魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

11 有名?

「先輩っ、エミリーさん!次あれ食べたいです!」
「おぉ、そーだな!食うか!」
「ど、どんだけ入るのよ……」

 屋台の串をさっさと食べた3人は、他の屋台を回っていくつか買い食いして、メイン通りらしき路地へと来ていた。
 そこでも店頭販売といった形でいくつかの飲食店が手軽に食べ歩き、ないし持ち帰れるような商品を売り出しており、珍しいメニューもあってかクレアのテンションは特に高いようだ。

「ん?エミリー、ダイエット中?」
「アンタそれストレートにセクハラよ?!ったく、違うわよ、単純にお腹いっぱいなの」
「んー、そんな食べれなかったっけ?」
「アンタが食べれるようになりすぎてんのよ。……あとクレアの胃袋は謎だわ」
「地味に食うもんな、クレア」

 エミリーはもうすでに平均的な女性が食べる量は超えており、ロイドとクレアに至ってはちょっとした大食漢ばりの量を胃に納めていた。
 それでもなお未知の料理に突き進むクレアに、エミリーは思わず苦笑い。

「……そうね、残念だけどもう無理だわ。先に宿に戻ってるわ」
「ん?おう、そっか。送ってく」
「いいわよ、アンタはクレアの胃袋に付き合いなさい」

 何気に良いとこの貴族の令嬢であるエミリーは、それに見合う凛とした雰囲気で言い放ち、さらりと踵を返して歩き出す。
 その後ろ姿も様になっており、通行人の男達も振り返って見ている程の美しさもある。が、ロイドからすれば分かる微妙な姿勢の歪みは、確かにお腹が苦しいんだろうなと分かった。

「……大丈夫かね、エミリーは」
「すみません……やらかしちゃいましたね」

 ぼそりと呟いた独り言に、意外と近くから返事があった。
 振り返ると申し訳なさそうにクレアが眉尻を下げており、どうやらエミリーの別行動の説明は不要そうである。

「いや大丈夫だろ?大体姉さんももっと色々食べたかったんだろーし、でなけりゃさっさと帰ってたって」

 優しい嘘、というよりは本心から言っていた。その様子をクレアも見てとれたのか、ちらりと上目遣いでロイドの顔に視線をやる。

「その内消化するだろーし、なんなら珍しそーなのを土産に持ってっても喜ぶんじゃねえ?」
「……そうですかね?」

 お腹いっぱいのところに更に料理のお土産はどうなのかと思わなくもないが、ロイドの自信満々の様子にそう言い切れもしない。
 そんなクレアに、ロイドは変な雰囲気を揉み消すように頭に手を置いて軽く撫でる。

「いいから、お前が落ち込むのが一番エミリーは嫌がると思うぞ?胃袋に付き合えって指令も受けたし、色々回ろうや」
「……はい!えへへ、そうですね。じゃあアレ食べたいです!」
「おお!ってなんだアレ、タコっぽい魚?」

 振り切るように元気を見せたクレアに、ロイドも続く。
 前世的にはなんとも言えない料理にさえ物珍しさとなり視線を奪われて、先を行くクレアの少し長い耳がほんのり赤いのを見る事はなかった。




「ただいまー」
「遅かったわね。……ま、まさかずっと食べてたの?」

 どこか信じられないような目で迎えられつつ、宿へと戻ったロイドとクレア。
 満足そうな表情でお腹をさする2人に、エミリーはいつものクールな表情を崩して驚愕していた。

「あ、お土産な」
「はい!牛モモ肉の香草焼きです!こっちの珍しい香草を使ってて、ボリューミーで肉汁あふれるし、とっても美味しかったですよ!」

 そんなエミリーに笑顔で包みを手渡す2人。
 そんな2人に、エミリーは一拍固まり、そして一言。

「さすがに食えないわよ!」

 結局、香草焼きはお腹いっぱいの3人では手に余り、レオンが美味しく頂きました。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 翌日も観光にあてるという事となり、今度はレオンも混ざって街へと出ていた。

 明日朝にはウォリバーを出るという事もありメインはお土産と、あとは女子2人の買い物といった形で街を巡る一行。
 
「どうです、先輩?似合いますかね?」
「おぉ、意外にも異国風なのも似合うな。なんか綺麗って感じだわ」
「えへへ、ありがとうございます」

「どうかしら?」
「やっぱエミリーってスタイル良いんだな。似合うし綺麗とかっけぇが良い感じに混じってるわ」
「そ、そう。……買ってくるわね」

「ねぇねぇ先輩!あれかわいくないですか?!」
「そうね、見てみましょ」
「おーそーだな。うんうん、そうだよね、ちょっと先行っててくれ。……おいこら、じじいも手伝えや」

 意見や感想なども求められてはなんともロイドらしい気の抜けた口調で返していっていたが、澄まし顔で色々物色しているレオンに小声でだがついに食いついた。レオンは首を小さく捻る。

