魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる
110 遠退く意識で
「大丈夫か、ロイド!」
「先輩っ!起きてください!」
「ロイド、起きなさいっ!」
「おいロイドぉ!目ぇ覚ませよおい!」
「ロイド、起きるんだ!」
「ねぇロイドくん、起きてよぉ!」
薄れる意識の中で、しかし妙にはっきりと聞き取れる自分を呼ぶ声。
聞き慣れた声に、起きてるって、と声を返した。
「僕の弟がこんな所で死ぬなんて許すと思ってるのかっ!」
「ねぇロイド、死んじゃダメよぉ!」
「先輩、先輩っ!目を覚ましてよ、ねぇっ!」
「ふざけんな、起きろよロイドぉ!」
しかしさっきからずっと返事をしているはずなのに、自分を呼ぶ声は止まらない。
それどころか、聞こえる声が遠退いて1人、また1人と声が聞こえなくなる。
「ねぇ、目を覚ましてよロイド……」
「先輩…ロイドぉ……起きてよぉ…」
――最後に聞こえた声に、何とも言えない感情を覚えながら、俺は声と共に意識を失った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「っつぅ……!」
「っ!」
呻く声に、意識を覚醒させたカイン。
それと同時に体を跳ね上げるようにして起き上がった。
そして、素早く状況を確認する。
(俺は気を失って……?!そうか、魔王の破壊魔法の衝撃で……グランやフィンクのおかげで俺の傷は少ない。グランとラピスも無事!)
目覚めたばかりの意識を一気に回転させて素早く状況把握するカイン。そこまで判断すると、バッと振り返って戦場の方を見やる。
そして巨大な穴や、その周辺で倒れるフィンクとエミリー、クレアを見て弾かれたように駆け出した。
「おい、大丈夫か?!」
「……っ。あ、良かった、無事だったんだねカイン」
「俺の事は今はいい!」
「皇太子のセリフじゃないよ。……僕は魔力枯渇なだけだよ。……それにエミリーとクレアもだけど、2人は意識を失ったみたいだね」
そういうフィンクも今の今まで意識を手放していた。
魔力枯渇だけでなく、3人とも『震天』の余波もあって傷はないにしろギリギリで保たれていた意識を途切れさせていたのだ。
「ロイドは?!魔王候補も、どこに?!」
切羽詰まる様子で問い詰めるカイン。その言葉の最初にアドバンではなくロイドの名が出た事に嬉しさを覚えながら、フィンクは視線を脇に空いた穴へと向ける。
「多分だけど……」
「っ!そこか!」
言うよりも早く駆け出したカインは、穴から眼下を見下ろす。暗くて見えない景色を、カインは火魔法で照らして目を凝らした。
そして、目に映った光景に一瞬言葉を詰まらせる。
「っ、フィンク、悪いがグランを起こしてクレアと学園内の治癒魔法の使い手を呼べ!」
そう言いながら穴へと飛び込むカインに、フィンクは「人使いが荒い」などと茶化す気持ちは無く、代わりに嫌な予感に襲われた。
「っぐぅ……!」
激しい頭痛と倦怠感、そして全身の痛みに襲われつつも、体を起こしてグランのもとまで体を引きずるようにして歩くフィンク。
普段なら普通に歩いても数秒もかからない距離を倍以上かけて歩き、グランの体を揺さぶる。
「グラン、起きてくれないか」
「んぁ?…っ!」
一瞬だけ寝惚けた様子を見せたグランだが、1秒と掛からずに意識を覚醒させた。
そしてカインと同じく状況を把握しようと周囲に視線を忙しくなる向けるグランの肩を掴む。
「説明は後だ。すぐに学園内から治癒魔法師をかき集めてくれ」
「っ!分かった!」
それがどういう意味か理解したグランは言葉を一瞬詰まらせつつも弾かれたように校舎へと駆け出した。
それを見送る事なく、フィンクはラピスを起こし、そしてエミリーとクレアも起こして回った。
「あ、わたし……」
最後にクレアを起こしたと同時に、グランが戻ってきた。
