魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる
23 憎しみの終点は
「ほっほっほ!限界か!さぁくたばれい!」
オルドは銀の奔流が衰える様を嬉々として嗤う。
偉大なる王を恐れ多くも封じるなどという凶行。それを成した者の一人であり、現在も生き残る最後の愚者。
それをこの魔法で葬り、そしてこの魔法と共鳴して、今も王に纏わりつくもう一人の愚者の封印を叩く。
王の魔法は今も空間の向こうで暴れている。
それはかつてあの時、あの女が自ら言っていたこと。
ならば、外と内の両方から叩けば、その封印を壊す事は間違いなく可能。
その為に、あれからずっと生きてきた。フェブル山脈に残った残滓を研究し、この手で使えるよう魔術を魔法具へと落とし込んだ。
足りない魔力を『吸魔陣』で補う為に、ルステリアを拾い、鍛えた。
そしてついに、この時を迎えた。
「ほっほ!ほっほっほぉ!」
笑いが止まらない。
『吸魔陣』に残る魔力は目減りしているものの、レオンの放つ魔力が衰える速度の方が早い。十分に押し勝ち、そして封印を叩く言葉が可能。
それに、オルドは『吸魔陣』と魔法具の操作をしているだけである。そのため、万が一には自身の魔力も上乗せする事も出来る。余裕は十二分にあった。
すると、これまでとは決定的に違い、明らかに銀が緩まる。
レオンの限界だ。
ついにこの時がきた。達成感に身が震える。嗤いは加速し、狂ったように笑う。
その直後。
「……ほ?」
銀と、緑銀の光が爆発した。
「な、なっ、なぁあああ?!」
笑いすぎて語彙力が減ったかのようなただ漏れ出しただけの音を吐きつつ、慌てて『吸魔陣』から更なる魔力を注ぎ込む。
レオンの最後の悪あがきの抵抗。それだけならばまだ良い。
だが、銀と肩を並べるかのように。支えるように。負けんと競うように。荒々しくも凄まじい威圧感をもって迸る緑銀の輝きに、言葉にならない嫌な予感を覚えた。
「ぐっ、ぐぅうううっ!」
押し返される。
こうなったら、いたぶるのは終わりだ。一気にかたをつける。
「このぉっ!調子に乗りおって!くだばれい!」
『吸魔陣』の魔力をこれでもかと注ぎ込む。ダメ押しでオルド自身の魔力もだ。
そして再び押し返していく、二つの輝き。
安堵とともに、頬が緩む。が、それが声として笑い声となる前に。
「ば、バカなっ?!」
緑銀の光が爆ぜた。
そして触発されるように、息も絶え絶えだったはずの銀の光まで、同様に。
「あ、あり得んっ!こんなことがっ……!」
相手も無理をしているのだろう。莫大な魔力の奔流である銀と緑銀は、燃え尽きる前の蝋燭かのように、不安定な放出をしている。
波のように、強くなったと思えば弱まり、また強くなる。 魔力操作の限界を超えかけて暴れそうになり、魔力の限界を無理やり振り絞って放出したり、といった様子が魔法に長けたオルドからすれば目に見えて理解出来る。
なのに、止まらない。
そして、そんな不安定にも関わらず、互いが互いを補うように暴れており、一向に押し戻せない。
何故か、爆ぜる光の向こうでは言い争いのような声が聞こえる気がする。勿論、こんな状況で肩を並べる者達が口論などするはずもないし、する余裕もあるはずがないから気のせいだろう。
そう、気のせいだろう。
「ぐぅうっ、あと、少しなんじゃぞ……っ!」
ひたすらに待ち望んだ。宿願は、ほんのあと少しで果たされる。
もはや掌に収まっていた。あとはそれを掴むだけ。
なのに、何故。
「おらぁクソじじい、もうへばったんか?!やっぱ歳だなぁおい!」
「うるさいぞクソガキ。後から来て先にへばりそうなくせによく言えたな。恥を知れ」
「あぁ?!うるっせ!もういい、俺があのじいさん先にブッ飛ばす!」
「出来ない事をでかい声で叫ぶな。あとで恥ずかしい思いをすることになるぞ」
