魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる
38 とある2人の会話
「なんか……すごい濃いのが集まってるわね…」
どこか疲れたようにぼやくアリアに、レオンは肩をすくめてみせた。
レオンらと共にウィンディア領へと向かった先で、群がられて質問攻めに遭った挙句、手合わせの願い出を大量に受けたアリア。
が、とりあえず『震天』したのはほんの数分前のこと。
久しぶりに多くの人と触れ合う彼女からすれば、抱く感情はどうあれ驚きと疲労を覚えてしまうのも無理はない。
「だからといっていきなり叩きのめす事はないだろう」
「うっさいわね。こっちだっていきなり撃つハメになるなんて思ってなかったわよ」
呆れるレオンに、アリアも撫然と返す。だって仕方ないじゃん、怖かったんだもんと、若干前のめりすぎる手合わせの申し出に割と本気でヒいていたアリア。
「だが、悪くないだろう?」
「……まぁ、そうね」
レオンの言葉に、微かに目を瞠りつつ頷く。
そして、気持ちを切り替えるように溜息をひとつこぼしてから、ニィッと神聖な雰囲気の彼女らしからぬーー彼女を知るならよく似合うーー笑顔を浮かべる。
「それにしても、まさかあのレオンがここまで馴染むとはね。暗かったあんたと仲良くしてくれるなんて良い子達じゃない」
「うるさい。あと、あまりそういう言い回しをすると年寄り扱いされるぞ」
〝良い子〟と称したアリアに、レオンが固すぎる表情筋を動かして揶揄うような笑みをーー昔のレオンを知らねば、度肝を抜かれる程珍しい光景だーー微かに浮かべて返す。
それを見てこれまた目を丸くするアリア。
「うわ……ほんと、良かったわねぇ。やっぱりロイドのおかげかしらね?」
「そのロイドに年寄り扱いをされるって話なんだが……」
「え、マジ?確かにやりかねないわね……嫌よそんなの。永遠の18歳なのよ私は」
「サバ読みも限度があるだろう。魔王と戦った時には通り過ぎていたろうが」
美男美女の軽口の叩き合いにしか見えない光景だが、実際は肉体年齢はともかく数百年を生きた英雄だ。
そしてお互いが話題として選んだのはやはり共通する知人であるロイドであり、アリアはレオンが明るくなった原因として、レオンは年寄り扱いする最たる人物として話し合う。
「しっかし、まさかロイドにあんなスキルが備わるなんてね」
「俺達の時代はもちろん、魔術最盛期でもかなり少なかったらしいからな。この時代で現れるのは奇跡だろう」
「まぁそこらへんは別の空間の住民だからってのもあるかも知れないわね。……まぁ、そこを考えると申し訳ないんだけどさ」
時代に合わせて文化が変わり、それに合わせて人の生活が変わり、そして肉体にも変化がある。
例えば魔術が生まれるまでの昔の人の肉体は強かった。
肉体のみで狩猟をして生きていたのだから当然だろう。
そして魔術が発見されて発展していく内に肉体の強さより魔術を扱う為に脳が発達して、反面肉体としては衰えたという。
それと同じように、魔術時代の終わりと魔法時代の到来により、人々が発現するスキルも魔法に寄っていったというのだ。
そんな中に現れたロイドの持つスキル『魔術適正』。
限定なしの適正で全ての魔術に適応出来る性質があり、魔術時代でさえ奇跡と呼ぶべきレアスキルだ。
だが、今は魔法時代。
しかも、魔術については魔族との大戦やその後の人族同士の戦いで記録がほとんど残らず、現代では古代技術として扱われる程だ。
珍しさは反面、情報の少なさとなる。
失われた技術を磨く術は無く、もしレオンやアリアが居なければ、その価値を十全に生かす事は難しかっただろう。
精々、少し器用な魔法士といったレベルだったはずだ。
時代に合わない異端児としてのスキルを手にしたロイドは、この2人がいてこそ力を発揮出来ていると言える。
「構わんだろう。何もない死より、あいつは苦しくても生きる道を選ぶ」