「くそ、どいつもこいつも気絶してて起きやしねぇ!」
怒りと焦りを彼らしくなく露わにするグラン。
校舎へと向かった先で、赤竜やアドバンの覇気や魔力に当てられて気絶した生徒達をそれはもうビシバシと叩いて回った。
だが、余程の恐怖と魔力による精神ダメージがあったのか起きる者はいなかった。
苛立つあまりに見覚えのある治癒魔法師の男子生徒なんかは蹴りまで入れたがやはり結果は変わらず。
「一体……それに、先輩は?」
「そうよ、兄さん。ロイドはどこなの?」
周囲を確認する程度には意識を覚醒したクレアとエミリーが、それでも余力のない体をぐったりとさせながらフィンクに問い掛ける。
「そこみたいだね」
その答えは、校庭に空いた穴から返ってきた。
思わずギョッとするクレアとエミリー、ラピス。
すると、それを待っていたかのように穴から姿を現したカインと、その背に力なく身を任せるように脱力したロイド。
「っ、ロイド!?」
「先輩っ!?」
背負われている事で全身は見えずとも、部分的に見える箇所だけでもひどい傷だと理解出来た2人は、倦怠感と頭痛を忘れて駆け寄る。
カインはそっとロイドをおろすと、フィンクとグランに視線を向ける。
「治癒魔法師はどこだ、時間はないぞ!」
「……!」
〝そんな事〟があるはずがない、ロイドならば無事だ。どこかでそう思っていた。
だが、心のどこかで予想していた状況に、しかも対策が出来ない現状に2人は知らず拳を握り締める。
それを見たカインは、信じられないものを見たように目を丸くした。
「おい……治癒魔法師を連れてこいと言ったろう!まだなのか!?」
「全員、昏睡状態だ……」
「なんだと…!ちっ!他の戦場から連れてくる!」
「待て、皇太子のお前を1人で歩かせる訳には……」
「そんな事を言ってる場合か!」
「俺も行く」
止めるフィンクに向かって叫ぶカインに、グランが呼応するように立ち上がる。とは言えカインもグラン、ラピスもフィンク達ほどではないにしろ魔力は枯渇寸前だ。
もし下位魔族の1人だろうと会敵してしまえば危険な程に。
「……ぅ…」
「っ、ロイド?!」
だが、カイン達が駆け出すよりも早く、ロイドからか細い声が漏れる。
そして、段々と小さくなる呼吸。
そして、救助を探しに行く事すら忘れーー否、直感的に間に合わないと判断して、必死に呼び掛ける。
しかしそれも虚しく、ロイドの呼吸は静かになっていくばかり。
「ねぇ、目を覚ましてよロイド……」
「先輩…ロイドぉ……起きてよぉ…」
そして、喉が枯れんとばかりに叫ぶ声は泣き声に変わり、そして乞い願うような声音でエミリーとクレアがロイドの体にもたれかかるようにして呟いた。
気付けば溢れて止まらない涙がロイドの血塗れの服を少しでも流さんと濡らしていく。
「………」
普段ならば涙はおろか弱音すら吐かない強い彼女達の姿を見せても、反応が無く土気色の肌のロイドに、誰もが言葉を失う。
何か言わなければ。起こさなければ。そう思う心とは裏腹に、言葉は一向に出てこない。
戦場と化した王都。
遠くから爆発や金属がぶつかり合う音が聞こえてくるはずが、それさえもまるで自分とは無関係な何かのように耳に入らない。
校庭に、嫌な静寂が訪れていた。
「むにゃ……」
そんな中で、寝惚けたようなロイドの声はそれはそれは響いたものだった。
「「………え?」」
涙を浮かべたまま思わず目を瞬かせるクレアとエミリー。今の声はどこから聞こえてきた?とばかりに首を左右に捻り、そしてロイドへと戻って固まる。
そんな硬直する彼女達の隙間を縫って、無言でフィンクがロイドの脇にしゃがみ、首元、口元に手を添えて確認していく。
「……うん、熟睡だね」
「「〜〜〜〜〜〜っ!」」
フィンクの言葉に、赤くなった目元と同じくらいに顔を赤くさせ、行き場のない感情を声にならない声にして叫ぶ2人が居た事は、言うまでもないだろう。
