、決して帝国を見捨てた訳ではない。
駆け出して殲滅すること数分。レオンとアリアはふと同時に思ったのだ。
いやこれ2人固まる意味あるか?と。
アリアほどの遠距離攻撃は出来ないながらも、それなりの距離を攻撃出来る上に近接となれば魔物相手では無敵といっても差し支えないレオン。
遠距離攻撃に優れ、近接だろうとレオン程はなくても魔物には遅れを取ることはないアリア。
ともに単体で高火力にして殲滅力に優れているのだ。1箇所にまとまる必要などないのではないか。
お互いが同時に視線を向け合う。口を開くまでもなく同じことを考えていると察した2人は、頷き合うだけで行動を開始。
アリアが進行方向に『震天』。空いたスペースをレオンが爆走。
あとは単純な話で、一気に魔物を抜きり駆け抜けたレオンが帝国まで辿り着き、魔物を殲滅しながら戻ってくるというものだ。
そしてほぼ中間地点で合流したという訳である。
「てゆーかアンタ、何匹か取り残してない?」
「デカいのは全滅させている。雑魚なら帝国のやつらで間に合う。……1人、できる男もいるしな」
ほぼ中間地点ということは少し進んだ地点からスタートしたアリアと一度端まで行ったレオンではレオンの方が殲滅量が多かったという事。
その理由はそこにあった。
「そいつなら、よほどの集団や強個体でなければ、問題ない」
「ふぅん」
王国のみならず帝国にまでレオンが認めるレベルの男がいるのかと、内心アリアはこの時代を生きる者達の強さに驚く。
ずいぶん豊作な世代ね、と小さく笑った。
ちなみに、レオンが言う男は他でもないギランである。
地魔法の派生である金属魔法。息子のグランにも劣らぬ防衛力と硬度からくる破壊力を有し、技量と戦闘経験も豊富な稀有な戦力である。
「それより、早く戻るぞ。とっくに王都に魔物が攻め込んでいる頃だ」
「そうね。あの子達は心配いらないけど、被害を完全に止めるのは厳しいでしょうしね」
シルビアの言葉はレオンも考えていたことだ。そしてフィンクの悩んでいた事でもある。
だからこそレオンとシルビアは2人で片方を請け負ったのだ。突出した2人で一気に殲滅し、すぐに戻る。
それがかえって最短だと判断したのだ。
「よし、レオン。あんた私を背負っていきなさい」
「何故?」
きょとん。レオンのガチ疑問。
「循環してるからほとんど魔力使ってないでしょう?私は疲れたの、道中に回復させるわ」
「いや、俺も急ぐ為にそれなりに魔力は使ったんだが……」
魔術は魔力を対象に干渉させることで行使する。
身体魔術は対象が自身の身体の為、そのまま体内で循環させる事で魔力をほぼ消費することなく運用し続ける事が出来る。
身体魔術だけに許された裏技だが、循環可能な範囲を超える出力を出したり、魔力を放出しての攻撃などではどうしても魔力消費は起きる。
レオンは帝国に行く途中、竜種の群れと出会っていた。
殲滅しながらの帰り道ならともかく、行きで時間がかかれば帝国へと攻め込む魔物も出てくるだろう。しかし放置するには厄介すぎる相手でもある。
そう考えたレオンは循環出来る範囲以上の魔力を身体魔術へと注いだ。ブーストのイメージに近い。
更には囲まれないように魔力を乗せた拳撃も使っている。『崩月』まではいかないが、原理としては似たような攻撃だ。当然、これも魔力を使った。
そんな訳で、平気な顔してるけど実は結構疲れてるレオンさん。マジかよめんどくせぇ、という顔を隠しもしない。
「あーもういいじゃない!美女が乗せろっつってんのよ!男なら鼻の下伸ばして喜びなさい!ほら、早く!」
「口の悪さに伸びるものも伸びないわ。あと自分で言うな」
そう言いつつ、レオンはアリアの腕を掴み、ふわりと持ち上げる。
どうやったのか体への負担はなく気付けばレオンの背中に乗せられたアリアは目を丸くした。
「……何、あんた。女を背中に乗せる技なんて編み出したの?」
「バカも休み休み頼む」
呆れたような声音を耳元に聞きながらアリアは笑う。
「まぁいいわ!さぁ全力ダッシュよ!行きなさいレオン!」
「耳元で騒ぐな……」
呆れを通り越してげんなりした様子のレオン。
それでいて高速で、しかし体をあまり揺らさずに走る彼が、背中にいる彼女に気を配っているのは明白で。
「…………」
アリアはなんとなく、レオンの背中に体重をかけるように倒れ込む。しっかりと抱きつくように、その身を彼の背中に預けるように。
レオンはレオンで、やっと大人しくなったかと溜息をこぼす。
そんな彼の心情を見抜けないアリアではなく、内心で「クソツンデレ鈍感やろー」と呟きつつも、勿論口を開く事はしない。
なんとなくーーそう、なんとなく、口を開くとまた言い争いになる気がしたのだ。