アリアの申し訳なさは、ロイドを黒川涼として死なせてやるべきだったかも知れないということ。
ロイドとして生まれて「恥さらし」と呼ばれてきた事や、何度も生死の境を綱渡りするような生き方をしている事が幸せなのか。
少なくとも現代日本人には辛いだろう。そう思ったのだが、それをレオンが否定した。
「だが、俺達の残した問題の後始末を手伝わせていることは……な」
「そうよねぇ、しかもやる気満々じゃない。まぁそこはあんたが慕われてる証拠なんでしょうけど」
「……そうとは思えんが、まぁやる気はあるな。何故か」
ロイドに慕われている。クレアにも言われ、アリアにまで言われたレオンは、どこか落ち着かないように話を流した。
それに当然気付きつつも、アリアは見逃してやることにする。
「ありがたいことに、実際すっごく助かっちゃうしねぇ」
「……………………」
ここは認めないんかい、と内心でダンマリのレオンに悪態をつきつつ呆れたような視線を送る。
それに気づかないはずがないレオンだが、ごほんと咳払いをして誤魔化そうとする。
「それより、魔王はいつ頃に出てきそうなんだ?」
「あら、ロイドの事は聞かないの?」
「クソガキがどうなろうと知らん」
「はいはい、意地っ張りも程々にしときなさいよ」
呆れるアリアに目元をひくつかせるレオン。
「まぁいいわ。魔王よね……多分、最低でもあと数日はかかると思うわよ」
「何?……そんなにかかるのか?」
レオンは予想外だったらしく微かに目を瞠る。
あの規格外の怪物なら、今すぐに出てきてもおかしくないと考えていただけに、アリアの返答は意外だった。
「むしろ、早すぎるわ。数日ってのも魔王だからよ」
そんなレオンにアリアは肩をすくめてみせた。
「普通なら空間魔術あってなんぼなの。それでもかなりの出力が必要だから今のロイドには厳しいでしょうけど、空間魔術を持たない魔王なら普通出てこれないはずなのよ」
「なるほどな……」
しかし、それでもあの怪物なら無理やりにでもこじ開けて出てきそうだから、というのが見解なのだろう。
だが、それを成す魔力もさすがに減っているだろうから、出てくるにしても数日はかかるというもの。
そこまで聞いて、レオンは納得したように頷く。
「クソガキは出てこれないのか?」
「ハッキリ言って、今のあの子じゃ無理でしょうね」
さすがに知らんぷりが出来なくなったな、と内心ニヤつきつつアリアはさらりと返す。
内容としては厳しいものだが、しかし2人に心配の色はない。
「そうか。ならば魔王よりは遅いかも知れんな」
「そうね。まぁその時はその時よ」
戻ってこないなどあり得ない。
今の彼では不可能でも、いつか必ず彼は可能にする。
しかし、魔王より遅くなる可能性はかなり高い。
それもまた彼らにとって問題ではない。というより、問題とすべきではない。
「もとより私達の問題なのよ。私達だけで終わらせるだけだわ」
「そうだな」
アリアの言葉と同じ事を思っていたレオンは頷く。
むしろ、ロイドが遅れてきた方が良いとさえ思う。
帰ってきた時には、全てを終わらせておく。そうなるのが一番だ、と。
「でも、何故かウィンディアの子達はやる気満々なのよね」
「放っておけ。あいつらもそう簡単に死ぬようなやつらではない」
「………ふぅん」
レオンの言葉に、アリアは驚く。驚きすぎて言葉を返すのが遅れるほどに。
現世の地獄を自らの力のみで生きたレオンが、他者を認める。
しかもそれが魔王との戦いという水準での話だ。
「余程強いみたいね。手合わせ、受けておくべきだったかしら」
「バカ言え。仮に単体でやりあうなら、相手になるのはせいぜいルーガスくらいだ。やるとしても、やりすぎるなよ」
「分かってるわよ」
どうだか、と見た目に反してサバサバしているアリアに呆れた視線をやる。
彼女は悪く言えば荒っぽいところがあるのでーーレオンは魔王戦前に怪我で間に合わないやつが出てくるのではないかと溜息をこぼした。
