魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる
94 修行
リンドブルムの魔力感知・音により集めた情報から、10日後に魔族を迎え撃つ事となった。
その情報はそれとなくロイドからカインに伝えられ、エイルリア王の迅速の指示のもと、早速迎撃態勢を整える事となる。
当然それはウィンディアにも及ぶ。エイルリア王と親交のあるルーガスにもその情報を伝えんと兵士が派遣される事になった。
が、それをレオンがーーロイドを通してーー止めた。
その情報はロイド達がウィンディア領に戻り、そして伝えるという形をとらせて欲しいと進言したのだ。
カインの口添えもありそれは承諾され、ロイド達はウィンディア領へととんぼ返りする事となる。
そしてその情報を父ルーガスに伝えたのが昨晩だ。
一夜明けて今日、ウィンディア領でも迎撃態勢を整えるべくルーガスから領民に話を通している。
「で、俺はなんでまたここに?」
「聞く必要があるか?」
ウィンディア領が騒然としながら準備や会議――といっても自分が前線に出たいと言い争っているだけだがーーをする中、ロイドとレオンは再びフェブル山脈へと来ていた。
「まぁ、そーなんだけどな」
「残り9日しかない。急ぎになるから覚悟しろ」
現状では『ウィーン学園遺跡』の魔術を扱える実力――魔力操作と空間魔術の熟練度――が不足している事を指摘され、ロイドの修行にあたる事となった。
ちなみにそれをウィンディア領でレオンがウィンディア主力陣に伝えると、のんびり行って来いと嬉々として追い出された。
皆さん魔族という強く珍しい敵と戦える事にテンションが上がっており、ロイドが抜けた事で自分の担当出来る人数が増える事を喜んでいたりする。
ウィンディア家とは領と民を守るべく最前線に立つ、と教えられて来たロイドとしては複雑な心境だ。だって領民が血気盛んすぎて自分より前に出たがるし。
ともあれ、そうしてレオンに連れられて再びフェブル山脈に来たのが魔族侵攻の9日前の朝、つまり今に至る。
「急ぎってもよ。そんな急にどーこー出来るもんか?」
この9日の修行はとにかく魔力操作と空間魔術に慣れる事。
だが、魔力操作とは日々の積み重ねこそが肝要となる。例えば指先の器用さが一朝一夕で向上しないようなものだ。
そして、空間魔術はロイドにとって『神力』あってのもの。
その性能の対価として、身体魔術や風魔術といった汎用的な魔術と比べて莫大な魔力を消費する為、『神力』を用いて行使しているのだ。
そしてその『神力』は魔力に比べて量が少なく、長時間の使用は出来ないのが現状だ。
「するしかないだろう」
「いやそーだけどな?一応毎日魔力操作と空間魔術の練習はしてんだけど」
「お前は魔術の適正がある」
「ん?」
話を唐突に変えられて首を傾げるロイドに、レオンは構わず言葉を重ねる。
「それは確かだ。身体魔術もそう時間をかけずに使いこなした。だから、空間魔術に慣れるのにもそう時間はかからないはずだ。それこそ、9日もあればな」
「まぁちょいちょい使ってる感じ的には慣れてきたとは思うけど、9日ってのはどーだろーな……」
「確かにお前の貧弱な『神力』が保つ間では間に合わないだろうがな」
「うるせぇ」
言葉を切るレオンに悪態をつく。そんなロイドに、レオンは抱えている人物の襟首を掴んでロイドに突き出しながら口を開いた。
「だから、クレアと俺で使用時間を伸ばす」
「あの……女子を持つ持ち方じゃないですこれ……」
「………」
小さく抗議するクレアに、レオンはそっと地面に下ろす。
時間が無いからとフェブル山脈の道中をレオンが運ぶと言い出した。その時にロイドのみならずクレアも抱え、反論や質問をする時間も与えずに走り出したのだ。
側から見れば完全に拉致なのだが、領民はやはりと言うべきかライバルが減ったと喜んで見送っていたりする。
そして生身で新幹線並みの速度を抱えられて移動したクレアは、慣れてしまったロイドと違いグロッキーだったのだが、ようやく話せるようになったらしい。
「クレア、ゲロったら早く楽に…」