それをもしレオンが察していれば、お前のせいだと言われただろうが。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「くっそが!追いつかねぇぞこんなん!」
「叫ぶ暇があったら1匹でも多く倒せ」
「わあってんだよ!」
全てを切り裂く剣と、どんなものでも押し潰すような巨大な斧が、大型の魔物に次々と振るわれる。
「あぁもう!キリがないねぇ!」
「参っちゃうわねぇ。こんなにどこに居たのかしら」
空を覆う黒雲から降り注ぐ雷と、それを縫うように暴れ回る炎や洪水が魔物の波を焼き、押し留め、潰していく。
「これほどか……」
蒼い風を纏う『風神』の風は、いかなる魔物であろうと一陣の風のもとにそれをただの肉塊へと変える。
どれだけの魔物を葬ったことだろう。
だが、いまだに大地を覆わんと迫る魔物の群れは途切れることを知らない。
「ち……思ったより進めんな」
それでも殲滅は着々と進み、ルーガス達もかなりの距離を移動している。だが、それでも王都までは遠い。
フィンク達はどうなったろうか。途中からフォローに入れない程の距離が開いてしまった。そうそう殺されたりはしないだろうが、王都に被害が出るまでに辿り着くのは厳しいはずだ。
考えれば考える程湧き上がる焦りを、無理やり落ち着かせる。慌てても仕方ないと、ルーガスは小さく深呼吸。
問題はそれだけではないのだ。
予想を遥かに超える魔物の数に、魔力が心もとなくなってきている。
まだまだ保つが、それでもこのペースを考えれば王都に着くまでには尽きてしまうだろう。
当然、ペースアップという無理をすればもっと早い。
それはルーガス以外のメンツも思い至っている。動きや表情に出さないのは流石といった所だが、心に引っかかったような焦りが完全に抜け落ちる事はない。
王都には国王と皇太子がいる。
2人とも王族秘伝の火魔法を扱え、大抵の敵なら焼き払える威力を有する。だが、魔力消費が桁違いという欠点もあった。
つまりは長期戦は不向き。
せめてフィンク達が到着していればしばらく保つだろうがーー
そんなことを考えていた時、ルーガスは予想もしていなかった光景を目にした。
「ちっ……思ったより手間取ったな。やはり魔力が減っているな」
「アンタは循環させた身体魔術主体だからいいけど、私なんて遠距離中心なのよ?労わりなさいよね」
レオンとアリアが帝国とウィンディア領の中間ほどの地点で一息ついていた。
微かに上がった息を数呼吸で整えて、ウィンディア領へと走り出す。
ちなみにフェブル山脈は帝国までは届かずとも、それでもまだ2人のいる場所からは帝国の方に向けて伸びている。
それなのに中間地点で引き返すのは、決して帝国を見捨てた訳ではない。
駆け出して殲滅すること数分。レオンとアリアはふと同時に思ったのだ。
いやこれ2人固まる意味あるか?と。
アリアほどの遠距離攻撃は出来ないながらも、それなりの距離を攻撃出来る上に近接となれば魔物相手では無敵といっても差し支えないレオン。
遠距離攻撃に優れ、近接だろうとレオン程はなくても魔物には遅れを取ることはないアリア。
ともに単体で高火力にして殲滅力に優れているのだ。1箇所にまとまる必要などないのではないか。
お互いが同時に視線を向け合う。口を開くまでもなく同じことを考えていると察した2人は、頷き合うだけで行動を開始。
アリアが進行方向に『震天』。空いたスペースをレオンが爆走。
あとは単純な話で、一気に魔物を抜きり駆け抜けたレオンが帝国まで辿り着き、魔物を殲滅しながら戻ってくるというものだ。
そしてほぼ中間地点で合流したという訳である。
「てゆーかアンタ、何匹か取り残してない?」
「デカいのは全滅させている。雑魚なら帝国のやつらで間に合う。……1人、できる男もいるしな」
ほぼ中間地点ということは少し進んだ地点からスタートしたアリアと一度端まで行ったレオンではレオンの方が殲滅量が多かったという事。
その理由はそこにあった。
「そいつなら、よほどの集団や強個体でなければ、問題ない」
「ふぅん」
王国のみならず帝国にまでレオンが認めるレベルの男がいるのかと、内心アリアはこの時代を生きる者達の強さに驚く。
ずいぶん豊作な世代ね、と小さく笑った。
ちなみに、レオンが言う男は他でもないギランである。
地魔法の派生である金属魔法。息子のグランにも劣らぬ防衛力と硬度からくる破壊力を有し、技量と戦闘経験も豊富な稀有な戦力である。
「それより、早く戻るぞ。とっくに王都に魔物が攻め込んでいる頃だ」
「そうね。あの子達は心配いらないけど、被害を完全に止めるのは厳しいでしょうしね」
シルビアの言葉はレオンも考えていたことだ。そしてフィンクの悩んでいた事でもある。
だからこそレオンとシルビアは2人で片方を請け負ったのだ。突出した2人で一気に殲滅し、すぐに戻る。
それがかえって最短だと判断したのだ。