どこか疲れたようにぼやくアリアに、レオンは肩をすくめてみせた。
レオンらと共にウィンディア領へと向かった先で、群がられて質問攻めに遭った挙句、手合わせの願い出を大量に受けたアリア。
が、とりあえず『震天』したのはほんの数分前のこと。
久しぶりに多くの人と触れ合う彼女からすれば、抱く感情はどうあれ驚きと疲労を覚えてしまうのも無理はない。
「だからといっていきなり叩きのめす事はないだろう」
「うっさいわね。こっちだっていきなり撃つハメになるなんて思ってなかったわよ」
呆れるレオンに、アリアも撫然と返す。だって仕方ないじゃん、怖かったんだもんと、若干前のめりすぎる手合わせの申し出に割と本気でヒいていたアリア。
「だが、悪くないだろう?」
「……まぁ、そうね」
レオンの言葉に、微かに目を瞠りつつ頷く。
そして、気持ちを切り替えるように溜息をひとつこぼしてから、ニィッと神聖な雰囲気の彼女らしからぬーー彼女を知るならよく似合うーー笑顔を浮かべる。
「それにしても、まさかあのレオンがここまで馴染むとはね。暗かったあんたと仲良くしてくれるなんて良い子達じゃない」
「うるさい。あと、あまりそういう言い回しをすると年寄り扱いされるぞ」
〝良い子〟と称したアリアに、レオンが固すぎる表情筋を動かして揶揄うような笑みをーー昔のレオンを知らねば、度肝を抜かれる程珍しい光景だーー微かに浮かべて返す。
それを見てこれまた目を丸くするアリア。
「うわ……ほんと、良かったわねぇ。やっぱりロイドのおかげかしらね?」
「そのロイドに年寄り扱いをされるって話なんだが……」
「え、マジ?確かにやりかねないわね……嫌よそんなの。永遠の18歳なのよ私は」
「サバ読みも限度があるだろう。魔王と戦った時には通り過ぎていたろうが」
美男美女の軽口の叩き合いにしか見えない光景だが、実際は肉体年齢はともかく数百年を生きた英雄だ。
そしてお互いが話題として選んだのはやはり共通する知人であるロイドであり、アリアはレオンが明るくなった原因として、レオンは年寄り扱いする最たる人物として話し合う。
「しっかし、まさかロイドにあんなスキルが備わるなんてね」
「俺達の時代はもちろん、魔術最盛期でもかなり少なかったらしいからな。この時代で現れるのは奇跡だろう」
「まぁそこらへんは別の空間の住民だからってのもあるかも知れないわね。……まぁ、そこを考えると申し訳ないんだけどさ」
時代に合わせて文化が変わり、それに合わせて人の生活が変わり、そして肉体にも変化がある。
例えば魔術が生まれるまでの昔の人の肉体は強かった。
肉体のみで狩猟をして生きていたのだから当然だろう。
そして魔術が発見されて発展していく内に肉体の強さより魔術を扱う為に脳が発達して、反面肉体としては衰えたという。
それと同じように、魔術時代の終わりと魔法時代の到来により、人々が発現するスキルも魔法に寄っていったというのだ。
そんな中に現れたロイドの持つスキル『魔術適正』。
限定なしの適正で全ての魔術に適応出来る性質があり、魔術時代でさえ奇跡と呼ぶべきレアスキルだ。
だが、今は魔法時代。
しかも、魔術については魔族との大戦やその後の人族同士の戦いで記録がほとんど残らず、現代では古代技術として扱われる程だ。
珍しさは反面、情報の少なさとなる。
失われた技術を磨く術は無く、もしレオンやアリアが居なければ、その価値を十全に生かす事は難しかっただろう。
精々、少し器用な魔法士といったレベルだったはずだ。
時代に合わない異端児としてのスキルを手にしたロイドは、この2人がいてこそ力を発揮出来ていると言える。
「構わんだろう。何もない死より、あいつは苦しくても生きる道を選ぶ」
アリアの申し訳なさは、ロイドを黒川涼として死なせてやるべきだったかも知れないということ。