もう『吸魔陣』の魔力は底をつきそうだ。オルド自身の魔力を更に注ぎ込む。
「それ、自分に返ってくるけどいーのぉ?!あとで恥ずかしくなってるところを皆んなで鑑賞してやるわ!椅子もってしてじっくり眺めてやるわ!」
「もし仮にそうなったとしても、誰もわざわざ見る訳がない。そんなことも想像がつかんとは、バカなガキだな」
「……いや、皆んな興味津々で見ると思う。間違いなく」
何故だ。計画は完璧だったはずだ。やつに力は残っていなかった。確実に勝てたはずだ。
なのに何故、こちらの魔力が尽きそうになっている。
「ふざけるでないわぁあああああっ!!」
魔力を絞り出す。生命力すらも魔力へと変えて、もはや気のせいだとは思えないくらい聞こえてくる口論ごと押し潰す為に。
「おおっ?!あのじいさん根性あるな!どこぞのクソじじいとは大違いだ!」
「お前は喧嘩を売らないと死ぬ病気でもかかってるのか?それとも喧嘩を買われて死にたいのか?」
「はぁ?!今にも倒れそうなじじいに負けるとでも?!」
「やるか?クソガキ。この次はお前だ」
「やってやろーじゃねーか!」
押し潰せない。押し返される。
気付けば、二色の奔流は目の前に迫っていた。
「おっ、終わりそうだな!」
「そうだな。お前の余命もな」
「そんなヘロヘロで勝てるとでも思ってんのか?!つーかケンカ売ってるのじじいになってね?」
「先に売ってきたのはお前だ」
憎い。憎んでも憎んでも足りない相手が目の前にいるのに。つい先程までは風前の灯だったのに。
なんかこちらとの戦いよりも激しくお互いが口喧嘩してるし、余計に憎い。
「おのれぇえええええええええっ!!」
叫ぶ。否、叫んだつもりだった。
その叫びは、二色の光の奔流に呑まれ、誰の耳にも届かない。
長き時を復讐に費やしたこの身もまた、呑まれる。
しかし、オルドは最期、満ち足りた。
何故なら、聞きたくて仕方のなかった声を、最後に聞けたから。
――久しいな、人間よ。覚悟は良いか。
オルドは銀の奔流が衰える様を嬉々として嗤う。
偉大なる王を恐れ多くも封じるなどという凶行。それを成した者の一人であり、現在も生き残る最後の愚者。
それをこの魔法で葬り、そしてこの魔法と共鳴して、今も王に纏わりつくもう一人の愚者の封印を叩く。
王の魔法は今も空間の向こうで暴れている。
それはかつてあの時、あの女が自ら言っていたこと。
ならば、外と内の両方から叩けば、その封印を壊す事は間違いなく可能。
その為に、あれからずっと生きてきた。フェブル山脈に残った残滓を研究し、この手で使えるよう魔術を魔法具へと落とし込んだ。
足りない魔力を『吸魔陣』で補う為に、ルステリアを拾い、鍛えた。
そしてついに、この時を迎えた。
「ほっほ!ほっほっほぉ!」
笑いが止まらない。
『吸魔陣』に残る魔力は目減りしているものの、レオンの放つ魔力が衰える速度の方が早い。十分に押し勝ち、そして封印を叩く言葉が可能。
それに、オルドは『吸魔陣』と魔法具の操作をしているだけである。そのため、万が一には自身の魔力も上乗せする事も出来る。余裕は十二分にあった。
すると、これまでとは決定的に違い、明らかに銀が緩まる。
レオンの限界だ。
ついにこの時がきた。達成感に身が震える。嗤いは加速し、狂ったように笑う。
その直後。
「……ほ?」
銀と、緑銀の光が爆発した。
「な、なっ、なぁあああ?!」
笑いすぎて語彙力が減ったかのようなただ漏れ出しただけの音を吐きつつ、慌てて『吸魔陣』から更なる魔力を注ぎ込む。
レオンの最後の悪あがきの抵抗。それだけならばまだ良い。
だが、銀と肩を並べるかのように。支えるように。負けんと競うように。荒々しくも凄まじい威圧感をもって迸る緑銀の輝きに、言葉にならない嫌な予感を覚えた。
「ぐっ、ぐぅうううっ!」
押し返される。
こうなったら、いたぶるのは終わりだ。一気にかたをつける。