「ダメです。先輩、デリカシーです」
「あ、ダメ?」
未だに少し気分が悪そうなクレアにロイドが気遣うが、どうやら乙女として許せない方法に食い気味に拒否られ、ついでに怒られた。
また話が脱線しそうな2人に、レオンは軌道修正をかけるように言葉を割り込ませる。
「俺が魔力譲渡でお前の魔力を補う」
「あーなるほど……てか魔力譲渡とか使えたっけ?」
「当然だ」
嘘である。クレアにやり方やコツを聞き、つい先日習得したのだ。それが何の為かは言うまでもないが、それをロイドに伝えるのは抵抗があるらしい。
それを察しているクレアは微笑ましくレオンを見ていたが。
「そして、クレアに『魔力増幅』をしてもらう」
クレアのスキル『魔力増幅』は魔力を消費してそれ以上に魔力を倍増させる反則的なスキルだ。
しかし、増幅した魔力は一定時間を過ぎると霧散する。
ならば魔術訓練の時間確保には向いてないのでは、と当然思い至ったロイドとクレアは首を捻る。その表情を見たレオンが嘆息混じりに言う。
「俺の魔力を渡すんだぞ?」
「いやそれさっき聞いたけど」
「分かってないようだから言ったんだがな……いいか、クレアの増幅させる魔力量は、クレアが『魔力増幅』に注ぎ込んだ魔力量と、増幅される対象の魔力量によって変わる」
それはすでにクレアから説明があった内容だ。
クレアが1の魔力を持つ相手と10の魔力を持つ相手に、同じ分の『魔力増幅』を行えば、10の魔力を持つ相手の方が大幅に増える。
要するに、クレアの『魔力増幅』の増幅量は足し算ではなく掛け算なのだ。
「それを、俺の魔力に使えばクソガキ程度の魔力を増幅させるより少ない魔力で済む」
つまり、クレアの負担を減らし、その分レオンが大量に魔力を譲渡すると言う事らしい。
「いやでもよ、俺結構魔力多いぞ?」
「同感です。レオンさんが大変になりますよ」
ロイドは魔術を使い始める以前からフィンクさえ上回る魔力量を有していた。魔術を覚え、訓練と実戦を経た現在は当然更に多い。
それを上回る量を負担するとなると、ルーガスやシルビアでもそう長くは保たないだろう。
それを懸念して心配そうに言うロイドとクレアに、レオンはさらりと言う。
「心配しなくていい。俺の魔力はそこのガキの千倍以上はある」
「………………………え?」
ロイドと比べて圧倒的に優しく接するクレアに、やはり彼にしては柔らかい口調で悟すレオン。
だが、その言葉に思わず言葉を失ってしまう。
「あー……」
一方でロイドは心配しておいてなんだけど確かにな、みたいな表情を浮かべる。
気が遠くなるような長い年月を、レオンはただ過ごしていた訳ではない。
いつの日か『不死』から解き放たれる時。それは魔王との再戦となる可能性が高いと気付いていたレオンは、戦闘訓練に加えて魔力の総量を増やし続けてきたのだ。
そして今。もし仮にレオンが風魔術を使えたならば、彼個人の力だけで国を滅ぼす天災を引き起こせる程の魔力量となっている。
「とにかく、それを9日。その間に空間魔術をものにしろ」
それ程までの魔力をクレアのスキルで倍増すれば、『神力』を使わずとも空間魔術を行使するに十分な魔力となる。
そして空間魔術を習熟すれば、新たな魔術を手に入れるだけの余裕、つまり許容量が生まれるという話だ。
更に言えば、空間魔術という扱いの難しい魔術を使っていれば、否応なく魔力操作能力も向上するだろう。
「クレアには悪いが、9日ほどこいつに時間をやってくれないか」
「あ、はい。それは全然構わないです」
「すまない。対価はロイドからしっかりふんだくってくれ」
「分かりましたっ!」
「おい?!」
そんな事を話しつつ、ロイドは修行へと身を投じたのであった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
話の途中にすみません。
なんか気楽な話が書きたくなって別作品出します。かなりゆっくり更新になると思いますが、良ければ暇つぶしに。
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