「何をだ?」
「いや決まってるだろ。女子の買い物は男が必死にヨイショする場なんだろ?じじいもその仕事があるはずだ」

 なんとも偏りのある知識を告げて巻き込もうとするロイドにーーちなみに「必死に」という程褒めれてはいないーーレオンは呆れたように溜息をこぼした。

「バカガキが。その仕事は俺の仕事じゃないだろう」
「はぁ?なんでだよ!」
「だからお前はガキなんだ。いいか、女の買い物における男の仕事は、その男の立場によって仕事内容が変わる。覚えておけガキ」

 ぶっちゃけ転生込みだとそこそこ生きているロイドとしては、ガキ扱いは普通に腹立たしい。
 が、女性関係の対応についてはかなり経験自体が少なく、さらにその少ない知識も偏りがあるという事は自覚していた。
 
 故に反論したくとも出来ず、喉に何かが詰まったように口を開閉させる事しか出来ないロイドに、レオンは追撃を浴びせる。

「そもそもが違う。女の買い物に限らず、相手が楽しめるように言葉を尽くす。そして自分も楽しめるよう相手に自分の意見もしっかりする。俺はそう教えられた」
「ぐっ……ぬっ…」

 偉そうに言い放つレオンだが、実はレオンも大概そういった経験は少ない。
 というより、巻き込まれるように連れ回されたアリアか、ソフィアくらいのものだ。
 
 ちなみに今の言葉は当然というべきか、アリアではない。
 聖女であるソフィアから授かったもので、自分に消化した言葉というよりはそのまま代用したといった形ではある。
 
 だが、ロイドとしては何やら真理に触れたような心地のする言葉に聞こえ、なぜか師匠がかつてなく師匠らしく見えてしまう。

「そして俺はお前らの引率で、褒めるのはお前だ。分かったなら行ってこい。俺はのんびりついていく」
「……わ、分かったよ」

 何やら久しぶりに感じる完全敗北の気分とともに、ロイドは女子2人の後を追った。悔しそうな表情は言い負かされた子供のよう。
 そんな彼を見送り、小さく溜息。何やらお父さんな表情なレオン。

――そんな一幕から数分後、空から魔物が降ってきた。

「おー、でかいな」
「ウィンディアでもないのにこんな事なんてあるのね」
「呑気に言ってる場合ですか?!」

 その気配と騒ぎに店から出てくるロイド達。しっかりと買い物袋を持っているあたり、買い物はちゃっかり済ませているらしい。

「でも、なんかあんまり大騒ぎしてる感じじゃないわね」
「……そうですね。なんか慣れを感じるような…」
「意外と多いのかもな、こーゆーの」

 そう。住民達は適切な指示を飛ばしたり行動したりしている。それが兵士に限らずそこに居た住民全員である事から、この事態がそう珍しいものではない事が伺えた。

「まぁ……出会っちまった事だし、手伝うとするか」
「そうね。お昼前の運動にするわ、私も行くわよ」
「んー……それなら荷物番しときますね」

 だからと言ってスルーするのも気が引け、ウィンディア姉弟が魔物へと向かう。魔物はワイバーンらしく、時折人だかりから振り上げられた翼や尻尾が見えた。

「でかいけど大した魔物じゃねーな」
「協力するまでもないわね。競争にしようかしら」
「お、いいね」

ーーその会話の割と直後に響き渡るワイバーンの悲鳴と、少年らしき声で放たれた勝利の雄叫び。
 
 見るまでもなく様子が理解出来てしまい、何やら苦笑いを浮かべてしまうクレアの手から、ふと重さか消えた。

「え、あ、レオンさん」
「騒がしい奴らだな」
「そうですね。あ、荷物ありがとうございます」

 レオンが荷物番となったクレアから荷物をさりげなく奪い、反対の手に持ち変える。すでにその手にはいくつかの袋があり――先程のロイドが言うレオンの仕事で言えば――荷物持ちとなっていた。
 
 そんな会話をしている内に、周囲の少年少女を讃えるような声の質が変わっている事に気付いた。

「おいおい、マジかよ!あの『魔物狂い』がなんでここにいるんだ!?」
「ウォリバーがめちゃくちゃにされてしまう!ま、まさか『鬼畜』は居ないだろうな!」
「まだ居ないようだ!2人揃うと色々壊して去っていくという噂だ!なんとしてもウォリバーを守れ!」
「あっ、おい待て!あ、あれってまさか……!」

 騒ぎに首を捻るレオンと、聴こえてきた単語に嫌な予感を覚えて顔を引き攣らせるクレア。
 そんな2人の方をーー否、レオンを見た住民の1人が、口を半開きにして目を見開く。
 
 その表情は見てはいけないものを見て絶望しましたと描いてあるかのようで、レオンはさらに首を捻った。

「き、きき、『鬼畜』もいるぞぉおおおお!!」
「な、なんだとっ!『魔物狂い』の飼い主が?!」
「う、ウォリバーはおしまいだぁ…」

 いきなり随分な言いようであった。さすがに小さく眉根を寄せるレオンだったが、何か言うよりも早くクレアがレオンの腕を掴む。

「……クレア?」
「レオンさん、すぐに宿に戻りましょう。そう、誰にも見られないくらい、超ダッシュで」

 どこか有無を言わせぬクレアの圧に、レオンは反論という愚行は犯さず、とっても素直に頷くのであった。

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