「先輩っ!起きてください!」
「ロイド、起きなさいっ!」
「おいロイドぉ!目ぇ覚ませよおい!」
「ロイド、起きるんだ!」
「ねぇロイドくん、起きてよぉ!」
薄れる意識の中で、しかし妙にはっきりと聞き取れる自分を呼ぶ声。
聞き慣れた声に、起きてるって、と声を返した。
「僕の弟がこんな所で死ぬなんて許すと思ってるのかっ!」
「ねぇロイド、死んじゃダメよぉ!」
「先輩、先輩っ!目を覚ましてよ、ねぇっ!」
「ふざけんな、起きろよロイドぉ!」
しかしさっきからずっと返事をしているはずなのに、自分を呼ぶ声は止まらない。
それどころか、聞こえる声が遠退いて1人、また1人と声が聞こえなくなる。
「ねぇ、目を覚ましてよロイド……」
「先輩…ロイドぉ……起きてよぉ…」
――最後に聞こえた声に、何とも言えない感情を覚えながら、俺は声と共に意識を失った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「っつぅ……!」
「っ!」
呻く声に、意識を覚醒させたカイン。
それと同時に体を跳ね上げるようにして起き上がった。
そして、素早く状況を確認する。
(俺は気を失って……?!そうか、魔王の破壊魔法の衝撃で……グランやフィンクのおかげで俺の傷は少ない。グランとラピスも無事!)
目覚めたばかりの意識を一気に回転させて素早く状況把握するカイン。そこまで判断すると、バッと振り返って戦場の方を見やる。
そして巨大な穴や、その周辺で倒れるフィンクとエミリー、クレアを見て弾かれたように駆け出した。
「おい、大丈夫か?!」
「……っ。あ、良かった、無事だったんだねカイン」
「俺の事は今はいい!」
「皇太子のセリフじゃないよ。……僕は魔力枯渇なだけだよ。……それにエミリーとクレアもだけど、2人は意識を失ったみたいだね」
そういうフィンクも今の今まで意識を手放していた。
魔力枯渇だけでなく、3人とも『震天』の余波もあって傷はないにしろギリギリで保たれていた意識を途切れさせていたのだ。
「ロイドは?!魔王候補も、どこに?!」
切羽詰まる様子で問い詰めるカイン。その言葉の最初にアドバンではなくロイドの名が出た事に嬉しさを覚えながら、フィンクは視線を脇に空いた穴へと向ける。
「多分だけど……」
「っ!そこか!」
言うよりも早く駆け出したカインは、穴から眼下を見下ろす。暗くて見えない景色を、カインは火魔法で照らして目を凝らした。
そして、目に映った光景に一瞬言葉を詰まらせる。
「っ、フィンク、悪いがグランを起こしてクレアと学園内の治癒魔法の使い手を呼べ!」
そう言いながら穴へと飛び込むカインに、フィンクは「人使いが荒い」などと茶化す気持ちは無く、代わりに嫌な予感に襲われた。
「っぐぅ……!」
激しい頭痛と倦怠感、そして全身の痛みに襲われつつも、体を起こしてグランのもとまで体を引きずるようにして歩くフィンク。
普段なら普通に歩いても数秒もかからない距離を倍以上かけて歩き、グランの体を揺さぶる。
「グラン、起きてくれないか」
「んぁ?…っ!」
一瞬だけ寝惚けた様子を見せたグランだが、1秒と掛からずに意識を覚醒させた。
そしてカインと同じく状況を把握しようと周囲に視線を忙しくなる向けるグランの肩を掴む。
「説明は後だ。すぐに学園内から治癒魔法師をかき集めてくれ」
「っ!分かった!」
それがどういう意味か理解したグランは言葉を一瞬詰まらせつつも弾かれたように校舎へと駆け出した。
それを見送る事なく、フィンクはラピスを起こし、そしてエミリーとクレアも起こして回った。
「あ、わたし……」
最後にクレアを起こしたと同時に、グランが戻ってきた。
「くそ、どいつもこいつも気絶してて起きやしねぇ!」
怒りと焦りを彼らしくなく露わにするグラン。
