魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

12 汚名

「ったく、クレア、こりゃあなんだってんだ?」
「全くだ」

 宿に戻り、すぐに荷物を回収して支払いを済ませた一向は、逃げるようにウォリバーを後にしていた。
 事情を聞く間もない逃避行に、やっと口を開けたのは山を切り崩して出来たであろう舗装された道中のこと。

「あーっと……えっとですね、なんと言いますか……」
「アンタ達の自業自得よ」

 言葉を選ぶように言い淀むクレアに対して、エミリーは躊躇いなく言い放った。

「ん?いや待ったエミリー。俺ウォリバー初めて来たんだけど」
「俺もセプテンでは特に何もしていない……ほとんどな」

 身に覚えがないロイドと、若干の言い逃れの余地を語尾に付け足すレオン。
 だが、レオンの小さな不安材料は今回は関係なく。

「言っとくけど、王都でもさっきの話は当て嵌まるわよ?ただ単に王都ではアンタ達の功績が上回ってるから言われないだけで」
「はぁ?」
「どういうことだ?」

 揃って首を傾げる師弟に、エミリーは言葉を続ける。

「アンタ達が修行とかいって色々飛び回ってるじゃない?その先々で、高ランクの魔物を討伐してる。そうよね?」
「あぁ、まぁそーなるかな。つっても、単に手合わせしたりランニングしたりで移動したとこに居る魔物を倒してるだけだけど」
「その際に、結構な被害が出てるわよね。いつもすぐにどっか行っちゃうから知らないかもしれないけど」

 頷くロイドに続けられた言葉に、ロイドは固まる。ついでにレオンも閉口する。

「……マジ?」
「心当たりは?」
「……………………なくもない」

 魔物を倒す際、先日のロックエイプのように条件を課して戦っていた。
 そして、実は修行の初期のほとんどは、〝時魔術と空間魔術のみ使用可〟というものだったのだ。
 
 身体魔術と風魔術とは違い、圧倒的に扱いが困難な最上級魔術。
 それをコントロールする為にひたすら実地で鍛えてきたのである。

 だがそれは言い返せばコントロール出来てない上での戦いとなる。 
 そんな状態で高ランクの魔物、即ち生命力の強い魔物を相手取れば、必要になる火力も大きくなり、しかしコントロールは甘い。
 となれば、余波は膨大なものとなるのは当然だ。

「そんな風に色々壊しながらも先々で被害を出して回る。その結果、魔物が出れば殺しにくる『魔物狂い』と、そんな危険な魔物に条件付きの指示を出しては責任もとらずにさっさと消える『鬼畜』。それがアンタ達ってワケ」
「ま、マジか……!」
「……お前の未熟のせいで何故俺まで…」

 地味にかなり意気消沈する師弟に、エミリーは呆れた表情だ。
 
「懲りたんなら次からは気をつけなさい。いい加減、フォローして回るカイン王太子が可哀想よ」
「あー……カインにまで迷惑かけてたんか。うん、今度絶対謝ろ…」

 トドメのように告げられた言葉にロイドはついに項垂れた。レオンもさすがに口を挟む事なく沈黙している。

「でも、さすがに『守護者』と『救国』よりもそっちの名前の方が知れ渡ってるのは意外でしたね」
「それだけやらかしてんのよ、こいつらは。場所によっては魔物より怖がられててもおかしくないわよ」

 土地に価値がある地――重要な施設があったり、観光地など――では魔物を撃退するより防ぎようがない被害をもたらす存在の方が怖いに決まっている。
 これにはクレアもフォローしようがなく、苦笑いを浮かべるしかない。

「……今度、支援金を送ろう。被害に遭った場所を教えてくれ」
「そっ、そうだな!金は無駄に貯まってるし」

 レオンの言葉にロイドも頷く。
 高ランクの魔物は高く売れる。散々狩ってしたのだ、使いもせずに修行ばかりしていれば嫌でも貯まる。

 全てを吐き出すつもりで支援金を送ろうと決心するロイドに、レオンは言葉を続ける。

「そして、それが終わったらーー魔王を討つ」
「っ!」

 加害者の懺悔に続くにはかなり別種の重たさを持つ内容に、ロイドのみならずクレアとエミリーも息を呑んだ。
 
 どこか遠くに考えていた『それ』が、急に目の前に突きつけられた感覚に陥り、どこか呆然としてしまう。
 が、すぐに表情を変えたのはやはりロイドだ。

「ついにか!作戦とかは?」
「……焦るな、帰ってからだ」
「……? ふーん。ま、了解」

 レオンの言葉や雰囲気にロイドは少し訝しげな反応を見せつつも頷いておいた。
 そんな会話で気を取りなおしたか、クレアとエミリーも固い表情で口を開く。

「はぁ……いよいよね。早い内に王都にも伝えなきゃいけないわね」
「ですね。帝国にも伝えておきましょう」
「そーだなー。……いや、つーかそれなら場合によっちゃ支援金は後のが良くね?」

 被害か新たに広がる可能性は正直高いだろう。
 であれば、それも含めた形で金銭を送る方が良いのでは、とロイドは口にした。

 が、レオンは首を横に振る。

「いや、先だ。すぐにでも謝罪するぞ」
「……まぁ、それが筋か。了解」

 間違ってはいない。
 だが、どうにも節々に違和感を感じたロイドはまたも訝しげにレオンを見やる。
 エミリーとクレアは気付いてないし、勘違いかも知れないが。

「まぁ色々楽しめたし、また来たいなーウォリバー」
「はっ、それまでに汚名返上が必須ね」
「うっ……そーだな、そーする」

 呑気なロイドに手痛い言葉を浴びせるエミリー。
 最大の目的である魔王討伐を成し遂げれたとしても、やる事は多そうだとロイドは頭を抱えたくなった。

「じじいも手伝えよ」
「そう、だな」
「…………?」

 微かに詰まるレオンの返事に、いよいよロイドは不信感を抱く。

「じじい……?」
「ん、なんだ?」
「……あ、いや。なんでもねぇ」

 だが、何故かそれを口にするのは憚られた。
 自分でも不思議な感覚に内心首を捻っていると、レオンは気にした風もなく口を開く。
 
「まずは帰るとしよう」
「そうですね。お土産もありますし」
「まだ昼前だし夜には帰れそうね」

 今更寄り道する気にもなれないのか、異論もなく一向は港町へと向かう事に。
 考えても仕方ないか、とロイドも切り替え、最後に船で何を食べて帰ろうと脳内でメニューを広げるのであった。

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