魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

14 突然の来訪

 それは唐突だった。

 危険な地とは言え、長閑とも言える風景のそこが、突然戦場と化した。

 危険な地をものともしない強者が、血を流して戦う。

 予期せぬ事態、そのその渦中で、


――ひとりの少年が、消えた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「ほう。ついに動くのか」
「みたいだなー」

 王城から戻ったロイドは、家族での夕食を楽しんでいた。
 ルーガスの言葉に答えつつ、クレアの作った卵焼きに舌鼓を打つ。

「レオンさんが帰ってきたら、だよね?すぐなのかい?」
「いやどーだろ。魔鉱石の短剣もまだ出来てないしな」

 何故かワクワクしているフィンクに返して、お茶をごくり。美味い。
 
 この戦闘狂は、きたる魔王との決戦を随分楽しみにしているのが目に見える。
 次期当主として貫禄が出てきたと思いきや、こういう所は相変わらずだとロイドは笑った。

「皆んなで応援にいかないとねぇ」
「はは……随分と激しい応援になりそーだな」

 にこやかに呑気な言葉を告げるシルビアに、ロイドは頬を引き攣らせた。
 まるで運動会の保護者のような発言だが、実際は『万魔の魔女』とまで呼ばれる実力者のーーしかもフィンクの親だけあってか意外と戦いに飢えているーー彼女の発言だとすれば、「応援」の意味合いが大きく変わるのは言うまでもない。

「そのレオンはいつ帰ってくるのよ?」
「さぁ?知らね。その内帰ってくるだろ」
「寂しいのかしら?」
「んなワケねーだろ」

 揶揄うようなエミリーに、ロイドは肩をすくめてみせる。
 寂しい訳がない、むしろ、精々している。
 
「先輩、かわいいです」
「待て、なんで今それ言う?どういう意味だ?」

 確実におちょくりにきているクレアには、じろりと一睨み。が、その悪戯げな笑みをより深めさせるだけだった。

 こういった風に、王国建国から続く因縁の戦いを前に、緊張感の無い会話をしながら料理をつつく一家とクレア。
 
 短剣はそろそろできるらしいよ。てか結局魔鉱石って何?使えば分かる。なら僕で試しなよ。辞めとく、絶対余計な疲れが出る。 などと話していた、その時。

「「「っ?!」」」

 全員が、一瞬の誤差もなく、目を見開いた。




 バタン!と蹴破るような勢いで扉が開く音が、ウィンディア領の各地で響く。

 もはや一般人の中では浮きすぎてしまうような強者が集う地だけあって、この異常事態を察知出来ないような者は皆無だった。
 まるで示し合わせたように、しかし各々がそれぞれの動きで一点をーーウィンディア領外壁へと向かっていく。

「おい、何が起きた?!またロイドがやらかしたのか?!」
「今回は違うみたいだぞ!」
「じゃあ久々にフィンクか?!」
「今回は違うみたいだぞ!」

 なんともウィンディア家の肩身が狭くなるような会話がそこらかしこで上がっているが、今回は違うみたいだ。
 犯人は分からないが、原因はすぐに分かった。

 まだ日が高いにも関わらず、覆われた雲によりどこか嫌な薄暗さが彩る空。
 その一点が、どす黒い闇で覆われていた。

「おいおい……随分とえげつない魔力だなこりゃあ」
「む、ラルフ。今日は酒は控えておけと言ったろう」
「嘘つけ聞いてねぇよ!てかルーガスも少し酒臭いぞ!?」

 いつの間にか並走していたラルフに、眉を顰めて言うルーガス。しかし、その速度は酒気帯びとは思えない。
 領民が一斉に原因と思われる闇に向かう団体の中から突き抜け、先行する形で突き進んでいく。

「まぁいい。さっさと済ませて、酒の続きだ!」
「そうしよう」

 直後、二人から全てを斬り裂くような鋭い魔力と、全てを包み込むような巨大な魔力が膨れ上がる。
 そして、放たれるは世界一の斬撃と、最強の風。

「あぁっ!終わらせるの早いわよ!」
「くそ、暴れるつもりだったってのによぉ!」

 何やら方向性のおかしい領民達の苦言を背に受けつつ放たれた二つの攻撃。
 それは例え上位の竜種でもただでは済まない、どころか下手をすれば致命傷となる凶悪な一撃。

「――なっ?!」
「……マジ?」

 それらは、上空に浮かぶ闇の前に弾かれ、掻き消されてしまった。

 ちょっとしたお祭り騒ぎだった領民達が目を丸くする。
 ルーガスとラルフも警戒度を引き上げたのか目を微かに細めた。 そして後を追う形となっていた領民達が外壁をくぐり、構える。
 
――それを待っていたかのように、闇がぐにゃりと歪んだ。

「な、んだこれ」

 どこからか聞こえた声は、おそらく全員の代弁だったのではないだろうか。

 歪んだ闇は、緩やかに渦巻きつつ下降を始め、魔力を全方位に放ち始める。
 その魔力は尋常ではなく、彼らをもってして顔を強張らせる程。

 そして闇が地まで降りた時、

「ぐぅ……っ!」
「なっ!」

 爆発的に圧力が広がった。
 その余波に誰もが腕を翳して堪える。そして、その圧力が過ぎ去って視線を戻した時、言葉を失った。

 そこには、4人の何かが立っていた。

 何か、と称したのは、それがとても人間には思えなかったからだ。

「……魔族か」
「その通りじゃ、人族」

 その正体を小さく呟くルーガスに、4人の内の1人が答えた。

 赤い瞳。白い髪。顔に刻まれた皺の多い顔は長い年月を生きた事を示しており、それを強調するかのように体躯は枯れた木のように細く頼りない。
 一見すればただの老人にも見える風貌だが、放たれる威圧は異様の一言。

「おォ、確かに強そうなのがいるなァ」

 他の3人よりも頭一つ、どころか三つは抜けているであろう巨軀。
 ひょろ長い訳ではなく、横幅も筋肉によって大きく、いかにも巨兵といった姿。
 鋭い歯を覗かせて好戦的な笑みと赤い瞳を見せる男。

「いいわねぇ、美味しそう」

 露出の激しい服装に、凹凸の激しい肢体。背中から左右に広がる黒い蝙蝠の羽に似た翼。
 かつての大戦にて極少数居たとされる希少種サキュバスの特徴を持つ、妖艶な女性。
 
「こいつらがアドバンを殺ったんかいな」

 どこか気の抜けるような口調、ダボダボの服装に身を包み、そのポケットに両手を突っ込んだままだらしなく立つ男。まるでヤンキーの下っ端のような風貌だ。

「こりゃあ……酒はおあずけか」
「それどころじゃないだろ。何言ってんだい」

 その4人を睨みつつぼやくラルフに、ベルが魔力を練りながら言葉を続ける。

「とんでもないね。こりゃあんたでもふざけてたらーー死んじまうよ」

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