魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

7 洞窟へ

「遺跡ぃ?」

 散歩から帰ってしばし。
 クレアの親戚にあたるという集落の長、ガブリエラ・フォレンスと話をしていた。

 レオンが言うには、魔導石はこのエルフが住まう山に多く存在するらしく、掘り返すまたは洞窟のような場所があれば探索させてくれとガブリエラに聞いたのだ。
 その返答が、

――洞窟ならば深くまで進める場所がありますが……もはや遺跡のようになってまして

 遺跡とは、自然発生ないし古代の建造物などが変質するなどして生まれる、通常の生態系や食物連鎖とは異なる生物や魔物が棲みつく地である。
 ダンジョンと呼ばれる事もあるそれは、えてして危険な場所だ。

「はい。近隣では見かけないような厄介な魔物が発見されており、集落の者も立ち寄らない洞窟なのです」
「厄介?エルフから見ても、なのか?」

 エルフの戦闘能力は高い。
 確かに森での戦いを得意とする彼らは洞窟では全力を出せないかも知れないが、それでも豊富な魔法適正と高い魔力を有しているのは変わらない。
 ディンバー帝国のジルバは、反則級のスキルと、数にものを言わせた物量戦で押し切ったそうだが、そう簡単に勝てる相手ではないのだ。

「そうなんです。魔法が効きにくいようで……」
「うわぁ……そうなんですね」

 魔法特化のエルフにその特性は天敵のようなものだ、と思わず顔をしかめるロイド。
 
 とは言え、口調からして完全に無効化するという訳ではない。
 それなのにこうも苦戦を強いられているという事は、余程の魔法耐性があるか、もしくは単純な戦闘能力が高いか。

 もっとも、そのどちらだとしても、

「よし、んじゃ早速行こーかね」
「はい、ありがとうござい……ってえぇ?!い、今からですか?!」

 話は聞いたし、あとは行くのみ。と、腰を上げるロイドに目を剥くガブリエラ。え?まだなんか問題が?と目を丸くするロイド。
 目を開いて見つめ合うという妙な絵面に嫌気がさしたのか、レオンが無言で立ち上がり、さっさと出て行った。

 その姿とロイドをガブリエラは慌てたように視線を交互に動かしているのを見て、苦笑いのクレアが口を開く。

「あの、特に準備とかもないので。とりあえず向かってみますね」
「な、なんと……しかし、いかにも旅行といった格好ばかりではないか」
「あー……いや、大丈夫ですよ。危なければ早めに撤退しますし、さしあたり下見ってとこです」

 慌てていた理由はそれか、と納得しつつも、話を進めるためにそれっぽい言葉で取り繕う。
 内心では、下見どころかあの師弟2人はまず間違いなく引き返す気は無いことを確信しているが。

「そ、そうか……?まぁ、ならば案内の者を用意するが…」

 クレアという親戚相手だと敬語を崩しているガブリエラは、心配と怪訝さが混じったような表情で一応は頷いてくれた。
 その様子を見てエミリーは逸るロイドを諌めるように半目で腕を組み、視線の意味を察しているロイドは誤魔化すように苦笑いを浮かべていた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 集落からそう遠くない山の中。木々が少し開けた空間に、ぽつんと口を開けているような洞窟の入口。
 その入口の前に、4人は案内されていた。

「結構集落から近いわね」
「はい、ですからそれを不安視する声もありまして……」

 エミリーの呟いた言葉に、案内をしていたエルフの青年が眉を八の字にさせて返す。
 ガブリエラは「誰も近寄らない」と言っていたが、将来的には近寄らなくても実害が出る危険性も考えられていたらしい。

 もっともそうなれば戦場は森の中であり、洞窟の中ほどの苦戦はしないだろう。が、だからと言って楽観視出来るかと言えば難しいのは聞くまでもない。

「そうか。なら出来る限りだが数も減らしておくとする」
「あ、はい。え?下見って話じゃ…?」

 疑問符を浮かべる青年を他所にさっさと洞窟へと進むレオン。まるで我が家に帰るかのような気安さで歩く姿に、青年の顔に心配と不安の色が浮かぶ。

「き、気をつけてくださいね!無理をならず!」

 声を掛ける青年にそれぞれ会釈や手を振るなどしながら、ロイド達もレオンに続く。
 そうして光の届かぬ洞窟の奥へと消えるように進む姿を青年は見えなくなるまで見送っていた。



「良い人だなー、あのエルフの兄さん」
「そうね。クレアといい、エルフは性格が良いのが標準装備なのかと思っちゃうわね」
「え、クレアが?」
「そうよ?良い娘じゃない」
「うーん……いや、そうだな」

 青年の心配を他所に、ロイド達は談笑混じりに会話しながら進んでいた。
 エミリーの火魔法によって灯された明かりにより視界を確保した一行は、すでに10分近く歩いている。が、魔物との会敵は未だ無い。

「んで、その問題の魔物はまだなんかね?」
「その歳でもうボケたのか、ガキ」
「あぁん?」

 呑気なロイドの言葉にレオンが呟く。ロイドは脊椎反射で凄むが、残る2人は首を傾げた。

「レオンさん?それはどういう?」
「洞窟に入ってすぐに、俺は気配の隠蔽を緩めている」

 質問するクレアに、レオンはそこまで告げて言葉を切った。
 しかし、それで十分だったようで、納得するように3人は声を漏らした。

「あぁ、なるほど」
「……一網打尽にしようってワケね」

 姉弟の言葉に、レオンは首肯で返す。

 レオンの気配はほとんどの生物からすれば死神の鎌を突き付けられているに等しい威圧感がある。
 その気配を隠す事なく歩けば、魔物がそれを避けようとするのは必然。
 さらに、

「ものすげぇシンプルな一本道だしなー」

 この洞窟は道が分かれていない。
 勿論この先もそうだとは言い切れないが、ここまで進んでも一切の別れ道が出てこない点から、もし分かれ道があるとしても多くないだろうと予想出来る。

「この一帯の山の魔鉱石の発掘量は多い。下手に道を分けるより奥に進んだ方が効率的だったのだろう」

 言葉にしなかった会話を先回りして答えるレオンに、さらに納得した様子の3人。
 ともあれ、道中で各個撃破ではなく、洞窟の奥でまとめて戦う事になるだろう。

「いちいち止まるより早く済むか。もし手に負えなくても道を塞げば良いしな」

 理由としては一気に進む為の時短。そう考えたロイドは性に合ってると笑う。 それを聞き流しながら、レオンは誰にも聞こえない程に小さく鼻を鳴らした。
 レオンの気配の変化に気付けない程に、忌み嫌われ威圧的な気配に慣れきった3人に、なんとも言えない気分を誤魔化す為だとは言えるはずもなく。

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