「このぉっ!調子に乗りおって!くだばれい!」
『吸魔陣』の魔力をこれでもかと注ぎ込む。ダメ押しでオルド自身の魔力もだ。
そして再び押し返していく、二つの輝き。
安堵とともに、頬が緩む。が、それが声として笑い声となる前に。
「ば、バカなっ?!」
緑銀の光が爆ぜた。
そして触発されるように、息も絶え絶えだったはずの銀の光まで、同様に。
「あ、あり得んっ!こんなことがっ……!」
相手も無理をしているのだろう。莫大な魔力の奔流である銀と緑銀は、燃え尽きる前の蝋燭かのように、不安定な放出をしている。
波のように、強くなったと思えば弱まり、また強くなる。 魔力操作の限界を超えかけて暴れそうになり、魔力の限界を無理やり振り絞って放出したり、といった様子が魔法に長けたオルドからすれば目に見えて理解出来る。
なのに、止まらない。
そして、そんな不安定にも関わらず、互いが互いを補うように暴れており、一向に押し戻せない。
何故か、爆ぜる光の向こうでは言い争いのような声が聞こえる気がする。勿論、こんな状況で肩を並べる者達が口論などするはずもないし、する余裕もあるはずがないから気のせいだろう。
そう、気のせいだろう。
「ぐぅうっ、あと、少しなんじゃぞ……っ!」
ひたすらに待ち望んだ。宿願は、ほんのあと少しで果たされる。
もはや掌に収まっていた。あとはそれを掴むだけ。
なのに、何故。
「おらぁクソじじい、もうへばったんか?!やっぱ歳だなぁおい!」
「うるさいぞクソガキ。後から来て先にへばりそうなくせによく言えたな。恥を知れ」
「あぁ?!うるっせ!もういい、俺があのじいさん先にブッ飛ばす!」
「出来ない事をでかい声で叫ぶな。あとで恥ずかしい思いをすることになるぞ」
もう『吸魔陣』の魔力は底をつきそうだ。オルド自身の魔力を更に注ぎ込む。
「それ、自分に返ってくるけどいーのぉ?!あとで恥ずかしくなってるところを皆んなで鑑賞してやるわ!椅子もってしてじっくり眺めてやるわ!」
「もし仮にそうなったとしても、誰もわざわざ見る訳がない。そんなことも想像がつかんとは、バカなガキだな」
「……いや、皆んな興味津々で見ると思う。間違いなく」
何故だ。計画は完璧だったはずだ。やつに力は残っていなかった。確実に勝てたはずだ。
なのに何故、こちらの魔力が尽きそうになっている。
「ふざけるでないわぁあああああっ!!」
魔力を絞り出す。生命力すらも魔力へと変えて、もはや気のせいだとは思えないくらい聞こえてくる口論ごと押し潰す為に。
「おおっ?!あのじいさん根性あるな!どこぞのクソじじいとは大違いだ!」
「お前は喧嘩を売らないと死ぬ病気でもかかってるのか?それとも喧嘩を買われて死にたいのか?」
「はぁ?!今にも倒れそうなじじいに負けるとでも?!」
「やるか?クソガキ。この次はお前だ」
「やってやろーじゃねーか!」
押し潰せない。押し返される。
気付けば、二色の奔流は目の前に迫っていた。
「おっ、終わりそうだな!」
「そうだな。お前の余命もな」
「そんなヘロヘロで勝てるとでも思ってんのか?!つーかケンカ売ってるのじじいになってね?」
「先に売ってきたのはお前だ」
憎い。憎んでも憎んでも足りない相手が目の前にいるのに。つい先程までは風前の灯だったのに。
なんかこちらとの戦いよりも激しくお互いが口喧嘩してるし、余計に憎い。
「おのれぇえええええええええっ!!」
叫ぶ。否、叫んだつもりだった。
その叫びは、二色の光の奔流に呑まれ、誰の耳にも届かない。
長き時を復讐に費やしたこの身もまた、呑まれる。
しかし、オルドは最期、満ち足りた。
何故なら、聞きたくて仕方のなかった声を、最後に聞けたから。
――久しいな、人間よ。覚悟は良いか。
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