校舎へと向かった先で、赤竜やアドバンの覇気や魔力に当てられて気絶した生徒達をそれはもうビシバシと叩いて回った。
だが、余程の恐怖と魔力による精神ダメージがあったのか起きる者はいなかった。
苛立つあまりに見覚えのある治癒魔法師の男子生徒なんかは蹴りまで入れたがやはり結果は変わらず。
「一体……それに、先輩は?」
「そうよ、兄さん。ロイドはどこなの?」
周囲を確認する程度には意識を覚醒したクレアとエミリーが、それでも余力のない体をぐったりとさせながらフィンクに問い掛ける。
「そこみたいだね」
その答えは、校庭に空いた穴から返ってきた。
思わずギョッとするクレアとエミリー、ラピス。
すると、それを待っていたかのように穴から姿を現したカインと、その背に力なく身を任せるように脱力したロイド。
「っ、ロイド!?」
「先輩っ!?」
背負われている事で全身は見えずとも、部分的に見える箇所だけでもひどい傷だと理解出来た2人は、倦怠感と頭痛を忘れて駆け寄る。
カインはそっとロイドをおろすと、フィンクとグランに視線を向ける。
「治癒魔法師はどこだ、時間はないぞ!」
「……!」
〝そんな事〟があるはずがない、ロイドならば無事だ。どこかでそう思っていた。
だが、心のどこかで予想していた状況に、しかも対策が出来ない現状に2人は知らず拳を握り締める。
それを見たカインは、信じられないものを見たように目を丸くした。
「おい……治癒魔法師を連れてこいと言ったろう!まだなのか!?」
「全員、昏睡状態だ……」
「なんだと…!ちっ!他の戦場から連れてくる!」
「待て、皇太子のお前を1人で歩かせる訳には……」
「そんな事を言ってる場合か!」
「俺も行く」
止めるフィンクに向かって叫ぶカインに、グランが呼応するように立ち上がる。とは言えカインもグラン、ラピスもフィンク達ほどではないにしろ魔力は枯渇寸前だ。
もし下位魔族の1人だろうと会敵してしまえば危険な程に。
「……ぅ…」
「っ、ロイド?!」
だが、カイン達が駆け出すよりも早く、ロイドからか細い声が漏れる。
そして、段々と小さくなる呼吸。
そして、救助を探しに行く事すら忘れーー否、直感的に間に合わないと判断して、必死に呼び掛ける。
しかしそれも虚しく、ロイドの呼吸は静かになっていくばかり。
「ねぇ、目を覚ましてよロイド……」
「先輩…ロイドぉ……起きてよぉ…」
そして、喉が枯れんとばかりに叫ぶ声は泣き声に変わり、そして乞い願うような声音でエミリーとクレアがロイドの体にもたれかかるようにして呟いた。
気付けば溢れて止まらない涙がロイドの血塗れの服を少しでも流さんと濡らしていく。
「………」
普段ならば涙はおろか弱音すら吐かない強い彼女達の姿を見せても、反応が無く土気色の肌のロイドに、誰もが言葉を失う。
何か言わなければ。起こさなければ。そう思う心とは裏腹に、言葉は一向に出てこない。
戦場と化した王都。
遠くから爆発や金属がぶつかり合う音が聞こえてくるはずが、それさえもまるで自分とは無関係な何かのように耳に入らない。
校庭に、嫌な静寂が訪れていた。
「むにゃ……」
そんな中で、寝惚けたようなロイドの声はそれはそれは響いたものだった。
「「………え?」」
涙を浮かべたまま思わず目を瞬かせるクレアとエミリー。今の声はどこから聞こえてきた?とばかりに首を左右に捻り、そしてロイドへと戻って固まる。
そんな硬直する彼女達の隙間を縫って、無言でフィンクがロイドの脇にしゃがみ、首元、口元に手を添えて確認していく。
「……うん、熟睡だね」
「「〜〜〜〜〜〜っ!」」
フィンクの言葉に、赤くなった目元と同じくらいに顔を赤くさせ、行き場のない感情を声にならない声にして叫ぶ2人が居た事は、言うまでもないだろう。
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