ロイドとして生まれて「恥さらし」と呼ばれてきた事や、何度も生死の境を綱渡りするような生き方をしている事が幸せなのか。
少なくとも現代日本人には辛いだろう。そう思ったのだが、それをレオンが否定した。
「だが、俺達の残した問題の後始末を手伝わせていることは……な」
「そうよねぇ、しかもやる気満々じゃない。まぁそこはあんたが慕われてる証拠なんでしょうけど」
「……そうとは思えんが、まぁやる気はあるな。何故か」
ロイドに慕われている。クレアにも言われ、アリアにまで言われたレオンは、どこか落ち着かないように話を流した。
それに当然気付きつつも、アリアは見逃してやることにする。
「ありがたいことに、実際すっごく助かっちゃうしねぇ」
「……………………」
ここは認めないんかい、と内心でダンマリのレオンに悪態をつきつつ呆れたような視線を送る。
それに気づかないはずがないレオンだが、ごほんと咳払いをして誤魔化そうとする。
「それより、魔王はいつ頃に出てきそうなんだ?」
「あら、ロイドの事は聞かないの?」
「クソガキがどうなろうと知らん」
「はいはい、意地っ張りも程々にしときなさいよ」
呆れるアリアに目元をひくつかせるレオン。
「まぁいいわ。魔王よね……多分、最低でもあと数日はかかると思うわよ」
「何?……そんなにかかるのか?」
レオンは予想外だったらしく微かに目を瞠る。
あの規格外の怪物なら、今すぐに出てきてもおかしくないと考えていただけに、アリアの返答は意外だった。
「むしろ、早すぎるわ。数日ってのも魔王だからよ」
そんなレオンにアリアは肩をすくめてみせた。
「普通なら空間魔術あってなんぼなの。それでもかなりの出力が必要だから今のロイドには厳しいでしょうけど、空間魔術を持たない魔王なら普通出てこれないはずなのよ」
「なるほどな……」
しかし、それでもあの怪物なら無理やりにでもこじ開けて出てきそうだから、というのが見解なのだろう。
だが、それを成す魔力もさすがに減っているだろうから、出てくるにしても数日はかかるというもの。
そこまで聞いて、レオンは納得したように頷く。
「クソガキは出てこれないのか?」
「ハッキリ言って、今のあの子じゃ無理でしょうね」
さすがに知らんぷりが出来なくなったな、と内心ニヤつきつつアリアはさらりと返す。
内容としては厳しいものだが、しかし2人に心配の色はない。
「そうか。ならば魔王よりは遅いかも知れんな」
「そうね。まぁその時はその時よ」
戻ってこないなどあり得ない。
今の彼では不可能でも、いつか必ず彼は可能にする。
しかし、魔王より遅くなる可能性はかなり高い。
それもまた彼らにとって問題ではない。というより、問題とすべきではない。
「もとより私達の問題なのよ。私達だけで終わらせるだけだわ」
「そうだな」
アリアの言葉と同じ事を思っていたレオンは頷く。
むしろ、ロイドが遅れてきた方が良いとさえ思う。
帰ってきた時には、全てを終わらせておく。そうなるのが一番だ、と。
「でも、何故かウィンディアの子達はやる気満々なのよね」
「放っておけ。あいつらもそう簡単に死ぬようなやつらではない」
「………ふぅん」
レオンの言葉に、アリアは驚く。驚きすぎて言葉を返すのが遅れるほどに。
現世の地獄を自らの力のみで生きたレオンが、他者を認める。
しかもそれが魔王との戦いという水準での話だ。
「余程強いみたいね。手合わせ、受けておくべきだったかしら」
「バカ言え。仮に単体でやりあうなら、相手になるのはせいぜいルーガスくらいだ。やるとしても、やりすぎるなよ」
「分かってるわよ」
どうだか、と見た目に反してサバサバしているアリアに呆れた視線をやる。
彼女は悪く言えば荒っぽいところがあるのでーーレオンは魔王戦前に怪我で間に合わないやつが出てくるのではないかと溜息をこぼした。
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