「よし、レオン。あんた私を背負っていきなさい」
「何故?」
きょとん。レオンのガチ疑問。
「循環してるからほとんど魔力使ってないでしょう?私は疲れたの、道中に回復させるわ」
「いや、俺も急ぐ為にそれなりに魔力は使ったんだが……」
魔術は魔力を対象に干渉させることで行使する。
身体魔術は対象が自身の身体の為、そのまま体内で循環させる事で魔力をほぼ消費することなく運用し続ける事が出来る。
身体魔術だけに許された裏技だが、循環可能な範囲を超える出力を出したり、魔力を放出しての攻撃などではどうしても魔力消費は起きる。
レオンは帝国に行く途中、竜種の群れと出会っていた。
殲滅しながらの帰り道ならともかく、行きで時間がかかれば帝国へと攻め込む魔物も出てくるだろう。しかし放置するには厄介すぎる相手でもある。
そう考えたレオンは循環出来る範囲以上の魔力を身体魔術へと注いだ。ブーストのイメージに近い。
更には囲まれないように魔力を乗せた拳撃も使っている。『崩月』まではいかないが、原理としては似たような攻撃だ。当然、これも魔力を使った。
そんな訳で、平気な顔してるけど実は結構疲れてるレオンさん。マジかよめんどくせぇ、という顔を隠しもしない。
「あーもういいじゃない!美女が乗せろっつってんのよ!男なら鼻の下伸ばして喜びなさい!ほら、早く!」
「口の悪さに伸びるものも伸びないわ。あと自分で言うな」
そう言いつつ、レオンはアリアの腕を掴み、ふわりと持ち上げる。
どうやったのか体への負担はなく気付けばレオンの背中に乗せられたアリアは目を丸くした。
「……何、あんた。女を背中に乗せる技なんて編み出したの?」
「バカも休み休み頼む」
呆れたような声音を耳元に聞きながらアリアは笑う。
「まぁいいわ!さぁ全力ダッシュよ!行きなさいレオン!」
「耳元で騒ぐな……」
呆れを通り越してげんなりした様子のレオン。
それでいて高速で、しかし体をあまり揺らさずに走る彼が、背中にいる彼女に気を配っているのは明白で。
「…………」
アリアはなんとなく、レオンの背中に体重をかけるように倒れ込む。しっかりと抱きつくように、その身を彼の背中に預けるように。
レオンはレオンで、やっと大人しくなったかと溜息をこぼす。
そんな彼の心情を見抜けないアリアではなく、内心で「クソツンデレ鈍感やろー」と呟きつつも、勿論口を開く事はしない。
なんとなくーーそう、なんとなく、口を開くとまた言い争いになる気がしたのだ。
それをもしレオンが察していれば、お前のせいだと言われただろうが。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「くっそが!追いつかねぇぞこんなん!」
「叫ぶ暇があったら1匹でも多く倒せ」
「わあってんだよ!」
全てを切り裂く剣と、どんなものでも押し潰すような巨大な斧が、大型の魔物に次々と振るわれる。
「あぁもう!キリがないねぇ!」
「参っちゃうわねぇ。こんなにどこに居たのかしら」
空を覆う黒雲から降り注ぐ雷と、それを縫うように暴れ回る炎や洪水が魔物の波を焼き、押し留め、潰していく。
「これほどか……」
蒼い風を纏う『風神』の風は、いかなる魔物であろうと一陣の風のもとにそれをただの肉塊へと変える。
どれだけの魔物を葬ったことだろう。
だが、いまだに大地を覆わんと迫る魔物の群れは途切れることを知らない。
「ち……思ったより進めんな」
それでも殲滅は着々と進み、ルーガス達もかなりの距離を移動している。だが、それでも王都までは遠い。
フィンク達はどうなったろうか。途中からフォローに入れない程の距離が開いてしまった。そうそう殺されたりはしないだろうが、王都に被害が出るまでに辿り着くのは厳しいはずだ。
考えれば考える程湧き上がる焦りを、無理やり落ち着かせる。慌てても仕方ないと、ルーガスは小さく深呼吸。
問題はそれだけではないのだ。
予想を遥かに超える魔物の数に、魔力が心もとなくなってきている。
まだまだ保つが、それでもこのペースを考えれば王都に着くまでには尽きてしまうだろう。
当然、ペースアップという無理をすればもっと早い。
それはルーガス以外のメンツも思い至っている。動きや表情に出さないのは流石といった所だが、心に引っかかったような焦りが完全に抜け落ちる事はない。
王都には国王と皇太子がいる。
2人とも王族秘伝の火魔法を扱え、大抵の敵なら焼き払える威力を有する。だが、魔力消費が桁違いという欠点もあった。
つまりは長期戦は不向き。
せめてフィンク達が到着していればしばらく保つだろうがーー
そんなことを考えていた時、ルーガスは予想もしていなかった光景を目にした。
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